六弦と神畑/灼カバ レクリエーションでバスケをした。
神畑が入ったチームが圧勝してしまい、勝負にならなかった。
肘に軽い衝撃。高らかに笛が鳴る。
「ファール!」
突きつけられた山田の指はいったん無視して、六弦は持っていたボールを床に転がし、倒れた王城に手を差し伸べた。
「すまん、大丈夫か?」
「うん」
倒れることに慣れている攻撃手らしく、彼はすぐに立ち上がった。腕にかかった荷重は、驚くほど軽い。
駆け寄ってきた審判役の山田は、なぜか得意げな顔で六弦に告げた。
「ファール二回目だから、退場だな」
「……そういうルールだったか?」
六弦は首を傾げたが、特に反論する気はなく従った。代わりに、別のメンバーがコートに入る。
六弦はタオルを取り、汗を拭きながら壁際に向かう。そこには既に、満場一致でコートを追い出された神畑が座っていた。
「見ているだけじゃつまらんだろう」
「たかが遊びだ」
神畑は片手に参考書を持っていた。彼らは三年生で、冬には高校受験を控えている。彼らしい真面目さに感心しながら、六弦はその隣に腰を下ろした。
「それにしても背が高いというのはデカいな。バスケとかバレーとか身長が有利になる——そういうスポーツは考えなかったのか?」
「未だに勧誘されるよ。そう簡単なものだとも思わないが」
ため息まじりに神畑は答える。
「有利不利だけで選ぶものではないだろう。勿論、きっかけにはなるが」
「まあ、そうだが」
「それにバスケットでも身長が低くとも活躍してる選手はいるぞ。日本人で初めてNBAに行った選手はお前より小さかった」
「む……そうか」
六弦は頷いた。彼と話しているときはいつもこちらが頷いている気がする——そんなことを思いながら。
「お前は?」
「ん?」
「カバディを始めた理由」
意外な問いだった。内容も、それを聞いたのが神畑だということも。
六弦はしばし思い返す。
「勧められたからだ。向いているんじゃないかと」
「そうだな」
明確な答えではなかった。けれどもそれ以外思いつかない。
「なら続けているのは?」
「んん?」
さらに重ねられ、六弦は首を捻った。
けれども今度は、先に神畑が答えた。
「ままならないから面白いということもある」
いつの間にか彼は参考書から顔を上げ、コートを見ていた。視線を辿ると、その先には不破がいる。いつの間にか交代していた山田と競っていた。不破はいつものように機敏に動いていたが、何事にも器用な山田の方が上手に見えた。珍しい光景だった。
「そうだな」
六弦は頷いた。ちょうど山田のパスを受け取った外園を止めようとし、ぶつかった王城が床の上をころころと転がっていった。