雨彦は最近少し変わったように思う。
これまでもよくクリスの話を聞いてくれていたが、最近は雨彦の方からクリスのことを聞いてくる回数が増えたような気がするのだ。クリスが雨彦のことを尋ねた時も、曖昧に流されることが減り、素直な言葉で答えてくれることが増えた。
そして変化はもう一つ。
クリスに触れる雨彦の手にも、これまで僅かに垣間見えていた躊躇いがなくなっていた。
「古論」
二人きりの部屋の中で、雨彦が真剣な眼差しでクリスを見つめてくる。クリスは照れたように顔を背けようとするが、雨彦がクリスの頬に触れてやんわりとそれを防いでしまった。
雨彦と関係を持つようになったのはいつからだったろうか。クリスは密かに雨彦に想いを寄せているが、その想いを伝えたことはないし、雨彦がクリスをどう思っているのかもわからない。恋人と呼ぶには遠く、セフレと呼ぶには近すぎる、曖昧な関係だった。
雨彦は必要以上にクリスに触れることはしない。クリスに伸ばされる雨彦の手に、いつも少しだけ躊躇いの気配があることに、クリスは気づいていた。
だが最近の雨彦は、その躊躇いがどこかへ消えてしまったようだ。迷いなくクリスに触れ、とびきり優しく微笑んでみせる。
これではまるで、恋人同士の触れ合いのようではないか。
そんな考えに至ってしまい、クリスは思考を振り切るように雨彦を見上げた。
「雨彦は最近少し、変わりましたね」
「そうかい?」
クリスの言葉にふっと笑う表情も、良い意味で肩の力が抜けた、これまでよりも柔らかいものになったと思う。
言葉を交わす間も、雨彦はクリスをじっと見つめている。クリスはそれが少しだけ落ち着かない。
「以前より私のことを聞いてくれるようになりましたし、雨彦のことを教えてもらえるようにもなりました」
「お前さんのことがもっと知りたいと言っただろう?」
「それは、ユニットとしての話では……」
「それだけじゃない」
クリスの言葉に小さく首を振りながら、雨彦はクリスの頬を撫でる。
「ユニットとしてだけじゃなく、俺個人としても、お前さんのことがもっと知りたいし、俺のことを知ってほしいのさ」
真っ直ぐにそう伝えられて、クリスは思わず赤面した。
雨彦はいつだってスマートで、これまでもその挙動にどきりとさせられることがあった。だが雨彦は誰に対しても優しくて、クリスだけが特別なわけではない。
そう考えることで、変な期待を抱かないようにしようと、自分に言い聞かせていたはずなのに。
今の雨彦の目には、隠す気のない熱が宿っている。
これでは言い訳ができない。こんなのは知らない。
「どうして……」
心臓が早鐘を打っている。
雨彦の答えを聞いた時、何かが変わってしまうような予感がした。
「我慢するのをやめることにしたのさ。だからもう、お前さんのことも離してやれそうにない」
「雨彦、それは」
クリスの言葉を遮るように、雨彦がクリスに唇を重ねてくる。顔を寄せたまま、雨彦が囁いた。
「古論、俺はお前さんのことが欲しい。お前さんのことが好きなんだ」
それは、クリスがずっと欲しかった言葉だった。