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    雨クリワンドロ7/23
    お題:夕立
    もったいないので供養しておきます。

    #雨クリ
    raincoatClipper

     昼過ぎまで晴れていたはずの空は、気づいた時にはすっかり厚い雲に覆われていた。雨彦と事務所へ向かう途中だったクリスが、おや、と空を見上げると、ぽつりと雨粒が頬を濡らす。
    「傘はあるかい?」
     隣からの問いかけに首を横に降ると、雨彦は俺もだ、と言いながら苦笑した。
     遠くからはゴロゴロと低い音が響いて、本格的に降り出しそうな気配だ。道を行く人たちも、不穏な空の様子に足早に動き始める。
    「古論」
     雨彦は一つ名前を呼ぶと、ぐい、とクリスの手を引いて走り出した。
     それが合図だったかのように、雨は急に勢いを増して、建物や地面を打つ音がざあざあと響く。さっきまで乾いていたはずのアスファルトもすぐに水浸しになって、一歩踏み出すたびにばしゃりと音を立てた。
     すれ違う人たちは急な土砂降りに慌てた様子で、クリスと雨彦のことなど目もくれない。立場上、外で手を繋ぐなんてご法度だけれど、この状況であれば、何とも思われることはないだろう。
     ものの数分で、見慣れた弁当屋の黄色い屋根が視界に入る。ほんの僅かな距離だったはずなのに、建物に入る頃にはすっかりずぶ濡れになっていた。ずっしりと水分を含んだ衣服は重く、肌に張り付いている。
    「大丈夫かい?」
    「ええ、ありがとうございます」
     事務所の中を水浸しにするわけにはいかないだろうと、入口から声をかけると、賢が慌てた様子でタオルを持ってきてくれた。中へは入らずに、タオルで可能な限り水分を拭っていく。
    「何か着替えになるものがあると良いのですが」
     そう言いながら、クリスはふと雨彦の方へと目を向けた。先程までしっかりとセットされていたはずの髪は、雨に濡れて乱れている。白い肌を水滴が伝って落ちていく様子に、思わず目を奪われる。
    「古論?」
    「水も滴る良い男、というやつですね」
    「それを言うならお前さんだろう。ほら、早く拭かないと風邪ひくぜ?」
     自分の方はそこそこに、雨彦は手にしていたタオルをクリスの頭に被せて雨を拭う。海から帰ってきた時やシャワーを浴びた後にも、雨彦はこうしてクリスの濡れた髪を拭きたがった。
    「雨彦も濡れているのですから」
    「いいから任せな」
     そう言う雨彦がどこか楽しそうに、慈しむように目を細めるから、クリスは何も言えなくなってしまう。すっかり慣れてしまったその手は、ただただ心地が良い。
    「よし、こんなところか」
    「ありがとうございます、雨彦」
     満足そうに頷いた雨彦は、まだ濡れたままだ。ならばクリスがやるべきことは一つだろう。
    「次は私の番ですね」
     自分がそうされたように、クリスが雨彦の頭にタオルを被せてやると、雨彦は少し驚いたように目を瞬かせた。
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