懐かしき匂い(信乃敦) 夢を夢と認識することは容易いことではないが、それでも時折これは夢であると思いながら見る夢もある。
そういうときの夢は視界は少し霞がかってぼやけ、耳に入る音は少し遠い。触れたり、何かを食べたりしたことは無い。大抵はそれをする前に夢が覚めてしまうのだ。
今、懐かしい夢を見ている、と敦豪は自覚していた。
真っ白い壁に飾られた沢山のキャラクターたち。性別年齢様々な子供たちで溢れ、時に騒がしく、時に恐ろしいほどに静まり返ることもあるその場所。幼い時に何度も目にした小児科外来。
もう何年も目にしていないその風景に敦豪はゆっくりと目を細める。鼻を擽るのは病院独特の消毒液と、それからバニラにも似た甘い何かが混ざり合った小児科独特の香り。
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