むじょうけんにこうふく(信乃敦) いつかそんな日が来るとはわかっていた。成長は喜ばしいことだ。でも突然にそれがきてしまうと心の準備が。いや別にそれを咎めているわけではないし悪いなんて一つも言ったことがない。成長痛、はいはい、成長痛ね、生憎だが俺はそれを経験したことがなくてな。だから何回も言っているが悪いなんて一言も言ってはいない。
要約すると信乃に身長を抜かされて悔しい、という話をコウから延々と聞かされている日付の変わる十分前。テーブルの上には数本空になったアルコールと、冷蔵庫にある食材で適当に作ったつまみ。こんなもの酔っぱらいの戯言だと思われるかもしれないが、この男はいたって素面である。酒を飲んでいないわけではない、ただこの男は酷くアルコールに強いだけなのだ。こんなティーンみたいな可愛らしい顔をしておきながら。
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