Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    nanana

    @na_7nana

    @na_7nana

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 67

    nanana

    ☆quiet follow

    隆景と信乃が服を買いに行く話。
    CPなし。兄貴がデレ気味。

    #ハンデッドアンセム
    handheldAnthem
    ##ハンセム

    きらきらかがやく(隆景+信乃) 日中の好天のせいでオレンジというよりも真っ赤に染まっていた空が徐々に紫へと変わり暗くなっていく。そんな秒単位で変化する光景を窓の向こうに眺めながら隆景は大きく背筋を伸ばした。コウ様は県外へ出張中、あのいけ好かない男は本業の方のトレーニング中。そんなわけでこの部屋には隆景と宿題を片付けている信乃だけいかいない。
     珍しく仕事の片が付いたのだ、今日くらい残業も無く帰ってもいいかもしれない。そんなことを思いながら机を片付けていく。向かいの席の信乃は相変わらず学校の宿題に唸ったまま。
    「信乃、俺はもう帰る予定だがお前はどうする?そういえば今日はコウ様は出張だがお前は夜どうするつもりなんだ」
     ロッカーからコートを取り出しながら尋ねれば、丸い紫色の瞳がこっちを見上げる。手元にある問題はどうやら物理らしい。遠い昔の記憶を引っ張り出してみたけれどちらりと見える問題は一問も解けそうにない。それを唸りながらでも答えを見ることなく順調に解いていっているのだからやはり頭のいい子だと思う。
    「俺ももう高校生だし、一晩くらい一人で大丈夫だ。それに夕飯は敦の兄貴がうまい飯食わせてくれるって。トレーニングが終わるまでここで待ってろって言われてるからもう少しここにいる」
    「そうか」
     コートを羽織ってマフラーを巻く。何もしちないそんな特別な動作だというのに、どうしてだか信乃の視線はこちらに向いたまま離れない。あまりにも熱烈なそれにいたたまれなくなって目線を再び合わせれば狼狽えるでもなく綺麗ににこりと笑われた。それがあまりに堂々としているのだからやましいことなど何もないというのに思わずこちらがたじろいてしまう。
    「……何か言いたいことでもあるのか」
    「いや別に、ただ隆の兄貴は今日も格好がいいと思ってな」
    「褒めても何も出ないぞ」
    「褒めたっていうより事実を言っただけなんだがなぁ」
     ぽりぽりとペンで頭を掻きながら信乃は言う。
    「だから褒めたって何も――」
    同じ言葉を繰り返そうとしてはたと思考が止まる。むしろ何か出してもいいのではないだろうか。そんなことをふと思いついた。メンバーに加入した時から信乃はできすぎていた。年相応の我儘も言わず、大人に混じって大人と遜色無く活動をこなす。もっと信乃は欲しがってもいい。というよりも何か与えさせろ、そんな一歩間違えれば押しつけがましいような欲が湧いた。
    「いや、褒めてもらった礼をしよう。何がいい?」
    「うぇ!?」
     綺麗な高音を正確に紡ぐ信乃の声帯が珍しく蛙の潰れたような声を出した。言え、いらない、遠慮するな、そんなつもりで言ったわけじゃない、そんな不毛なやり取りを繰り返すこと三分間。ついに信乃が白旗を上げる。
    「それならさ、隆の兄貴みたいな服をみつくろっちゃあくれねぇか?隆の兄貴みたいなシュッとした服も着てみてぇ」
    「なんだ、そんなことでいいのか」
    「そんなことって、貴重な隆の兄貴の時間をもらうんだ。重要だろう」
    「お前に使う時間を無駄だと思ったことは一度もない。それならば今からはどうだ?まだ宿題が終わらないか」
    「いや、丁度きりがいい」
     信乃はノートも筆箱も、入学祝にコウ様にもらったという鞄に全部詰め込んで立ち上がる。羽織ったコートは中学生のときから着用しているもので少し薄汚れてサイズも小さい。これも新しいものを選んだ方がいいだろう、そんなことを思いながら二人そろって部屋を後にした。

    ***

     隆景にとっては馴染んだ、信乃にとっては見慣れないお気に入りのブランドの服屋の扉を開く。まだマフラーもコートも手放せないというのにその空間はもう春を先取りしている。
     歩きながらどんな服が欲しいのか聞いた。とにかく頭領の横に立っても見劣りしないものがいい、という心がけは立派である。どっかの誰かに聞かせてやりたい。服の種類なんかはよくわからねぇが隆の兄貴みたいな恰好がいいやつがいい、と大きく輝くアメジスト色の瞳で見上げられるのは悪い気はしない。
     信乃がもう一回り小さかったあの雷の日からあの時ハンカチを受け取らなかったことを後悔し続けている。受け取っていればコウ様は怪我をせずにすんだ。子供だからと侮った自分の咎である。けれど、あの日ハンカチを受け取らず、コウ様と信乃は出会わず、コウ様が怪我をしなかったとしたならば今はない。
     そう、こんな未来は無かったのだ。寂しいと、そんな感情すらアライバーのようにしまい込んだ自分たちの代わりに信乃が感情をぶつけてくれることもなかった。
     目を白黒させながら値札を気にする信乃をとりあえず試着室に押し込んで服を選んでいく。あれもこれもと選びすぎてしまうのは、きっと信乃の色々な面を知りすぎているからだ。
    「隆の兄貴、俺、あんま高いのは買えねぇぞ」
    「いいからこれ着てみろ」
     コウ様のように信乃の家族のように接することはできないし、あの男のように自然に信乃を甘やかすことはできない。距離の近さで言うならばきっと自分は一番信乃から遠い。
     何着か試着をして一番信乃が気に入ったものに決める。一番値段のはるものだったから本人はそうは言わなかったけれど、鏡を見た時に瞳孔が大きくなったからおそらく間違いはない。
     すぐにレジに向かおうとした信乃から服を取り上げて制止する。こてんと不思議そうに首を傾げる信乃の柔らかい髪が揺れた。
    「コウ様のマフラーがほつれていた。新しいものを差し上げたい、信乃、一緒に選んでくれるか?」
     勿論だ、と嬉しそうにマフラーの売り場に急ぎ足で向かう信乃に気が付かれないように服とカードを店員に渡す。あの男よりは信乃とは距離があるとは思っている、けれども信乃のことを甘やかしたいと思う気持ちは負けているつもりはない。
     いつの間にか支払われていた服にきっと信乃は驚くだろう。それから申し訳ないという顔をして、できたら最後は喜んで欲しい。
    「いつの間に払ったんだ?やっぱ隆の兄貴はスマートで格好がいいな」
     態度には出さないようにしているけれど、誰にもばれたくはないけれど、信乃にとって格好いい兄貴分のポジションは絶対に譲りたくはないのだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works