景儀と阿願と羨羨藍景儀はその日、朝から緊張に体を固くしていた。
父上に手を引かれ、来年から座学を教えてもらう藍先生へ挨拶へ行く。
普段、大変元気の良い少年である彼は、今日は黙って大人しく付いてくること、藍先生は非常に厳しい方だからしっかり挨拶をし礼儀正しく振る舞うこと、そして決して傍を離れないようにと言い含められていた。
そうしてやってきた室で相対したのは、にこにこと穏やかな空気をまとった宗主と、その隣で鋭い目を向けてくる藍先生。
目線に竦みつつも、先生が撫でつける度よんよんと揺れるお鬚に釘付けになっていると父上に肩を小突かれた。
慌てて、教えられた通りに拱手する。
「藍宗主、藍先生に藍景儀がご挨拶申し上げます。」
噛まずに言えたし、なかなか上手く出来たんじゃないだろうか。
達成感に満足した景儀は、ちらりと隣の父上を見上げた。
目があった父上は、とたんなぜか残念そうな顔をし溜息を一つ。
「ふふ。溌剌とした子だ。そのまま素直に元気に大きくおなりなさい。」
「うむ。これから多くのことを学ぶであろう。修練に励むように。」
小首を傾げている俺に、宗主と先生はそれぞれ言った。
挨拶が終わってしまえば、大人たちの会話が続く。景儀に内容はさっぱりわからない。
すると、退屈だろうから散策でもしておいでと宗主に勧められ、一人広い雲深不知処内を探検に出掛けた。
宗主曰く、裏山には兎が住でいるらしい。
「厨で野菜くずを貰うとよい」と藍先生も添えてくれた。
お二人とも兎が好きなのかな。