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    choko_bonbon

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    #五七
    Gonana

    高専5×人魚7【あらすじ】本家の敷地を歩いていると、離れのひとつから聞き慣れない水音がした。
    雑多なものの詰まった、いわゆる倉庫だったはずのそこから聞こえるのには、水音など不可解である。
    いぶかしんで中を覗くも、やはりガラクタとしか思えぬ物がひしめき合っているだけ。その奥から、微かな水音が続いている。
    音源を求め辿り着いた最奥には、区切りとして明らかにおかしい、襖が設えてあった。ただの倉庫としていたはずの倉の奥に、襖とはこれいかに。
    そっと開けると、中には大きな水槽が鎮座していた。
    たっぷりとした水中には、ひとりの男が全身を沈めて浮かんでいる。
    死んで居るのか。
    人形か。
    誇る慧眼で見ずとも、どうやら後者だと分かった。
    なにせ男の下半身は、腰からゆるゆると鱗に覆われた魚になっていたから。これは、人魚を模した人形だ。
    分かって近づき。そういえば、襖を開ける瞬間まで水音がしていたのを、はて、と五条は訝しむ。
    中身が人形なら、水音を立てていた人間が誰かほかにいるはずだ。調査のため、水槽の周りをぐるりと歩いて回ることにした。
    その間、水槽の中身に五条の目は釘付けだった。
    水中に揺蕩うのは金の髪。日本にも人魚伝説はあるが、これは異国の生き物として作られたらしい。そのうえ、上半身は鍛え抜かれた男の姿。色や格好が物珍しく、じいっと魅入っていれば。

    ぱちり。

    「は?」
    髪色と同じ、金の睫毛を持つ瞼が揺らぎ。瞳が開かれる。
    きょろ…と目と鼻先を右に振ってこちらを向いたのは、足音に反応してのことらしい。
    白い鱗と対照的に、瞳は色鮮やか。翠と蒼を混ぜ込んだ、異国の色。
    こぽぽ、こぽ。ごぽ……。
    『ゴジョウサン』
    名前を囁かれた気がして驚く。この人形は喋るのか。
    混乱する五条の目の前で、透き通る尾びれがまったり揺らぎ。人形だったはずの人魚が生きた動きで水面より顔をだす。
    「おまえ……は?なに?生き、てんの?」
    「キュアア、キュ、キュォ」
    「マジか。何言ってんのかさっぱりだけど、さすが本家。やべーの飼ってんな」
    「キュッ!」
    強い語気と共に、器用な尾びれが、じゃぱっと水をかけてくる。どうやら五条は彼の逆鱗に触れたらしい。
    濡れた服を払い、サングラスを省いてよっくと人魚を見つめた。目は口程に物を言う。
    「飼われてる、っつったのを怒ってんの?」
    分かったなら良し。
    ツンとした態度に、いつもなら苛ついているところを。今日この時ばかりは、なんだよ怒るなよ、と思うだけ。ごめん。と謝罪が口をつく。
    「そんで、オマエなんなの?なんでこんなところにいんの?外でたくねぇの?つか、本物の人魚?それとも、なんかの術式?俺の六眼でも見極めきれねぇって、なに?」
    矢継ぎ早の質問に、人魚は複雑な表情を浮かべる。
    懐かしいものを見る目。
    困惑した喉。
    今にも泣きそうな眉間の皺。
    色々と言いたいことがあるのだろう、口がはくり、と開閉し。
    「キュー……」
    か細い声をあげたかと思うと、五条の手が取られた。心地よい、しっとり濡れた頬が寄せられた。白い肌が吸いついてくる。
    「なんでそんな泣きそうなんだよ。最強の俺が見つけたんだ。こっから出してやるよ」
    海に返せば気は済むだろうか。
    彼の求めている願いは、それとは違う気がして胸がざわつく。
    今あったばかりで、彼の何をも知らなくて他に願いがあると思う自分は、どうかしている。
    なぜ、頼まれてもいないのに、この人魚を助けてやりたいのか。自分で自分の言動に驚くばかりだ。
    この人魚は、俺を待っていた。
    そう感じるのはなぜだろう。
    浮いて来た下半身。艶めく鱗を撫でて、彼が魚と人の間であることを認め。
    不意に触れた五条の手を、熱がる彼にまた素直な謝罪がこぼれる。金魚と一緒。人の体温は彼ら人魚にとって熱すぎるのだろう。
    「頭、触っていい?」
    「キュ……」
    人の部分である上半身なら、人肌も平気か。
    金の髪が、濡れて額を隠しているのが気になっていた。ぐいと近寄る額から、手のひらで後ろへ撫でつけたところ。なにか電流じみた衝撃が走って頭が痛くなる。
    「ほんと……オマエなんなんだよ」
    頭を掻きむしっていると、筋肉質な腕に迎えられ、強く抱き締められてしまう。濡れる、と言いかけた文句が喉奥につまる。それだけ締め付けられているのだ。
    「キュゥ、ァオ」
    『ずっと、待っていました』
    低い男の声が頭に甦る。いや、甦る、という言い方はおかしい。聞いたことのない声なのだから。しかし人魚の彼が人の言葉でしゃべるなら、きっとこの声だろうと頭から湧いてきた音だった。
    「ずっと、待ってた……俺を?」
    なぜわかった。
    と言わんばかりの顔に、してやったり。
    金の髪を振って、青緑の瞳を潤ませ。人魚は今にも泣き出しそうな顔で、五条の肩口に鼻筋を埋めるのだった。
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