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    choko_bonbon

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    57の日!
    #五七版GW企画の1「ドライブ/腕時計/見ないで」をお借りして。

    キスして、お風呂にもつれ込む57深夜、伊地知の運転する黒い車体だけがぽつねんと、人の往来が減った繁華街に向かって走る。車内には、ごお、と路面を滑るタイヤの音とそれから。
    ――コツ、コツ、コツ。
    ふかく整えられた爪の先が、時計の文字盤に嵌るガラスを叩く音が響いていた。
    規則的な音色は、秒針が動くごとに振り下ろされているらしく。刻一刻という言葉を堂々と背負いながら、伊地知の心臓を縮み上がらせている。
    「っ、その……申し訳ございません、でした」
    バックミラーへ視線を投げ、後部座席の様子を確認すれば。伊地知にだけ分かる、極度に苛ついた様子の男が、その視線に気付いてにったり笑いかけてきた。顔の上半分が隠れていたとして、美人が怒って微笑むと、より一層の恐ろしさがある。
    悪いと思ってんなら、呼ぶなよ。
    微笑みは、そう言いたげだ。
    「本日は五条さんも……七海さんも、お休みの予定、でしたのに」
    「うんうん。三日も休みくれるっていうから浮かれて、温泉まで予約してたんだよね~。行くのは明日、っつか、今日の夕方からだけど」
    「そ、れは、その……ほんとうに、大変申しわ、」
    「でもなんで伊地知が謝るの? 呪霊の発生に時間なんて関係はない。仕方がないよね?」
    広々とした後部座席の空間を占領する、長い脚が組み替えられた。五条の手首に嵌る腕時計が、車窓から差し込む街灯を反射してキラリと光り輝く。それはまるで、彼の蒼い目に宿る鋭利な視線を表しているようで、知らず喉がごくりと唾を呑み込んだ。
    「伊地知が謝っているのは……せっかく二人でヘトヘトになってまで仕事を終えて帰ったところで、ベッドに入ってすぐに、七海にだけ、呼び出しがあったこと?」
    伊地知の肩が竦められた。
    そうだ。そう。今回の急な要請は、補助監督内での情報伝達ミスによるところが大きく、それ自体に謝罪を述べているところもあるが。それでいて、よもや、七海にだけ緊急の要請が、直接つなげられてしまったことにある。この二人が一緒に居るだろうことは明白なのに、よりにもよって七海にだけ。
    「いいよね、七海は。はじめこそはなにか言うかもしれないよ? 『こういうことにならないよう、今後は、早くにスケジュール調整をしてください』って、お小言とかを言うよね」
    イントネーションと痺れる低音が妙に似ている声真似に、伊地知の肩は今度、ビクリと大きく揺さぶられてしまう。ハンドルを握り直して、前を見据えるが、それにしても後部からの圧に気圧されてしまう。
    「でも実際には、なんの糾弾も咎めもなしに、そういうことも在るよねって黙々と仕事をこなしてくれるんだろ? ほんと優しいよ、アイツは。そりゃあ、こういう事態に頼りたくもなるよねぇ」
    膝頭に組んだ腕を乗せることで前のめりになった五条に、ギロリと見上げられている感覚が左半身に刺さってくる。冷や汗ものだ。それが例え、伊地知を脅す為にしていることでないのをわかっていたとしても。
    この人はあくまで、次は気をつけろよ、とだけを伝えたいのを、伊地知は長年の付き合いで理解している。優しく諭すなんて柄で無く、七海のように簡潔な言葉で淡々と指摘をするのが難しいことも分かっているのだろう。
    「ま、早くしてよ。さっさとケリつけて、伊地知だってはやく帰りたいだろ」
    「え、えぇ。まぁ……」
    機嫌はそこそこ、といったところか。このぶんだと、これ以上は胃を痛めるほどの糾弾は自分に向けられなさそうだ。
    そう安堵したのも束の間。
    眼鏡を押し上げた耳の傍に、五条の顔の近寄る気配がした。
    「七海が動ける身体かどうかの確認も怠って、アイツなら絶対に受けてくれるだろう、って気が満々の指示送ってきたやつが誰かは、あとでちゃんと教えてね」
    ゾクリと震えた指先。
    ひッ、と悲鳴じみた声で喉に入ってくる空気が冷たい。
    伊地知は眉頭をこれでもかと近寄らせた。
    何時まで経っても思い通りにならない最強の男の牙城を崩すのに、恋人の存在を利用する上層部の考えは概ね成功だ。けれど、この人は、そんなことをされた証拠を確実に掴み、逆に食らいついてくる男だと言うのを、上は何度やったら理解するのだろう。
    伊地知は肺の奥底から息を吐き出した。あわせて五条の息遣いも、耳にかかる。
    「現場ついたら、五分で終わらせるから、その間に、調べ終えといてね」
    先輩の無茶振り、にしては、なかなかに強い圧のかかる命令。けれど、事務方でありながら仮にも現場で生きる伊地知には、上層部からの評価などどうでもいい。大切な戦力であって、なにより大切な先輩たちである。自身にとって大事な人らを無下に扱う連中のことは、その後がどうなろうと知ったこっちゃない。
    五分は短すぎます、とだけを言って、伊地知は閑散とした街の通りへ車を滑り込ませる。一級呪術師の七海にお鉢の回された案件であっても、特級を冠する最強にとっては事実、五分で終わるだろう現場。これは、気合を入れねば男の期待には添えまい。
    気張れよ、とは自分自身に言い聞かせる最中。コツ、コツ、と硬質な音が、またも響いて思い至った疑問に、口を開いた。
    「あの……ちなみに、なのですが」
    「なに?」
    この時間になっても楽しげに歩き回る人らを、スモークのかかった後部座席の窓ガラスに額を当てて眺めていた五条が振り返る。
    五条は、伊地知を含めた補助監督を時計がわりにしている節があり。こういった場面なら特に、装飾品なぞ邪魔扱いする人間なのだ。そんな男がこれ見よがしに、重厚感のある時計を巻いているなんては、かなり珍しい。加えて、その腕に回る時計の、鈍い反射をもたらす金属ベルト、金属フレーム、僅かに音を発する秒針たちは。七海が普段の仕事で愛用している高級時計で間違いない。それがなぜ、五条の腕に嵌っているかの理由を問いたかった。
    そも、緊急要請のメールは七海の携帯に送られたもの一通のみであり、了承の返事もまた、七海の携帯からであったから余計に、七海の安否が気になった。
    「七海さん、動けない、のですか?」
    これらは当然の疑問だろう。胃の冷える想いで迎えに行った先で、五条が片手をあげて待っていて驚いたのが鮮明に思い出される。七海さんは、との問いは、返事もそこそこに車に乗られ、発進を促されてしまったわけだ。
    「それ、訊く?」
    「え? なにか、不味いことでも?」
    「いいや。まぁ……オマエが心配するようなことは何も無い。大丈夫だよ。ただ単に僕が、現場に来て良い顔じゃないって判断して、部屋に置いて来た」
    ふっ。と鼻を鳴らして笑う顔が、嬉しそうな音色であって、頬が引きつる。五条が腕時計を撫でる動きが、それひとつで何故だか酷くなまめかしく。怖気に似たものを感じ、伊地知は七海が留守を任された事由を確信した。
    なるほど、そういうことなら野暮な質問は止めよう。
    ぐっと握り直したハンドルを右に回した先が、今回の現場で助かる。余計な詮索であからさまな惚気を耳にした伊地知を、最終的に叱るのは七海であるから。子供じみた先輩の怒りの抑え方は熟知していて、誰より大人の先輩に叱られるのは、いつまで経っても慣れないことだから。


    『好きな子から、お守り代わりに時計を借りたら、ビックリするくらい力が湧いちゃった』
    こんなセリフ、学生時代なら、あの堅物で通っていた七海だって巻込んだ全員で、馬鹿笑いできたはずだ。いまだって、医務室に七海を連れて行った三人で話し込めば、アルコール抜きであって爆笑を攫えるかも。
    五条は鼻歌交じりに時計の嵌る腕の重みへ浸り、もう一本の腕であっさりと呪霊を薙ぎ払って行く。さすが一級呪術師へ回されるべき仕事。五条ともなれば片腕一本だが、なかなか骨の折れる仕事だ。不意を突いた嫌がらせと思っていたが、なかなか上層部には嫌われ者である自覚はある。これは相当用意の重ねられた案件らしい。
    「帰ったら、さっさとシャワー浴びないと」
    反撃なんて、返り血なんて。そんなものは総て透明な壁が防ぎ、五条を清いままでいさせてくれる。それでも、好きな子はそれ以上に清らかな男だ。
    せっかく、風呂で互いの身体の輪郭を、外から内まで隅々知った、濡れたムードを保って柔らかなシーツに寝転べたのに、あのジジィ共め。
    奥歯を噛みしめる、怒りのバロメーターが極みへ触れ切った事による笑いを元にして、再度腕を揮って空間ごとおどろおどろしき姿を断つ。
    はやく帰って、シーツのなかに残した恋人の、火照った身体を持て余す額にキスをしたい。腕のなかに閉じ込めた筋骨隆々を、自分の手ずから蕩かして。理性で創り上げられた見目麗しを、『アナタだけの私』というやつに仕上げたい。
    「さ~て。もういっちょ、ぶちかましますか」
    外では可愛い後輩が懸命に、方々へ電話をかけている頃合いだ。まったく、後輩に関しては出来る子らが多くて助かる。
    さて、伊地知の調査をもとに、休日を謳歌した後の復讐計画は完璧に練り上げて帰りたかった。玄関を潜ればただの恋人として、やすらぎをもって過ごしていた自分らを。厚顔無恥なる尊大な態度でもって、冷徹な仕事人へと引きずり戻してくれた、情の欠片すら失くした可哀想な連中を、思う存分いびり倒してやりたくてうずうずする。
    「七海が素直になってくれた夜を邪魔した罰は、か~な~り、重いんだからね」
    けらけらと笑って特大の呪霊を祓い。伊地知の報告を聴きながら帰る車に乗るまで、あと、数分。


    気配を察して玄関口へ迎えに行くと、扉を開けた男の背後には、ちんまりと肩を竦めるスーツ姿があった。
    「伊地知くんが運転だったのですか。お疲れ様です」
    パジャマの袷はしっかり締めていて、肩にかけたブランケットがわりのストールで、首元を隠すように布を掻き抱いた。まさか成人済みとはいえ、後輩相手にあられもない姿を見せるのは恥ずかしい。すでに自分と五条の仲が密接なものだと知られていたところで、大人として、他の大人に微妙な笑顔を向けられるのは居た堪れなさすぎる。
    「ちょっと! よその男がいるのに、そんな可愛い格好で出て来ちゃダメだろ!」
    本来は七海が、若い補助監督に泣きつかれて渋々受けるはずだった任務を、超スピードで終わらせてきた五条である。これでやっと休日を謳歌できると、煌びやかな素顔を晒した彼は子供のように七海に抱き着くことで、ゆったりとしたパジャマ姿を伊地知の目から隠した。
    「別に。アナタ以外、誰も欲情しませんよ。こんな身体」
    ひっそり語りかけるが、白く長い睫毛を越して見上げてくる瞳は真剣で。その下の形の良い唇は尖り、頬がぷくんと膨らんで拗ねた雰囲気を醸し出していて愛らしい。
    「そういう問題じゃないの。僕は、オマエの可愛いところはこの世界の誰にも見せたくないの」
    「はいはい。このあとは独り占めしていただいて結構ですから。まずは、お疲れ様でした」
    抱き着いて来た頭を撫で、幼稚な態度を慰める。それでいて、七海にまで謝罪を寄越す為にわざわざ玄関口までやって来たのだろう伊地知とは、言葉を交わす。こののちの休日は、なにがなんでも残りの術師で現場を回すこと。今回のような緊急要請は無いと、彼自ら誓ってくれた。これはひとえに、五条の脅しがあったからだろう。流石に休日を謳歌する中で要請が来るかもと怯え続けるのはごめんだ。伊地知には悪いが、存分に頑張って貰おうと念を押して手を振る。
    「気を付けて帰ってくださいね。この人のお守まで、ご苦労様でした」
    「いえいえ。では、お二人とも、おやすみなさい」
    「はい、おやすみなさい」
    じゃれつく男をそっちのけで扉を閉めると。五条はにこにこと口角を上げて、すらりと伸びた鼻先を七海の首元へすり寄せてきた。外から帰って来た匂いがする髪が、自然、七海の鼻にやってくる。けれど、一級相当の呪霊を相手取って来たにしては、仕事の名残りは限りなくゼロにちかい。こうして肌をすり寄せることを夢見て、なるべく汚れを避けてきたのだろう。耳の縁をなぞってやると、これみよがしに喜ばれる。
    「おやすみなさい、ってさ。僕、今夜はオマエのこと眠らせないよ?」
    「そう。では期待していましょう。とびきり気持ち良くしてくださる夜を」
    見つめるためにあげられた顔の、米神へキスを落とすと、五条のほうからも同じ部位に唇が押し当てられる。彼のほうからの方が、長く湿った熱烈さの香るものだ。
    「僕のことも、たくさん可愛がってね?」
    「えぇ良いでしょう。その代わり、温泉のほうも期待させてくださいね。痕がついているから愉しめません、なんて、嫌ですよ」
    「僕がこういうとき、一度でもオマエの期待を裏切ったことある?」
    「ありませんね」
    肩にかけていた、ブランケット代わりのストールが床に落ちた。それは、五条の手が七海の肩に布一枚でも省いて触れたいと強請ったからだ。きっと温泉は、一部屋にひとつ、個別の湯がある高級なところを用意されている。ならば七海だって、普段は我慢を強いている分、彼の身体へ自分のモノである証を着けて良いということ。
    わだかまった布の上に、くしゃりと足がのっても大丈夫。一回り大きい男の背と、手と、脚とが、全身全霊で七海を抱き寄せ支えてくれる。
    「ざっとシャワー浴びて来るからさ。待っててくれる? ベッドで」
    言いながら五条の鼻先が、汗で湿り始めた七海の鼻筋へ絡みつき。瞬きによって長い睫毛はこちらの肌をくすぐり。やがて、ふっくり艶やかな唇が七海の唇に密着した。
    はじめは触れるだけの簡易なキス。それを、七海がもっとと首に手を回して乞えば、上機嫌になった男は体重をかけてまで、キスを深いものに変えてくれた。
    「ッ、フ……ぁ、ン」
    ぐっと背筋が反ってしまう。
    足の裏が擽られた様に感じ、たたらを踏んでしまう。
    項の薄い肌が燃える。
    転ぶのを恐れ、首に回した腕に力をこめた。五条からは、腰に回された手に力をこめてもらえる。
    「ンッ、ぅ……、ッ、ん、ぼ、く。寂しかった、よ」
    上顎をすりすりと舌先でこすられながら言われると、七海も正直にならざるを得ず。コクコクと鼻先だけで頷き、涙目になった瞳で見つめあう。魂は理性で構築されているような七海がこうも素早く熱くなるのは、任務の依頼が来たその時まで、互いに汗をかいた裸で、シーツを蹴りあい、枕をひしゃげ。ひっかき傷を残しては、汗の香りを舐めて吸って、愉しんでいたからに他ならない。ぶわりと花咲き綻ぶが如く、つい一時間ほど前の熱が戻ってくる。
    「わた、しも、」
    ――だからアナタに、自身の分身と言えるものを身に着けさせて。一分、一秒でもはやく戻れ、との意を込め送り出したのだ。
    湾曲した腰をぐっと支える五条の手首へ触れると、硬質な感触に行き当たる。カチコチと音まで硬質だ。
    はやく、はやく。
    五条を急かす七海の心。七海を急かす五条の手。それぞれを更に追い立てる。
    「いっしょに、お風呂、はい、りましょうか」
    持ち上げた片足を、しなやかな筋肉に仕上がった五条の太腿に巻き付け、しかと抱き寄せた。五条はそれを、名案だ、と髪を逆立てる勢いで頷き。頬を赤らめ、口角を上げ、唇に噛みつき返事とする。
    「もういっかい、七海のナカ、ひろげてあげるね」
    床に落ちたストールを拾い上げると、さっさと七海の筋肉で重たい身体を横抱きに、シャワーを浴びに風呂場へ向かう五条だ。子供の男の子なのだか、大人の男なのだか、振れ幅のある彼に魅せられるのはなにも今夜に限らず。
    「逆上せるまでスるのは、温泉でって予定だったんだけどな」
    「私、温泉に浸かりながら日本酒を頂くつもりでした。だから、」
    「じゃあ逆上せるまでできるのは、家のお風呂でやっとかないとか! 丁度良いね」
    なにが丁度良いのかはさて置き、辿りついた洗面所では七海が着けてやった腕時計を、七海自身が外し。五条にはパジャマのボタンを外してくれるよう命じた。
    「楽しみだよ、温泉も。いま、これからも」
    「なら、焦らしを与えてくれた上層部に、感謝しないと」
    「は? それとこれとは全然別だから」
    冗談の気概はあれど、形式上キレてみせる五条へたっぷりとキスを贈った。彼からは、舐めるような仕草の手の熱を贈られ、ふたりともが既に満足の吐息を鼻から吐きだしていく。
    更け行く夜の時を計る秒針の音が、ついに耳孔から遠ざかり。ふたりの息遣いと声ばかりが、鼓膜を揺るがした。
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