握り返す手隣のベッドからは、ここ数日の刀匠による鍛錬で、疲れて眠る弟弟子の小さな寝息が聞こえる。
自身の体も、疲労が溜まっているはずだが、気が高ぶり眠れない。ベッドで何度も寝返りを打つ。月のない夜。夜鳥の声がかすかに聞こえる。
「鎧を、もらってはくれないか」
あのとき握り返した硬い掌を思い出す。魔族を思わせる紫の肌に人間のような丸い爪。槍を持っていた血と汗に湿った戦士の手から、力が失われ、命が尽きていくのがわかった。
もしも、許されるならば。
あのまま肩を抱きたかった。「人間を恨んでいたのは、お前だけじゃない」と、自分の思いを伝えられれば。もしも違う形で出会っていれば、戦わずとも済んだのではないか。
しかし、鎧の魔槍は形見となり、我が身に託された。もう、あの手が俺の手を力強く握ることは、ない。
でも。どうか。
俺の胸の中で、お前を友と呼ぶことを許してほしい。