「いけめん、とはどういう意味だろうか」
真面目にそう尋ねるヒュンケルに、ラーハルトは非常~に嫌な予感を感じつつ応じる。
「普通の意味は『顔のいい男』だ」
「俺は顔がいいのか?」
こいつの弟弟子の魔法使いが聞いたらブチ切れそうだなと思いつつ、「いい方だぞ」とだけ答えるのもなかなか辛い…と考えていたラーハルトだが、そもそもその魔法使いが発端らしい。
「いけめんにはわからんと怒鳴られた」
なるほどそれで落ち込んでいるわけか。
という発見は努めてスルーしつつ
「目鼻立ちが整っているという意味ならポップだっていけめんだろうに、納得がいかん」
そこかよ、というツッコミも努めてスルーしつつ
「あの魔法使いがお前に嫉妬してるのは今に始まったことではないのだろう」
「マァムはもう関係ないぞ」
さてどう説明したものか。
あの魔法使いは、ヒュンケルに対して憧れというか男としての目標というか、とにかく漠然と眩しいものを見る目で見ている。
そしてヒュンケルもポップを眩しい存在として見ている。ごく普通に両親に愛され育ち、大魔導士に成長していく姿を誰よりも尊敬していると言ってもいい。
非常に厄介なことに、お互いが相手に尊敬されているとは全くカケラも思っていない。相手評価が高すぎて自己評価が果てしなく低くなる。
傍から見ると、この二人は非常~に…危うい。特にラーハルトにとって。
下手に意識させると化学変化で妙な関係になりかねない気配がある。
だからラーハルトから見た正解を伝えるのは危険なのだ。
「お前は雰囲気が特殊だから有象無象の女にやたらモテるだろう、それだ」
「いやそれもまったく理解できないが…」
知らない者には単にミステリアスな美形なので十分に納得できる現象だが、確かにパプニカで同現象が起きているのは理解に苦しむところではある。
…ラーハルト的にどうでもいいが。
「それよりも弟弟子でいっぱいの頭をそろそろこっちに向けてくれないか」
目いっぱいの不満顔を示されて、ヒュンケルは目を丸くする。
彼の脳に「嫉妬」という言葉が浮かぶまで、たっぷり5秒。