[虎兎]No man is without his faults. 僕は大体、なんでもそこそこ器用にやりこなすほうだ。
自慢というわけではないが能力的に恵まれていると思うし、出来ないことや足りないことがあれば、努力で補うのもあまり苦にならない。
これは、ひとつの目的のためにすべてを集中してきた二十年の間に培われたものかもしれない。
爆弾処理のスキルを身につけるのも、撮影で喜ばれるポーズを研究するのも、寝起きの悪さを早起きでフォローするのも、必要とあらばやってきた。
しかしだ。今僕は自分のふがいなさに打ちのめされていると言ってもいい。
虎徹さんにチャーハンを食べさせようと始まった僕の料理の勉強は、現在停滞中だ。
チャーハンについては、とにかく食べてもらわなくちゃという気持ちで、バタバタと虎徹さんに振る舞うことになった。
よく考えると、結構酷い出来だったかもしれない。
そもそも僕にとっては虎徹さんのチャーハンに勝るものはないが、虎徹さん本人は「うまい」と喜んでくれた。
その顔が嬉しくて、色々な料理を食べさせたらもっと見せてくれるかな、と。
「どうして少々とかなんだろう…」
レシピとにらめっこしながら呟いた。せめて分量をキッチリと書いてくれたらいいのに!
料理のレシピを集めてチャレンジしてみているのだが、どうもうまくいかない。
ヒーローたちで飲みに行ったり二人で外食した折りに、たとえば虎徹さんの故郷では女性が男性を射止めるために食べさせる『肉じゃが』という料理があって、これは家庭でも人気があるものだとか、寒い季節のイベントで配られた『豚汁』という具だくさんのスープが最高に旨かっただとか、色々な料理の話を聞く機会があった。
いちいちそういったものを覚えていてリスト化した上、ネットや図書館でレシピを集めた自分のいじらしさ……というか執念に乾杯だ。
虎徹さんの故郷の料理をだす専門店は、シュテルンビルトでも殆どないので、彼は時々、母や亡き妻の味を懐かしく思い出すのだという。
なんとかその料理を実際に味わわせてあげたい、なんていう気持ちから、それらのメニューに挑戦しているのだが……。
「そりゃあ、食べたことのない料理じゃ、美味しくできてるのかよくわからないわねぇ…」
つい愚痴をこぼしたファイヤーエンブレムにも、呆れ声でそのように言われてしまった。
そうなのだ。なんだか作った料理を食べても、美味しいのか、それとも別のものになってしまっているのか、よくわからない。
「……ですよね。わかってるんですけど、どうしても……」
俯いていると、笑んだような声が降ってきた。
「タイガーの思い出の中のものをあげたいのね」
――ああ、その通りだ。自分がいない、でも彼が大切にしている思い出。せめてそれに繋がるものを彼にあげて、少しでも関わりたかったのかもしれない。
なんだか自分の姑息さに顔が熱くなってきた。恥ずかしい。
「あなたの思い出じゃだめ?」
「……え?」
「あなたがお母様やお世話になった家政婦のご婦人に作っていただいたものを、タイガーに作ってあげたらどうかしら」
全然思いも寄らなかった。自分の懐かしい料理を、虎徹さんに食べてもらおうなんて。
本当に小さな頃だから多くは覚えていないけれど、忙しい母がたまに作ってくれたトマト風味のロールキャベツや、サマンサおばさんの一番の得意料理だったビーフストロガノフ。温かい食卓の思い出。あの味ならわかる。
料理と一緒に、僕の家族がどんな人達だったのか、話してみようか。きっと、虎徹さんはよろこんでくれるだろう。
とはいえ、僕がそれらの料理を習得できるのがいつになるかはわからない。
だからそれまで、せめて二人一緒の朝食だけは、意地でも僕が準備してみせようじゃないか。トーストと卵を焼くくらいなら、さすがに満足する出来のものが作れるはず。
決して僕が、料理が苦手なわけではない、という証明のためにも。