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    かづき@FF14そうさく

    @azeosaru

    ねちねちとしょうせつかくひと。
    基本うちの子ばなしばっかり。よそのこもかりることある。

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    POIPOI 58

    #梓アズ

    音楽は君と共に 三話どこに向かっているのかも、分からない。
    息が切れても、何があっても、足が止まることはなかった。
    息を切らして、ようやく止まる。
    ここはどこだろうか──小高い丘の上のようで、公園みたいなところまで来ていた。
    雨宿りに子どもたちが遊ぶドームのような遊具の下に入り、足を抱える。

    寒い。

    気温もそうだが、心の方がもっと寒かった。

    「……寒い……」

    今までも、心が寒い時はあった。
    だが、そんな時でも唯一心を温かくしてくれるものがあった。
    四歳のころに出会った、一人の男の子。
    優しい顔をしていて、綺麗な青色の瞳をしていた。

    その子が奏でる、ピアノの音が好きだ。
    今でも鮮明に、あの音色を思い出すことができる。
    だと言うのに、その旋律は届かなかった。

    「……寒いよ……梓」

    どうして名前が出たのか分からない。
    分からないが、でも口から出したかった。

    彼なら、もしかしたら助けてくれるかも。

    いいや、助けになんて来ない。こんなところ、分かるはずがない。

    全て、自分のせいだ。

    両親の気を引こうとして、横断歩道に走って入っていった。
    車に轢かれかけたって言えば、心配して少しは構ってくれるかもしれないと。
    だが、そこに突っ込んできたのは猛スピードで突っ込んできた車だった。
    音に気づいた時には遅くて。

    何かに押しのけられて、凄い音が鳴って一瞬時か止まった。

    目の前には、本来死ぬはずだった自分ではなく血だらけの兄が横たわっていて──。

    「うっ、うぅっ……」

    膝に顔を埋めて小さい声で泣いた。
    誰にも聞こえないように、どこにも響かないように、小さく、小さく。

    だが、そんな自分を否定するように声が聞こえた。

    「……やー……奏夜ーっ……!!」

    雨の音で、声が半分かき消されていたが聞こえる。
    確かに、梓の声だ。

    「あ……ず?」
    「奏夜……いた! 奏夜!」

    走ってきた。自分よりもずっとずぶ濡れで。

    「っ……なんで……」
    「え?」
    「なんで、俺なんか探しに来たんだよ! 放っとけば良かったのに!!」
    「そんなこと……」
    「お前だって、アイツらから俺の昔のこと聞いたんだろ!? 軽蔑しただろ!? 呆れただろ!! 俺のことなんか……っ、嫌いになっただろ!!」

    感情のままに、色んな言葉が出た。
    違う、別に梓を否定したいわけではない。
    否定したいのは、多分自分自身だ。

    「俺は兄貴とは違って出来損ないなんだよっ!! 愚図だ!! どうせ両親もいらない子だって思ってる!! 俺の都合なんか何も考えてなんかいない!! 俺はっ……」

    次の言葉が出る前に口が塞がれる。

    「……言わせない。ダメだよ、そんなこと言っちゃ」

    梓が抱き締めて俺の口を腕で塞いで止めていた。


    …………。


    乾きかけていた奏夜の口を、梓の濡れた制服の袖が再び湿らせる。

    「……ダメなんだよ、自分を否定したら」
    「でもっ……」

    「僕は、奏夜のことをそう思ったことはないよ。既に舞衣姉ちゃんから聞いてるもの、奏夜のこと。でも、僕は……奏夜を否定したことなんて一回もないでしょ?」
    「……っ」

    優しく微笑んで、梓は続けた。

    「僕は奏夜のことを軽蔑も、呆れてもいない。家族なんだし、大好きだよ」
    「……え……」
    「僕のピアノを愛してくれる人だから」
    「ッ……!」
    「愚図でもない、出来損ないなんかでもない。奏夜には、奏夜にしかできないことがあるじゃないか。いらない子なんかじゃないよ、僕には必要な……大切な人だ。だから、自分を受け入れて」
    「あ、ず……あずぅっ……」

    子どもみたいに大声で泣きじゃくるのを、子どもをあやすようによしよしと頭を撫でる梓。

    きっと、寂しかっただろう。
    とても、辛かったのだろう。
    すごく、苦しかっただろう。

    全てを受け入れるのは、奏夜だけではない。
    梓も一緒に受け止めてあげれたら、きっと。

    「…………"止まない雨はないし、明けない夜もない"」
    「…………」
    「僕は、奏夜じゃないから奏夜の想いとかは分からない。けれど、奏夜のことを"助けることはできる"」

    かつて、親友からもらった言葉。

    「奏夜のことを"分かることだってできる"かもしれない……親友が、いなくなるのは嫌なんだ」

    あの時の、あの言葉。

    今の梓にはひしひしと感じた。

    あの時の、全てに絶望して嫌になって何もかもから逃げたくなった時。
    あの時、親友がしてくれたように。

    「……僕が……」

    グッ、と奏夜に見えないように梓は拳を作った。

    「僕が、奏夜を守るから」
    「……うん……」

    梓に縋るように抱きつく彼は、まるで子どものようだ。

    頭を撫でてから、雨が止んだのを見て二人は顔を合わせて笑った。

    「……帰ろう、僕らの家に」
    「……おう」


    ……………………。


    しばらく経ちずぶ濡れで帰った結果、二人は舞衣にこっぴどく怒られた。
    学校まで迎えに行ったにも関わらず、出てこない二人を心配してあちこち奔走してくれていたらしい。

    「もーっ……」
    「ごめんなさい……」
    「ごめん……でも……舞衣姉」
    「なぁに?」
    「……ありがと、心配してくれて」
    「ふふっ、どういたしまして」

    奏夜の頭を撫でてから舞衣は食卓へと向かった。

    「ご飯にしよっか、二人とも雨でびしょ濡れだったからシチューにしちゃったよ、夏なのに」
    「シチュー? マジで!?」
    「わぁ、舞衣姉ちゃんのシチュー美味しいから楽しみだな」
    「ふふんっ、そうでしょ〜? さっ、先に宿題しておいで!」
    「はーい!」

    二人で元気に駆け出す。
    上の階へと向かう彼らは、夕日のように明るく輝いていた。


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