因果の糸口 ●
今日の部活も終わり。「お疲れ様でした」と言葉を交わし、シャワーを浴びて着替えをして……支度を終えたところで別の部の友達が顔を出した。「よー」「お疲れ」なんて会話をしながら、同じ帰路に就く。空はもう夕焼けだった。
こがねが丘、なんて名前に沿うように、この町の夕焼けは綺麗だ。夕焼けにビルとか車とか街路樹とか――空や雲までも――町の全てが、こがね色にキラキラしている。まるで町が伝説の黄金都市になったかのようだ。多分、この町の名前を付けた人は、この風景から着想を得たに違いない。
「――でさ、次の大会の階級どうすっかなって――」
イチョウ並木の歩道――秋には道路がイチョウのこがね色に染まる――を行く。隣では柔道部の友達が、自分の階級についてあれこれ悩んでいる。
「閃は減量してないんだっけ」
「成長期の間はできるだけ身体作りしたいし」
「俺もそう言いてえ〜〜」
友達はそう言って肩を竦める。彼の本音としては一つ上の階級にしたいのだが、その階級にはメチャクチャ強い選手が居るので、階級を上げると優勝が遠退いてしまうジレンマがあり……しかし今の階級のままでは、身体が大きくなってきたのも相まって減量が結構きつくて……というワケだ。
「いっそ増量して2階級上げたら?」
僕の言葉に、友達は自分の腹をさする。
「デブには……なりたくないんだよ……」
「モテたいのか勝ちたいのかどっちだよ」
「モテたいし勝ちたいんだよ」
「欲深いなぁ」
笑い合った。他愛もない会話。
そうして、駅前のエリアに辿り着く。この町でここらが一番栄えている。帰宅ラッシュで人通りも多い。通り過ぎていくバスは満員だった。すれ違う人々も、学生か社会人である。
と、そんな風景の中。
「あれ? ここ――」
ふと目に留まったのは小ぢんまりとした商業ビル。毎度しっかり見てはいなかったが、確か、前にしっかり見た時は工事中だった。古そうなビルだったから、どうやら改修工事が行われていたようで――この度それが終わったらしい。工場の仕切りだのが取り払われている。そして『リニューアル』したそこは……
「ゴールデンダイナー?」
友達と声が重なった。看板の英文を目でなぞる。まだ店は開いておらず、シャッターが閉まっているが。
「へ〜ファストフード店ぽいな」
友達が声を弾ませる。レトロな趣だが古臭さはなく、寧ろ若者の心をくすぐる趣だ。「オープンいつだろ」と友の言葉に、「減量は?」と僕は苦笑する。友達は悪びれなかった。
「食ったぶん動けば0キロカロリーなんだよ」
「やっぱ2階級上げた方が良いんじゃない?」
「うるせ〜な〜」
肩に肩をぶつけてじゃれてくるので僕もぶつけ返して。ボッと身の詰まった音。僕も彼も筋肉の塊だからよろめくことはない。一般人にやったら危ないんだけど。
そんなこんなで笑って歩く。「大会終わったら食べに行く?」「そうしようぜ」――そんな会話をしながら、暮れていく空の下、昨日と同じ今日。
『了』