主従と恋仲「江宗主、貴方にこんな事をしたくなかったんだけどね」
「はん、ならしなければよろしかろう」
ばちばちと二人の宗主の間で、火花がはじけた。
実際、江晩吟の紫電がばちばちと輝いているのだが。
「何かあったのか?」
「んー…」
その二人に挟まれながら、藍思追の肩に顎を乗せてもたれかかっている魏無羨に藍景儀が声をかける。
「俺らも途中で来たから解らないんだけど、どうやら江澄が言霊使わないんだとか…そんなんだよな?」
「え、ええ…。言霊は主にとってはかなり屈辱的なモノなのですけど、沢蕪君は使ってほしいみたいで」
「えーなんで?思追だって、俺に言霊使われるの嫌だろ?」
「嫌だけど、それは景義の意志証明だから」
外野の三人は、当事者たちを見守る。
「きっと沢蕪君は、江宗主にご自身が嫌だという事を伝えて欲しいんだと思うよ」
今まさに、伝えてると思うんだけどなー…と、藍思追の上に乗っている魏無羨は思う。
どうやら第三の性がある者たちにとっては、それとこれとは別な話という事になっているのだ。
藍曦臣は、江晩吟に言霊を使ってほしい。けれど、江晩吟は言霊を使いたくない。
拒絶するなら言霊を使えばいい……と、いつになく強気な藍曦臣。そう、逃げ道は使わずに拒絶する事だけだった。
「藍宗主、貴方はどうにも従の性質を垣間見えるな」
「おや、そうかい?江宗主が、格好よくて素晴らしい殿方だから身を委ねてしまいたくなるんだよ」
「皮肉だ!馬鹿!!」
お前以上に上位の主などいるか!!いたら見てみたいわ!!と、江晩吟が罵る。
他の主に対して、仙術を使ったとはいえ威圧を狭くもない宴会場で個別に使用したのを目の当たりにしている。
それゆえの皮肉であった。
「私以外の主に目をくれるなんて、許さないよ!江宗主」
「貴方以上に、俺が目を奪われるほどに美しくて強い主なんて居ないわ!!!」
……なんだろうな、コレ。
本当に痴話げんかっていうのは、犬も食わないほどに下らない。
「なぁ、思追と景義」
「なんですか?」
「んー?」
「お前らって、あの夫夫見たいな喧嘩ってしてんの?お前らって、恋仲じゃなくてただの主従なんだろ?」
はぁと溜め息を吐きながら、主従ってあんなもんなのか?と、訪ねる。
思追は苦笑しながら、顎に手を添えて喧嘩の事を思い出す。
「そもそも私たちって、喧嘩する?」
「喧嘩っていう喧嘩はしないよな」
喧嘩なんてしないと、景義も首を横に振る。
元々藍氏は私闘を禁じており、それなりの罰が下るのだ。
まぁ、ここは雲深不知処ではなく蓮花塢だ。二人が口論していても、止める者はいても罰する者はいない。
いや、そもそもこの痴話げんかに止めるような奴はいるのだろうか?
「思追は俺が嫌がる事しないもん」
「景義はいい子だからちゃんと嫌な事は伝えてくれるし」
ねぇ?と互いに首をかしげて、同じ調子で言い合う。
この年ごろくらいの少年たちがすれば、その仕草はかわいいと言える。
「江宗主、貴方は私が命じれば素直に可愛くいう事を聞いてくれるけど!本当に嫌な事はないのかい?!」
「貴方は禁止事項に触れた事はないだろう。俺を無理に屈服させようなんてしてないから必要ないと言っている」
「貴方に無理強いなんてしないよ!いや、今しようとしてるけど!」
「俺がいいと言ってるんだからいいだろう。貴方がする事で、俺が嫌がるような事はない!」
小双璧が言っているのと同じ事を言っているはずなのに、どうしてか色がにじみ出ているように感じる。
「なぁ、俺たちずっとここにいなきゃダメか?自分の父親の色ごととか聞きたくないんだけど」
「それを言うなら、私だって毎日のように聞かされてるよ」
飽きてきたのか少年たち二人は、魏無羨の袖を引っ張って町に出たいと強請り始める。
雲深不知処は、娯楽も少ないしどこにいても何かしらの物音がする蓮花塢が気になるのも仕方ない。
「よーし、じゃあ魏哥が案内してやろうな―」
藍江主従の痴話げんかを見ているのも飽きてきた所だ。
少年たちを連れて、町に出る事を決めた。
「帰ってくる頃には、仲直りしてろよー」とだけ、聞いているのか聞いていないのか二人に告げて部屋を出て行った。
▽▲▽▲▽
「……解った、もういい」
先に見限ったのは、江晩吟だった。
「……いう事を聞かないような従に、しつけでもなんでもすればいい」
「江宗主」
「それとも?蓮花塢に貴方がいるのに、首飾りをつけてくれないのが仕置きという訳か?」
自分の喉元を涙をためながら指し示すと、藍曦臣が蓮花塢に来たら必ず付け替える首輪が無い。
付け替える前に仕事の話が進んでしまって、その暇がなかったのだ。
それから、前々から気になっていた【言霊】を使わない事を問いかけて、今の状況になってしまった。
「そんなつもりは」
「決めただろ!」
「はい」
「二人きりじゃなくても、貴方が蓮花塢にきたり俺が雲深不知処に行った時は首飾りをつけてくれるって」
決めたのに……と、ぽたりぽたりと涙が零れる。
藍曦臣と主従の関係になってから、江晩吟は彼の前では感情をうまく操作できなくなっていた。
彼を見れば嬉しくて頬は紅潮するし、少しでも拒絶されれば悲壮感に襲われてこうして人前で涙を流す。
首飾りがどれだけ安堵できる者なのか、この男は解っていないのだ。
「藍宗主、俺は貴方のモノだろう」
「ええ、ええ…そうですね」
「仕事だとしても貴方に会える事を楽しみにしてて……」
足飾りが、唯一の頼みだった。
勝手に外してはいけないその決まり事も自らの意志でつけ続けていて、
毎日外さないのに綺麗なままなのは材質のせいでもあるが江晩吟が丁重に手入れを行っているからだ。
水練の時に、足飾りを見つけた主管が『お似合いですよ』と言ってくれた事もあった。
それが嬉しくて『そうだろう?俺の主がくれたんだ』と自慢したくらいだ。
子供のように泣く江晩吟は、校服の色を染めていく。
「なのに、貴方は今日は抱きしめてもくれなくて…頭を撫でてもくれない」
「掟を破ったのは、私です。すみません、江宗主」
おずおずと手を伸ばして、抱きしめる。
背中や頭を撫でてやれば、つたないながらも背中に腕が回された。
「ばかぁ…」
「はい、私は愚かだ」
子供のように泣きじゃくる江晩吟を、何度も何度も撫で続けた。
どれだけこの従は、主に構ってほしかっただろう。
常に傍には居られないけれど、月に一度は必ず会っていた。
「……足りないよね」
「なんだよ」
「月一度なんて、足りないね」
月に一度だけは、朝から次の朝までまでずっと一緒にいると決めている。
宗主に戻ってから、藍曦臣はたまった仕事をこなすのに忙しい。
姑蘇から雲夢まで、御剣の術を使ってどんなに飛ばしても一刻は使う。しかし、それは風の抵抗が無ければの話だ。
試してはみたけれど、その速度を出せば朔月が主を守ろうと減速してしまう。
それでも、本来の半分の速さの二刻ほどで付くようにはなった。
「足りてると思ってるのか、貴方は」
「まったくもって思ってません」
月に一度の逢瀬なんて、足りるはずもない。
愛に飢えているなら、なおさらだ。
「両親の事で、身をもって知っていたはずなのにね」
月に一度だけの面会が、どれほど待ち遠しくて恋しかったか藍曦臣は知っていた。
だけど、それに慣れてしまっていた。
「……」
「……」
背中を撫でていると、腰の方へと手を持って行ってみる。
「っつ」
びくりと身体が跳ねて、何が起きたのか解らないと言うように瞬きを繰り返す。
何度も口づけをした。触れるようなモノから、絡みつくようなモノまで、主従になってから繰り返した。
寝台も共にしたけれど、直接互いの肌に触ったことがない。
「……貴方が欲しいな」
「……藍宗主」
「何?」
ぽつりとこぼした言葉と先ほどの手つきがどういう意味を持つのか、理解した。
そこまで江晩吟は、おこぼではない。
「貴方は、俺に欲情できるのか?」
真顔で、問われた。
「出来ますが?え、なんですか??今更ですか???」
江晩吟の言動に驚かされるのは、いつもの事だ。
好意に対して藍曦臣は鈍い鈍いと言っているけれど、江晩吟もたいがいである。
彼の場合は、自分は嫌われ者だからという自負があって好意を寄せられる存在じゃないと思い込んでいた。
(今度、問霊してでもご両親を問い詰めよう)
彼の厳しく苛烈な性格の合間に、優しさと弱さを感じ取る者は少ない。
だが、その少ない者たちからは絶大な人気を誇っているし、蓮花塢のおひざ元ならば評判は良好すぎる程に良好だ。
街に彼が出れば「三毒聖手」とか「江宗主」とか、必ず声をかけてくる者がいる。
それは行商人であったり店を構えている者だったり、地に定着している者だ。
未だに老人たちは、江晩吟を「若様」とか「若君」と呼んでいる。
蓮花塢から離れた者たちが聞けば「蓮花塢の奴らは、恐れ知らず」と、信じられないモノを見る目になるだろう。
「ちゃんと欲情してますよ」
「うわ」
抱きしめていた手を、彼の尻へと持っていき両手でつかむ。
そうすると、抱きしめていた時よりも密着するような形になる。
「天下の沢蕪君が、こんな所でなにするんだ!」
「私は、常にこうしたい」
「なっ!」
「お忘れのようですけど、私は忘機の兄ですよ?」
江晩吟が、雲深不知処に行くと必ずと言っていい程に魏無羨は体を痛めている。
時には、昨晩の色香を纏わせて藍忘機に横抱きにされながら、冷泉に向かう所も見た。
家族のそんな姿を認識もしたくないんだけれど……と思いながらも、あれだけ愛されるというのはどういう感覚なのだろうと考える事もあった。
「あの……」
「はい」
「確認していいか」
「どうぞ」
最近は、命令を出さずとも江晩吟は藍曦臣に言いたい事を言えるようになっていた。
だから、促すだけだ。
「俺たち、もしかして主従というだけでなく恋仲なのだろうか?」
今度こそ、眩暈がした。
しかし、ここで答えを先延ばしにすれば、絶対に彼は誤解をすると言うのを藍曦臣は確信している。
倒れこむのを我慢して、くらっとした頭を目の前の頭にぶつけてやる。
痛みで額を抑える江晩吟の肩を、尻を掴んでいた手でがっと掴んで揺さぶった。
「私、最初の時にちゃんと告白しませんでした?!」
「だ、だって、あれは主従の関係になりたいという申し出なのでは???」
「貴方、主であったなら口づけも同衾も許すんですか!?」
「ば、ばかな!!藍宗主だから、許してるんだ!!」
「私だって、そうですけど!!!!」
夜狩以外で、こんなに大きな声を出したのは久々かもしれない。
自分たちの関係性を、お互いに確認しなければならないのではないかと藍曦臣は目の前の男を見ながらそう思う。
ついでに三拝しようか…と言ったら、ついでは嫌だと言っていたはずなのに……。
「俺は貴方のモノ」と言いって甘えてくるくせに、口づけをせがむ癖に……なんでこの人は……。
「ちょっと座りましょう」
「わかった」
素直にうなづき、長椅子に二人並んで座る。
ここは執務室だが、江晩吟が仮眠をするために長椅子が用意されていた。
普段、彼を待つ時には大抵ここに座っているから馴染みのある椅子だ。
「江宗主」
「ん」
「私たちは、主従ですね?」
「ああ」
「では、貴方が思う主従というのはどういう物ですか?」
目をそらさないように、逃げ出さないように、肩を押さえながら問いかける。
「主は与える者であり、従は受け取る者」
「はい」
「主は支配して、従は服従する」
「私たちには、あてはまりませんけど。そうです」
「主は愛して、従は愛される」
「ええ」
最後のが一番、自分たちの関係を表している。
「愛するというのには、どのようなモノがあると思いますか?」
「抱きしめる」
「うん」
「頭を撫でる」
「うん」
「首飾りをつける」
「そう」
「二人でいる時は、こうやって傍にいる」
「ええ」
指折りしながら江晩吟は、藍曦臣の質問に答えていく。
「同衾する」
「うん?」
「口づけする」
「まってぇ…」
本当に待って、と肩に手を添える。
どうして、そうなるのだろう。ただの主従では、同衾も口づけもしなくていいのだ。
一般的な主従というのは、主が命じて従が応えるそれで互いに満足する事ができるのだ。
「……時には、淫乱な行為も……と記されていた」
「どこの春宮画ですか!!???」
むしろ誰からの知識です!?いや、出所は思い当たるの一つくらいなんですけどね!?と、叫びたかった。
そんな春宮画なんて持っているのは、聶懐桑くらいだろう。
「俺なりに、主従としての勉強したんだが……」
「ちがう、違いますよ。江宗主」
「そうなのか?」
「そうですとも!!!」
最早藍曦臣が混乱をし始めており、彼に向ける口調が様々になっている。
「いいですか、江宗主」
「うん?」
藍曦臣の必死さに、江晩吟もこれはもしかしたら自分の知識が間違えていたのかもしれないと思いだす。
肩に手を置かれたままだが、布を強く握られる。
「まず普通の主従は、同衾はしません」
「そうなのか……」
「口づけもしません」
「お、おう?じゃあ、なんでしてたんだ??」
「貴方が好きだし、貴方も受け入れてくれたと……」
「貴方との口づけは、好きだ」
「ありがとうございます。でも今は、それどころじゃない」
最初の時に、一方的に口づけたのは藍曦臣だ。
抵抗もされなかったから、てっきり恋情も伝わったのかと思っていた。
それに、契約書を作る時にしてほしい事と言ったら『口づけ』も言ってきた。……慢心だった。
(阿瑶、私はまた自分の見たいものしか見ていなかったね)
心の中で今は亡き義弟に、懺悔するように告げる。
『いや、二の兄様。そう言う意味じゃないです。むしろ見ていないのは、江宗主です』と、彼が生きていたらそういうだろう。
「最後に……主従で淫乱な事はしない」
「そうなのか」
驚いた顔をしてから、顔を赤くした。
「俺は、てっきり……」
「てっきり?」
「主従というのは、そう言うのも込みだと思ってた」
貴方の教科書である、春宮画だったら、肥大して書くでしょうね!!!
主と従と第三の性は、修真界の修士の間にしか存在しない。
金丹を持つことができるモノならば、誰しもが第三の性というのが魂に刻まれている。
何処で聞いたかは解らないけれど、一般人からしてみれば娯楽の一部になるだろう。
しかも強姦とか従僕とか調教とか、そう言う類に分類される。
しかし、それはあくまで創作。物語。実際の主従というのは、本当に命じて応える事で満足する。
いや、中には主従で淫乱な事をする者もいるけれど。
愛情は、はっきりと確実に言わないと、江晩吟には通じない。今まで痛い程に思い知ってきたのだ。
「江晩吟」
「は、はい」
字で呼ばれて、居住まいを正す。
二人の間の呼称はいつだって『江宗主』『藍宗主』と役職名だった。
それを正す機会は、いつも伸びに伸びてたしお互いに認識できるからいいかとも思っていた。
多分、コレも江晩吟に誤解を招くような事だったのだろう。
「私は、貴方が好きです」
「っつ」
「貴方を字で呼びたいし、名で呼びたい」
「……好きにして構わない」
「貴方に字で呼んで欲しいし、名を呼ばれたい」
「……か、考えとく」
即答してほしかったぁ……無理強いしたいわけじゃないので、今は命令をする事じゃない。
「今まで私は、恋仲として口づけをして来たし抱きしめもしてきた。同衾だってもちろん、下心あっての事だよ」
「た、沢蕪君が、下心なんて」
「(この子、私を天人だとでも思ってらっしゃる??)……私だって、男です。好きな人には欲情します」
きっぱりと言ってのければ、自分に向けられた感情が愛情だけではない事を察したのかそわそわし始めた。
「解ってきたみたいで偉いね」
「いや、あの…そんな風に見られた事が無くて…」
「うんうん」
「貴方に迷惑をかけた」
「苦労はあっても、迷惑じゃないよ。それとも、私と恋仲になるのは嫌?」
頭を撫でながら訪ねると、江晩吟の目が泳ぐ。そして、少しだけ沈黙をして俯かれる。
(頷いた!?恋仲になるのは、嫌なのか?!)
藍曦臣とて、弟に鍛えられた読心術は他より長けているけれど全てを見通せるわけじゃない。
「……ただの主従だったら」
「うん」
「もう、口づけしてくれないのか?」
「そう、なりますね」
「……一緒に寝る事も?」
「しませんね」
あ、これは頷いたわけじゃなく、本当にうつむいただけだ……と、察して安堵する。
服を掴まれて、涙目になりながら見上げてくる。
「いやだ」
「ん」
「貴方に口づけしてもらえないのも、一緒に寝てもらえないのも嫌だ」
江晩吟から伸し掛かるように、藍晩吟の体に密着する。
少しだけ体制をずらして、寄りかかれるようにしてやり背中に腕を回す。
「俺は、貴方に教えてもらわないとこんな勘違いもし続ける」
「そうだね」
「たくさん迷惑かける」
「さっきも言ったけど、苦労はしてるけど迷惑じゃない」
ずるり…と、衣擦れの音が執務室に響いた。
すると、藍曦臣の視界には輪郭がぼやけた江晩吟が居て、唇には柔らかい唇が当てられている。
ゆっくりと離れると、嬉しそうに笑う江晩吟の顔が目の前にあった。
「……俺からも、していいんだよな?」
「も、勿論ですとも」
今まで藍曦臣から、口づけをしていた。
それは、江晩吟にとっては褒美のようなモノだったから自分からはしたことがない。
許可を得た事で、藍曦臣の頭に手を回してぎゅっと抱きしめる。
「そっか、へへ……」
「江晩吟」
「主に対して、口づけしたいとか破廉恥な事を考えていたけれど……そっか、うん、そっか」
江晩吟は、嬉しそうにうなづいて一人で納得する。
その姿は、欲しかったものを手に入れた様な子供っぽくて、幼く見えた。
「どうしたんですか、江晩吟」
「貴方に俺も口づけしたかった。だけど、貴方は主で俺は従だから、俺が何かをする事はダメなんだと思ってた」
「……」
「こうして抱き着いても、はしたなくないんだな?」
「そうですよ」
「貴方と会った後に、一人で慰めてた事もあったけど……それも、恋仲ならいいんだよな?」
何それ詳しく……いや、今は彼の話を聞こう。
「本当、ずっとダメなんだと思ってた。俺から、行動するのは規則違反だと思ってた」
「……」
「貴方は、ちゃんと最初から伝えていてくれてたのに……。俺は、また一人で暴走してた」
「蔵書閣で、きちんと勉強しましょう。私も一緒におさらいしますから」
「うん」
ずるりと、長椅子のひじ掛けに体を委ねるように寝そべると江晩吟の背中をゆっくりと撫でる。
「懐桑の春宮画は、あまり参考にはなりませんからね」
「わかった」
「……江晩吟は、もうすこし愛情について学ばなければなりませんよ」
「うん」
「嫌な事は、嫌だとはっきり断ってください。貴方は従ですが私の愛しい人ですから」
ちゅっと、額に口づけを落とせば嬉しそうに微笑む。
それから、力がどっと抜けた気がして天井を仰ぐ。
「……私も鈍いですけど、貴方も鈍い」
「そうか?」
「丁度いいのかもしれません。兄様や阿瑶が心配してたみたいに貴方の事を壊さなくていいようだ」
「なんで二人が、俺の心配するんだよ」
「私の愛は底なしですし、欲も強い。
阿瑶は察しがいい子でしたし、貴方の事は金凌を通して憎からず思っていましたよ。
それに晩吟は、兄様のお気に入りだったから……」
初耳だとばかりに、藍曦臣の話に耳を傾ける。
「私の愛情に溺れてしまわないかと常に心配していて、私を貴方から遠ざけていたんです」
でも、愛情を枯渇している貴方なら大丈夫だ……と、頬に口づけをした。