来世兄弟3 それはオレたちが“家族”になって半年後のこと。
その頃にはせい兄が中学生に、たか兄は6年生でオレたちは5年生になっていた。
桜が舞う頃でせい兄が花見に行きたいと言うものだからみんなで行った。たか兄のお弁当はとても美味しくて美味しくて、正直なところ花より男子であったことは内緒ね。
せい兄が進学したのは学区内の公立中学校。特に荒れているとかそういうのは無い。せい兄も喧嘩に明け暮れているということもなく、淡々と過ごしている。これは小学校のときも同様。
なんかたか兄と2人で話しているのが聞こえちゃったことがあるんだけれど、中学受験がどーのこーだの。今の時代珍しくない。なんなら小学校受験もある。せい兄は金は沢山あるが有限、弟たちに残すってそのまま公立中学校に進学した。こういうところでホントにオレたちのお兄ちゃんなんだなって。
たか兄はどうするんだろう。聞いたことはない。
……で、オレと千冬はそんな兄たちにしっっっっかりと甘やかされて生きているのでした。
オレたちの大学の学費とかの話もしてるし、ちゃんと育ってほしい、親がいないからなんて不自由させたくないとか言って……。この人たちオレたちの1個上と2個上なんですが?? 人間出来すぎてない?? たか兄は元からそうだったかもしんないけど! せい兄までさぁそんなこと考えてるとか……ウッ。
そんな話を千冬と2人で聞いちゃったものだから、「親孝行ぜってぇする……」「高い肉、いっぱい食べさせたい……」とかそんな話をしていた。今思えば親ではない。
しっかりと甘やかされているオレたちは、習い事とかも通わせてくれている。
そう、これ笑ってほしい話なんだけれどオレと千冬、空手習ってんだよね。
マイキーくんちの。佐野家の道場で。
最初に言い出したのは千冬。オレはそれに乗っかった。たか兄に話したら「え。……え!?」みたいな反応されたけれど、せい兄は面白がったしいいぞやってやれみたいな。最終的にはたか兄もまあいいか、という反応をしていたのであれからすぐに通いだした。
この半年間、道場では誰とも会っていない。先生はマイキーくんたちのお祖父さんのお弟子さんだった。さすがにお年が……って思っていたんだけれど普通に生きていらっしゃいました。ただ流石に先生はキツイみたいでご隠居という状態だけれど。長生きしてほしい。
道場ではオレたちは遅めの入道となったけれど、普通に楽しんで空手をしてる。
で、そうだ。学校通って道場通って。クラスは違うけれど行く場所帰る場所全部一緒なものだから、千冬とは常にセットだった。
その日も、っていうか今日なんだけれど、道着が入った色違いのスポーツバッグを肩から下げて小走りでいつもの道を駆けていた。
今日はたか兄の唐揚げの日だったからどうしても早く帰りたかったんだ。成人済みで色んな記憶を持っていても、やっぱり嬉しいものは嬉しいし、こんなことで胸を躍らせる自分にもほっとする。
だってオレたちまだ小学生だし!
小走りだったものがだんだん早くなる。いつのまにか走ってた。千冬が若干前でオレが後ろ。千冬の右手とオレの左手はばっちり繋がっていた。
はやくはやく! と気持ちと同時に足も早くなる。
でもそれがいけなかったんだろう。
「あっ!」
「ぅわ!?」
足元がもつれて前方に転倒、手を繋いでいた千冬は後ろに引っ張られる形で尻もちをついた。結構な勢いで。
「ち、千冬大丈夫!?」
「いってえ……そっちこそ」
2人仲良く転倒。あー久々だこんなの。小学生みたい、って笑いたかったけれど普通に痛え。千冬は腰をさすっていた。本当に申し訳ない。腰を痛めていたら土下座案件だな……。
痛みに悶ていると急に影が差してきた。え、と思って顔を見上げる。
「大丈夫か?」
手を差し伸べてくれる大人がいた。その手を素直に受け取り、ありがとう! と告げた。
「大丈夫」
「大丈夫」
その後千冬にも手を貸してくれ、立ち上がって砂を払った。
「怪我がないのであれば良かった」
そう笑って接してくれた。右上……本人からしたら左上? あたりにすごい傷があるけれどすごい優しい大人の男の人。
……まって。似てる人をオレは知ってる。記憶では二十歳の頃の顔と反社やってたアラサーの顔しか知らねえけど。
千冬も、ん? って顔をしている。千冬は二十歳の頃しか知らないと思うけれど。でもこれだけ特徴あったら分かるよな……。
「何してんだ鶴蝶」
――はいビンゴォオ! しかもその後ろから出て来た人もすっっげえ見たことある!!
成長したらこんな風になるのか、と1種の感動を覚える。いや、すごいよこれ……周りがキラッキラしてる。
「子供が転んでいたものだから。待たせたなイザナ」
ですよねイザナくんですよね。千冬の目が開いてるよ。そこまで凝視したらマズイって。かと言ってオレも目が離せる訳ではないけれど。
せい兄とはまた違った迫力美人……無理だってこんなの見るしかない。
「……ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
久々にカクちゃんを、イザナくんも直接間近で見られたのは嬉しいんだけれど、オレたちはもう新しく人生を生き始めている。それに初対面の赤の他人。幼馴染でもなんでもない。
だからさっさとお礼だけ言って帰ろう。唐揚げも待っているし。千冬と互いに目配せして決めた。なんか……双子なのか分かんないけど結構こういうことできるんだよな。
2人でお礼を言ったらカクちゃんは「気にするな」と笑ってくれた。いい笑顔だ……。楽しそう。うん、カクちゃんはイザナくんの横がお似合いだ。
また千冬と手を繋いで家に帰ろうとした。
「オイ」
また駆け足でをしようとしたとき、イザナくんに呼び止められる。また身体をそっちの方に向けて仲良く首を傾げた。その様子は鏡合わせに見えると思う。
「お前ら、名前は?」
そうきたか。どうしよう千冬。
「知らない人に名前言えない」
「?」
千冬サン!?!? それ悪手では!? 悪手です!!! イザナくんに怒りマーク見えますが!!!
どうすんだこれ、とオロオロしてるときにも千冬は動く。
「もし次会えたらその時で。そしたら知らない人じゃないでしょ?」
あ、頭良……オレにとっては頭がよく見える……千冬神……。さっきから掌ぐるぐるしてないとか言わないで。
そしたらイザナくんも少しは落ち着いたのか、ガキ相手にやってもと思ったのか。
「ハン、生意気」
そう言ってスタスタと歩いて行った。カクちゃんも慌てて追いかける。それにオレはお兄さんありがとーと手を振って送った。
……なんかドッと疲れた、気がする。
「千冬お前結構なこと言ったな」
「あのまま名前言うわけにはいかねえだろ」
「そうだけど。ねえもし次会ったらどーすんの?」
「……そう、だなぁ」
帰宅に向けて、今度は歩きながら。千冬は手を口元に当てて唸る。
「フユとミチ、でいいか。嘘を言うことにはなんねえだろ」
「そうだね、それでいこっか」
その名前だけ聞いて花垣武道や松野千冬にすぐ行き着く人間は早々いないでしょ。容姿を見てすぐ分かる人間じゃなきゃ。
……まって、そう考えちゃうと結構な人とエンカウントしたな。なんで最初に会ったのが幼馴染???
よくバレなかったね!? まあ小5のときの姿はタクヤしか知らねえと思うけどさ。
中学生になってからはちゃんと気を付けなきゃ駄目なやつだ……。
帰宅してたか兄特性の唐揚げを前にする。これほんとご飯止まんないんだ。
夕御飯は団欒の時間でもあり報告の時間でもある。なので。
「今日カクちゃんとイザナくんに会ったんだよね」
……あ、たか兄箸落とした。千冬が拾ってそのまま洗い場に持っていき、洗ったものを差し出した。
「はい」
「あ、ありがと……」
その間ずっと固まっていたけれど。動揺するのも分かる。せい兄は黙々と食べ続けてる。ほんと顔色変わんない。
「大丈夫、心配することはねえよたか兄。ちゃーんと知らない人に名前言えないって言ったから」
千冬がカラカラと笑う。
「それ逆に大丈夫だったの」
「大丈夫大丈夫」
大皿に乗ってる唐揚げをまた摘む。……うま、サイコー。
たか兄はやっぱりお兄ちゃんだなって思う。今回の人生では次男だけれど、せい兄が割と弟属性で世話も焼かれてるから。
かといってせい兄は何もしていない訳ではなく、背中で引っ張っていくのが近いかな? 現に今もただ只管と食べてるだけ。何も言わない。
……と思ってました。
「奇遇だな、オレたちもココと大寿に会った」
なんかすっげえ特大の爆弾落とされたけれど。ねえこれ大丈夫? しかもなんでどっちも会ったらやべえランキングトップor2番目の人にしか会ってねえんだよ。ココくんとか圧倒的じゃん。確率バグってます???
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Q.猫被ってるときの喋り方幼すぎん?
A.
武「小5のときってどんな喋り方してたっけ」
冬「忘れた」
結果幼くなっちゃったパターン
Q.会ったらやべえランキング教えて!(一目でバレそうという意)
青「赤音、ココ」
隆「うーん東卍創立メンバー? あー八戒と柚葉もか」
武「タクヤが断トツで次点カクちゃんとヒナ、かな」
冬「オレはあんまり? 大体中学になってからだし。あ、でも場地さん実家のアルバム見てたな……覚えていれば、まずい、やつ?」