いつからだろう、気がついた時から僕はほとんど睡眠を取れずにいた。眠れたとしても悪夢を見てすぐに目が覚めてしまい、そのまま眠れずに朝まで過ごすことも少なくはなかった。
そのせいか、日に日に少しずつ体調が悪くなっている気がした。最初はちょっと頭痛がしたけど、薬を飲んでどうにか誤魔化していた。けど、次第に頭痛だけではなく目眩や吐き気もするようになった。
そして今日、起きた時から激しい頭痛に見舞われ思わず目頭を強く押さえる。
(頭がガンガンするしなんか熱っぽい……これはちょっとまずい、かも)
食欲がないから、何も食べずにとりあえず頭痛薬を数粒水で流し込む。
今日は特にレッスンの予定は無かったが、ライブまで数ヶ月なのでマユミくんとアマミネくん(アマミネくんは仕事が終わってからなので少し合流が遅れるが)と自主練をする事になっていた。
他に仕事も入っていないので、その数時間さえ乗り切れば何とかなる状況だ。
しばらくして頭痛が少し治まったので、まだダルさの残る身体に鞭打って事務所へと向かった。
ジャージに着替えてレッスンルームへと向かうと、マユミくんがストレッチをしているところだった。
軽く挨拶をして僕もストレッチに参加する。
(良かった、マユミくんは気付いていないみたい)
こういう体調の変化には、マユミくんは妙に鋭いところがあった。
気付かれないように必死にいつも通りを演じながら、ストレッチを終える。
今日は僕たちのレッスン中の動画を見て、気になる箇所を2人でピックアップしてアマミネくんが合流したら3人で合わせる予定だった。
レッスン中の僕たちを撮った映像を確認していたが、とある箇で、マユミくんが動画を一時停止した。
「確か、ここは振りがずれていると講師から指摘を受けやすい場所だな。映像を確認しても僅かにずれが生じている。一度カウントを取ってタイミングの確認をした方がいいと思うが…百々人はどう思う?」
「…………え?」
しまった。
熱のせいかボーッとしていて、マユミくんの話をしっかり聞けていなかった。
その反応に違和感を感じたのか、マユミくんが僕をじっと見つめてくる。
その視線に耐えきれず、僕は思わず視線を逸らした。
おかしいな、さっきまで何ともなかったはずなのに頭がぐるぐるするしすごく寒い。
「百々人、顔色がいつもよりも悪いな。体調が優れないのではないか?」
「大丈夫だよ」、そう言いたいのに身体が全く言う事を聞いてくれない。
視界が歪んで座っていられなくなり、床に身体を打ち付ける。どこかふわふわしていて、でも鉛のように身体が重く感じて、指1本動かせそうになかった。
徐々に意識が遠のく中で、マユミくんが僕の名前を何度も呼んでるのが聞こえた気がした。