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    sy_leg

    文書くけど短いし視点が変わりがち

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    sy_leg

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    何度も死ぬ古論さんを助けたい雨彦さんの話(非タイムリープ)を書こうとしてたんだけど、タイプリが来たので多分もう書かないだろうな…と思ったので順序とか色々整理してない状態ですが置いておきます

    #雨クリ
    raincoatClipper

    眠ると夢を見る。見る夢は大抵“彼”の夢だ。
    見る夢は過去だった。確証などないが、そうだったのだろうという漠然とした、けれど確実な思いがある。
    そして過去、何度も“彼”と出会い惹かれ合った。それが運命であるかとでもいうように。何度も生まれては出会い、そして死に別れた。
    葛之葉雨彦は今まで過ごした数多の人生を、その中でも“彼”と過ごした日々を夢に見る。
    だから、雨彦は眠ることを厭うようになった。

    海はあまり好きではない。“彼”の死に際を思い出す。
    “彼”はいつでも美しかった。美しいまま、必ず海で死んでいく。ある時は生贄として、ある時は人間の手にかかり、ある時は世界に絶望して、ある時は事故で、ある時は雨彦を助ける為に。
    何度助けようとしただろう。何度抗おうとしただろう。だがその努力は虚しく“彼”はいつも目の前で死んでしまう。
    いつだって海は雨彦から“彼”を奪って行く。
    だから、雨彦は特別な理由が無い限り海には近付こうとしなかった。

    ***

    「雨彦さんはちょっとクリスさんに甘すぎるよねー」
    想楽の口からそんな言葉が飛び出したのはレッスンの合間の休憩中のことだった。
    もう片方の当事者であるクリスはといえば、無くなってしまったスポーツドリンクの補充の為に今は席を外している。クリスは何かと自発的に想楽と雨彦の分もと率先して動くことが多く、二人はそれに甘えて彼の好きにさせている。
    今日もまたそのパターンであり、クリスが不在だからこそ想楽はこんなことを言い出したのだろう。
    「そう見えるか?」
    「見えるから言ってるんだけどなー。プロデューサーさんに聞いたよー、夜遅くまでクリスさんの話に付き合ってたんだってー?」
    大人なんだから翌日の仕事に支障が出ない程度にしておいてよねー、という想楽の小言を聞きながら、先日プロデューサーに眠気を払う方法を尋ねたことを思い出す。
    その際も「きちんと寝て欲しい」という旨を言われたがまさか想楽にまで伝わっているとは思わなかったなと雨彦は思う。プロデューサーも何の気なしに話してしまったのだろうが。
    「それ以外にも結構甘いと思うけどー」
    「例えば?」
    「ふたりで仲良くしりとりしてることもあったし、雨彦さんは割とクリスさんの話聞いてあげてるでしょー」
    しりとりをしていたのはステージ前に緊張しているらしいクリスに提案をしたら水を向けられたからで、話を聞いているというのもクリスがよく話しかけてくるからなのだが、想楽の目には雨彦が甘やかしているように見えるらしい。
    「なんだ北村、構って欲しかったのか?」
    「もー、すぐそうやって混ぜっ返すんだからー」
    そうじゃなくてー、と想楽が声をあげたところでボトルを抱えたクリスが戻って来る。
    「お待たせしました」
    「いつも悪いな」
    「いえ、構いませんよ。はい、想楽」
    「ありがとうございますー」
    クリスが戻って来たことで先程の話は立ち消えになっただろう。

    ***

    彼と逢うのはこれで何度目だろうか、と記憶の通り相変わらず美しい顔を見ながら雨彦は思う。
    厳密に言えば、葛之葉雨彦と古論クリスは今出会ったばかりだ。当然向こうは此方の事を知りもしないだろう。無論、雨彦も古論クリスという人物の事は何も知らない。——だが、きっと今生でも海が好きなのだろうと雨彦は半ば確信していた。
    自分でも半信半疑ではあったが、記憶にある顔とそう違わない顔が目の前に現れては認めるしかない。誰にも打ち明けたことは無いが、雨彦には前世の記憶があった。前世だけではなく、何度も前の人生の記憶も。
    雨彦と古論が初めて逢ったのは恐らく今から何百年も前のことだろう。きちんと計算をしたことはなかったし、しようとも思わない。ただ、酷く昔に出逢い、互いに惹かれ合ったという記憶がある。
    それから何度も雨彦と古論は出逢い、惹かれ合った。まるでそれが当然のことだとでもいうように。出逢う度にお互い名は変わっていたが互いの容姿はそう変わりないようで、名前が分からずとも顔を見ればすぐに彼だと判断が出来た。
    信じがたい話ではあるが、それだけなら前世から繋がる縁の話として済ますことが出来る。あまり悪い話でも無いだろう。
    だが、雨彦の記憶の中で古論は、一度として幸せな人生を謳歌出来たことがなかった。彼は必ず——記憶にある限り全ての人生を、海で終えている。
    ある時は生贄として、ある時は人間の手にかかり、ある時は世界に絶望して、ある時は事故で、ある時は雨彦を助ける為に。必ず、海で死んで行くのだ。そして雨彦は必ずその最後を目の前で見続けて来た。
    今度こそ、彼を助けたい。古論クリスとして生きている今の彼の姿を見て雨彦は強く思う。
    そう長くない人生を海で終えるという呪縛から解放され、老いた姿で幸せに微笑む姿を見せて欲しい。それはきっと、外見の美しさとは違う、重ねた人生を思わせる美しさを持つだろう。
    綿津見を相手にするというのは一人の人間には荷が重い話ではあるが、そんなことは今更だ。それに、幸いと言うべきか、葛之葉雨彦は掃除屋の家系の生まれである。確実な勝算がある訳ではないが、記憶と合わせれば今までよりも有利に動くことは出来るのではないかと思う。
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