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    omoti_022

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    POIPOI 19

    omoti_022

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    馬に蹴られちゃかなわない。「んむ〜…けぇけぇ…」
    「いや、誰だよ」
    ジョッキ片手に、ぽやぽやと酒に飲まれた友人の言葉に首を傾げる。

    ゼミで知り合った友人、伊月暁人はバイトや何だで遊びには滅多に来ない。妹の為と聞いていたので、応援はしていたが、この頃は一段と付き合いが悪かった。そこから何とか漕ぎ着けた飲み会。
    彼は男の自分からみても可愛らしい顔立ちをしていて、女ウケも良かった。レア度も相まって、周りに人が絶えず、飲まされたままがこの結果である。断ればいいものを。人のいい彼には出来なかったのだろう。と酒が入ったグラスを水が入ったものに変えた。
    そこで、先の発言である。

    「伊月くん、けーけーってなぁに?」

    同じゼミの女の子が、伊月に話しかけた。頬が桃色に染まり、彼女も出来上がってはいるが、その瞳は肉食獣のように鋭い、伊月を狙っているのだと丸わかり。ふわふわと巻いた茶髪とデコルテのあいた服装。それに、自分の可愛さを最大限に引き出す甘めのメイクから、本気度を伺えた。
    くっそ…全然羨ましくなんかねぇからな……
    なんて、心の中で独り言ちる。そんな俺の気持ちは誰も気づかず、伊月もふわふわとしたで口調で応えた。

    「けぇけぇは、けーけーだよ」

    へにゃりと溶けるように微笑んだ伊月に、彼女は頬を赤らめた。可愛い。と何処かで声が上がった。

    「伊月くんのお友達かな?」
    「ちがうよ、ぼくのかれし」

    途端。
    静寂が訪れた。彼女は微笑んだまま固まっている。周囲も、かく言う俺も、伊月の発言が理解出来なかった。だと言うのに、伊月は気づかずに口を開く。

    「けーけーっていうの。ぼくのこと、いっぱいすきっていってくれてぇ、いっぱいちゅーしてくれるの。きょうのあさも、ちょっとだけてれて、ちゅーしてくれたの。かわいいでしょぉ?」

    「ぼくも、けーけーのことだぁいすきでねぇ。まいにち、しあわせ。このまえ、けーけーのすきなごはんつくったら、おいしいっていってくれたの、すっごいうれしくてさぁ」

    ふにゃふにゃと笑う伊月は、まだ話そうとしていた。けれど、誰かの携帯が鳴り、一旦途切れた。

    「あ、けーけー」

    電話の着信音は伊月だったようで。何の迷いもなく携帯を耳に当てた。

    「けぇけぇ、どぉしたのぉ?……んむ?なんでぇ?…えー、よってないよぉ!……ん、ん、わかった」

    彼はこくこくと頷く。最早その場はお通夜状態になっており、女子は意気消沈。伊月の隣にいた女の子なんか、顔を引き攣らせて席を立っていた。一部は色めきだっていたが、まぁ……そういう部類の人達だ。
    逆に、下世話な話が好きな俺も含まれている男陣は、伊月の元に集まった。そして、その中の一人が赤裸々に彼から、彼氏の事を聞こうとした。

    その時。

    スパンッ!と開いた座敷の襖。全ての視線が向いたそこには、髭を生やした男が立っていた。くたびれた様子の壮年か、中年辺りの歳をくった男の登場に、誰もが驚き、訝しんだ。
    席を間違えたのかと思ったが、

    「けーけー!」

    伊月だけが嬉しそうに笑った。

    「帰んぞ、暁人」
    「はぁい」

    渋めの声でぶっきらぼうに言われた言葉に、伊月は素直に従っていた。けれど、酒が入りすぎてふにゃふにゃの身体では立つこともままならないようで。
    手を貸そうかと動いた所で、伊月が腕を掴まれて引き上げられた。
    いつの間にか、けーけーと呼ばれた男が伊月の近くに居たのだ。まるで瞬間移動なような光景に驚いていると、男が伊月の腰に手を回し、しっかりと支える。それから、テーブルに数枚の紙幣を置いた。

    「釣りは要らねぇ」

    ギラリと光る、鷹のような瞳。煮詰めた黒が自身にまとわりつき、背中に冷たいものが伝った。
    牽制されている。と理解し、何度も頷く。下手なことを口にできない怖さがあったのだ。

    「ほら、ちゃんと立て」
    「たてない。けーけー、だっこ」
    「アホか。はやく帰んぞ」
    「んむぅ…いじわる」
    「そうだな」


    最後までイチャイチャしながら、嵐のように去っていったふたり。
    伊月の腰に回された腕は、離れることは無く。伊月も見たことも無いくらい甘ったるい表情だったのを思い出した。










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