願い。起きて、食べて、寝る。およそ一般的な人間の生活が流れていく。毎日、毎日、流れに身を任せて、ひたすら朝と晩を繰り返して、腹も空かないのに習慣で腹にご飯を詰め込んで、眠くもないのに布団に入る。生きている実感なんて感じる訳もなく。
あの日、あの時。全てをなくして。
妹と彼と約束したけれど。どうやったら前に進めるというのか、僕には分からなかった。
明日は妹の四十九日。それに、KKも。約束したから、きちんと生きていることを墓参りの時に伝えなければと、バイトも学校も休みを取った。
今日はバイトを早めに上がらせてもらい、スーパーで惣菜を買ってから家に帰る。いつの間にか料理もしなくなり、出来合いで済ませることが多くなっていた。ただ、料理を作る意味が見いだせなかった。
惣菜を食べ、風呂に入り、布団に潜る。眠りにつくまで、何も考えないようにして目を閉じた。
「お兄ちゃん」
「………麻里」
夢。そう、これは夢だ。
日差しの差し込む部屋でソファに座って、隣に麻里がいて。妹の膝には映画の情報誌があった。
「私、これみたい」
「……いいよ、見に行くか」
「うん!」
キラキラと光る妹の笑顔が、もう随分と昔のものに思えた。やけに眩しくて、目を細めていると麻里が徐に立ち上がった。
「麻里?」
「先に行ってるね」
「一緒に行けばいいだろ」
「いいの。席取っておくから、お兄ちゃんは後できてね。絶対だよ!」
そう言って、駆けていく。窓から零れる光に向かって。
その後ろ姿が、記憶していたよりも少し大きくて。
あぁ、成長していたんだな。と妙に実感がわいた。
麻里が振り向く。溢れる光の中で、負けないくらいの笑顔で。
「大好きだよ!お兄ちゃん!」
目が覚めた。
同時に、酷い耳鳴りと頭痛がする程に泣いた。泣いて、泣いて、泣き喚いて。慰めてくれる人なんて居ないけど、ただ泣いて。
本当は分かっていた。こんな生き方を望んでいる訳では無いと。前に進むには自分次第だと。
ごめん。と嗚咽と共に吐き出した。
そうだよな。こんな生き方じゃ、生きているって言わないよな。
麻里は、自分に漂う人生を歩ませたかったわけじゃない。
妹にここまでさせたんだ。前を向くしかないだろい。
散々泣いて、昼過ぎに墓参りに向かった。パンパンに泣き腫らした顔は、人から振り返られるほどだったけれど。
「麻里、ありがとう」
死んでからも迷惑をかけてしまったけれど。
「待っててくれよ」
今度こそ、生きて、生き抜く。
そう誓う。