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    aya.t

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    aya.t

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    こっそりツィッターにあげてたシリーズ。pixivにあげているホワイトデー話の番外編。タジクに脱がされる薪さんが見たいというリクエストで。

    #秘密
    secrets
    #青薪
    AoMaki
    #薪剛
    Maki Tsuyoshi
    #タジク
    tajik

    エトール・セントラル番外編♪ピンポン

    軽快なチャイム。この部屋の入居者には似つかわしくない軽やかで爽やかな音色。このチャイムを鳴らす度に一瞬 戸惑う。ブーっていうホラ貝だかサイレンだかって音色のチャイムの方が合っている気がして。

    応答がない。
    持っている合鍵で開錠する。
    ちらっと青木の顔が頭を掠める。‥あいつが知ったら血相変えそうだな。
    僕がタジクの部屋の合鍵を持っているのも 1人で入ろうとしているのも 
    ‥それが 初めてではない事も。

    タジクの社会復帰に関しては様々な懸念もあったが、僕が目を離さない事、監視役の人間を送り込む事などを条件に 今 彼はエトール・セントラルの料理長として忙しい日々を送っている。
    僕としても 何処かわからぬ所へ潜り込まれてしまうより、目の届く所にいてくれる方が都合が良かったのだ。
    (合鍵を持っているのは この部屋の契約上の借主が僕だから。タジクでは審査を通らなかった。‥)

    ‥‥タジクが目の届く所にいるのは僕にとって都合が良かったからなのか?その明晰な頭脳がこれ以上の罪を重ねるのを防ぐ為に?
    すぐに身柄を確保する為に?

    目の届く所に留めておきたかったからなのか?
    ‥手を伸ばせば 届く所に‥。

    玄関を開けて部屋に上がる。
    留守宅に入るのも初めてじゃない。
    僕らの間で、いつのまにかそれは許容されていた。
    主が不在だと思っていた室内は意に反して電気が点いていた。

    (なんだ。いるじゃないか)

    応答が無かった理由はすぐわかった。
    丁度バスルームから出てきたタジクと廊下で鉢合わせする。

    ‥男1人暮らしの風呂上がり。まぁ 裸なのは仕方ないよな。
    僕が来るとは思っていなかっただろうし。

    「薪さん。」
    マッパのタジクが嬉しそうに笑って僕のスーツに手を伸ばす。
    「いらっしゃいませ。」
    店での仕種そのままに 流れるような動作で上着はタジクの手に。
    「皺にならないように かけておきますね。」
    上着一つ脱ぐだけで気持ちはオフモードになる。肩から力が抜け 身軽になる。

    「とりあえず なんか着ろ」

    「えぇー。もう少し このままでいたいのに‥。薪さんが脱げば? 脱がして差し上げますよ? 皮剥ぐより簡単ですし。」
    悪戯っぽい顔で囁かれる。

    僕は 巫山戯た事を抜かすタジクを冷たい視線で黙らせた。

    「そんな事より腹減った」

    「そんな事よりって‥ 」
    ツレナイなぁーとぶつぶつ言いながらパントリーに向かうタジク。

    「珍しいですねー。飲みたいのかと。」

    「飲みたい。チーズ つまみに」

    店で明日客に出すには行き過ぎてしまったチーズが 料理長の役得でこの部屋に持ち帰られる事があるのを知ってから、僕の足はこの部屋に吸い寄せられる事が多くなった。
    明日出すのはちょっと というのは ギリギリの もう たまらない状態なわけで。ワインも、勿論良いのを開ける時もあるが、店では扱わない安い物やら新世界の物やらなんかも合わせたりして。
    ここには店とは又 違う楽しみがあるのだ。

    それに、この部屋は単純に 
    居心地が良かった。
    タジクが悪巧みさえしていなければ、犯罪さえ犯していなければ。僕がそれを警戒する必要さえなければ。

    こいつは頭が良くて気が効いて。
    そして、本来 優しいのだ。
    その優しさも、気の遣い方も、相手に負担をかけないそれで。
    恋愛感情もなく気遣いも必要なく対等に話ができるこいつといるのは なんのストレスもなく。
    青木といると感じるドキドキとか 守りたい とか そういうのも一切無しで。気楽で。

    ‥この部屋は居心地がいい。


    「薪さん ボトル2本目ですよー。明日 仕事でしょ?」

    「これくらいじゃ酔わない。それに明日は休みだ。」

    「みんなが休みの時は忙しいのが俺たちでね。そろそろ俺は休まないと。‥泊まっていきます? それにしても‥。
    あの泣き虫の彼は知ってるんですか? あなたが俺の部屋で 2人っきりでボトル2本開けたりしている事。」

    「‥‥。」
    「知らないんだ? ‥‥。帰らなくていいんですか?休みなんでしょ?来るんじゃないん‥‥。ブッ‥」

    タジクがおかしそうに吹き出した。

    「来ないんだ。今週は。」

    「う・る・さ・い!」

    「いやぁ。来ないんですかぁ。それは残念で‥‥。ククっ」

    人の不幸(? 不幸‥不幸なのか⁈)を喜ぶ性癖って やっぱりおまえ 性格悪いヤツだな。

    「ねぇ。電話してみましょうか?俺の部屋で2人っきりで飲んでるって。ちょっと目元が赤くなっているあなたは シャツのボタン2つ外した姿で 俺は風呂上がりのこの格好で。 ‥飛んでくるんじゃないですか?すぐに。」

    すぐに‥。
    飛んでくればいいのに‥。
    「何してるんですか⁈」って慌てながら オロオロしながら。
    「帰りますよ!」って僕を攫って。

    頭を振って腑抜けた妄想を断ち切る。
    明日は舞ちゃんの卒業式。
    あの小さかった赤ん坊が、もう 4月からは制服姿の中学生になる。
    すくすくと 青木とお母さんの愛情に見守られながら成長する舞ちゃん。彼女の成長は僕らの希望だ。
    それでなくとも、休日を僕と過ごす為に舞ちゃんとは別に過ごす事も多い青木。前にそれを話したら、平日は福岡にいるんですから‥と、情けない顔をして謝られた。違う。我儘なのはおまえじゃない。我儘なのは僕だ。
    舞ちゃんの卒業式の為に福岡にいるおまえに会えなくて淋しいなんて。‥どれだけ我儘で欲深いんだ。


    考え事をしていたら 僕のシャツの3つ目のボタンからするっとタジクの器用な料理人の手が前立てを下へとなぞり 魔法のようにボタンが外されていた。
    そのまま 臍から胸へ 肩へと素肌の上を手のひらが滑った‥と思ったら、あっという間に シャツは僕の身体から離れていた。
    (本当に脱がすのが上手い!)

    ‥じゃ なくて。

    背中を下へと滑ったタジクの手が両手首にだけ残っていたシャツをくるくると捻った。いつの間にか自分のシャツで後ろ手に両手を拘束されて上半身を剥かれた己の姿に すっかり酔いが覚めた。

    「おい‥」

    「ね?脱がす方が上手だって言ったでしょ?」

    「おい!」

    「はいはい。  でも せっかくだし 勿体ないから続けません?」

    「勿体ないってなんだ⁈ せっかくって!  オイ❗️」

    「はいはいはい。目 覚めたみたいですねー。残念。 あなた これから帰るんですからね。さっきみたいに隙だらけじゃ危ないですよ。普通は ここで止めてくれせんからね。あなた 案外 危なっかしいんですよ。」

    ぶつぶつ言いながら シャツを着せ直してくれるタジク。

    「じゃ、気をつけて帰るんですよー。俺以外の人に襲われるくらいなら俺に襲われに帰って来て下さいねー。」

    タジクといるのは楽だ。
    あの部屋は居心地がいい。
    青木とは違う気楽さ。‥そう。この居心地の良さは、僕が多分 今まで持った事のない男友達 というやつかもしれない。

    ‥彼は いずれ 遠くない将来 その自由を奪われる。複数の殺人に関わっているのだから。
    川谷の馬鹿息子の命が尽きて その脳が第九に持ち込まれたら‥
    ‥その時 タジクの命運も‥。

    それは喜ばしい事の筈なのに。
    僕はタジクを追い詰める為に奔走してカザフスタンへの単身乗り込みまでしたのに。

    その時を待ち望んでいるかと問われたら即答出来ない事に気付いてしまった。

    その時 タジクは、僕は、どうするのだろう。
    何を思うのだろう。

    この居心地の良い空間が いつかは手放さなければいけないものだと。
    失う事がわかっているものだと。
    そして、その引導を渡すのが自分なのだと。

    ───僕は知ってしまっているのだ。
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