マリンアイズに揺れる まりあはかわいい。
ミルクティー色の豊かで綺麗な髪や、細くて長い手足。わたあめみたいにふわふわした声に、薄ピンクに色づいたくちびる。万華鏡みたいにくるくると変わる表情、純粋でまっすぐな心。
まりあを構成するすべてがまりあをかわいくするために存在しているみたいで、すずはそのどれもが好きだった。
そのなかでも、まりあの大きな瞳はすずの一番のお気に入りだ。
好きになったきっかけは、リングマリィを結成する前にまで遡る。
メルティックスターと出会ったばかりの頃、める先輩のプリ☆チャンを見たすずは、先輩との才能の差に打ちひしがれていた。
その上、幼い頃に歌声を「かわいい」と言われた経験がトラウマとなり、歌に挑戦する勇気も持てなかったすずは、海辺で一人「自分のプリ☆チャンってなんだろう」と思い詰めていた。
すると、そこにすずを探しにやって来たまりあが、目の前の海を見てこう言ったのだ。
『ここはすずちゃんにぴったりの場所ですね』
『静かだけど、キラキラしているところがそっくり』
――と。
そしてリングマリィを結成してから、まりあの瞳がアクアマリンとターコイズブルーが層になったような美しい海の色だと気づいたとき。
あのときから、世界中のどの鏡で見るよりも、まりあの瞳のなかに映る「黒川すず」が一番かっこいいと思えるようになった。
だって、すずのことを海にそっくりだと言ったまりあの瞳には、キラキラと輝く海があったから。
◇
本日、リングマリィはプリ☆チャンランドにて、後日配信予定のリングマリィチャンネルの打ち合わせをしていた。
キャラメルラテを片手に楽しそうに案をだしていくまりあは、いつも通り世界中のかわいいを一身に集めたみたいにかわいくて、すずは時々手を止めながらその姿を眺めていた。
話し合いは順調に進み、いつも通りかわいくてかっこいい配信案がまとまって。あとは解散するだけ、というタイミングでそれは突然告げられた。
「すずちゃん……ご相談したいことがあります」
「なに? なんでも聞くよ」
確かにここ最近、まりあの調子がおかしいと感じることが多かった。
さりげなく様子を伺ってはいたけれど、いつちゃんと話をしようか迷っているうちに今日まで来てしまった。しかし、まりあから話を切り出されたということは、ようやくその原因を打ち明けてもらえるかもしれないということだ。思わずホッと安堵する。
そわそわとしていたまりあもすずの態度に安心したのか、ためらいながらも口を開いた。
「あのね……まりあはすずちゃんを見ると、いつも胸がきゅんきゅんして、しあわせかわいいなあ~って思うんです」
「あはは……うん。ありがと」
「でもね、この頃それだけじゃないんです。なんだかいつもよりドキドキして、ちょっぴり苦しくなっちゃうこともあります。すずちゃんは原因に何かかわいい心当たりはありませんか……?」
そう言うと、まりあは縋るような目ですずを見つめた。交わした視線の先では、小さな海が溢れ出しそうなほどゆらゆらと揺れている。
思いもよらなかった告白にすずは驚いて、じっと考えた。言ってしまうか、どうかを。
まりあは普段、愛しく思う気持ちや感謝の気持ち、肯定の意味でも何でもあらゆることに対して「かわいい」と囁く。その「かわいい」は、まりあにとってどの言葉を代替するものでもなく、意味違わず「かわいい」を表すものだ。
けれどすずはまりあと共に過ごす時間が増えるにつれて、まりあの口にする「かわいい」を成分分解するようにして、日常会話に溶け込む言葉に翻訳できるようになっていた。
おそらくすずの翻訳は間違っていないだろう。
でも、だからこそ問題だった。
……だって、それは「恋」でしょう?
すずにはまだ知らないことや体験していないことがたくさんあるけれど、新婚のユー兄ちゃんや婚田アナさんを見ていくなかで「恋」というものの存在がだんだんわかってきていた。
それはドキドキしたりふわふわしたり、たまに苦しくなったり不安になったりするものらしい。まだ実感は伴わないけれど、なんとなく輪郭が見てとれる感情――それが恋だった。
だから、まりあが唸る難問にすずが解を与えることは簡単だ。「その気持ちは恋だよ」と一言告げればいい。
でも本当にそれでいいのだろうか?
まりあの「かわいい」とみんなの言葉を繋ぐ役割を果たせるすずに、まりあはいつしか絶対的な信頼を寄せるようになっていた。すずがそれは恋だよ、なんて言ってしまえば、きっとまりあはそれを神さまのお告げよろしく信じ込んでしまうだろう。
その瞬間から、すずに向かうまりあの「かわいい」は「恋」というペンキで上塗りされた一色だけの言葉になってしまう。そんな気がして、なんだかもやもやした。
なんでもやもやするのか、今のすずにはよくわからない。それがもどかしくて困惑した。
だから、つい衝動的に――すずはまりあの心にあるはずの気持ちの正体を隠してしまった。
「……それは、すずとまりあがともだちだからじゃないかな?」
「おともだちだから、ですか?」
「う、うん。仲良しのともだちが他の子と仲良くしてたらモヤモヤすることもあるらしいし……まりあもきっとそうなんじゃない?」
そう言うと、まりあはかわいく小首を傾げた。
いつものようにすずの言葉がストンと心に落ちてこない、そんな顔をしている。
「そうなんでしょうか?でも、まりあはすずちゃんがおともだちと仲良くしているところを見ると、仲良しかわいい~!って思いますよ……?」
「そ、それは……」
すずは嘘をつくのが上手くない。それに、咄嗟のこととはいえまりあに嘘をついてしまった事実に、すでに罪悪感がわいていた。
じわじわと脳裏に浮かび上がるのは、まりあと初めて合同配信することになったときのこと。あのときすずは、まりあに高難易度のダンスパフォーマンスを課して、一緒に配信することをあきらめさせようとした。
しかしまりあはめげずに努力して、寝過ごして五時間遅刻したすずのことを、どしゃぶりの雨のなか配信しながらずっと待っていたのだ。
あのときのまりあを見て、もうこんなことはしないと決意したのに。またまりあに隠し事をしてしまった自分が情けなくて、恥ずかしかった。
……やっぱり隠しちゃダメだ。本当のことを伝えよう、そう思ってすずが顔を上げた瞬間。タイミング悪く、それより先にまりあが口を開いていた。
「すずちゃん、ありがとうございます。一緒に悩んでくれて。まりあその優しい気持ちだけで、宇宙まで飛んでいけるくらいかわいく満たされちゃいました!」
「え? まりあ……」
「次はかわいく配信がんばりましょうね!じゃあまた明日、かわいくお会いしましょう!」
足早に去っていくまりあを、すずは見送るしかできなかった。何も伝えられないまま、その場ポツンと立ち尽くす。
伸ばしたすずの手は宙に浮いたまま、どこにも辿り着けずに彷徨っていた。
重たい足取りで帰宅すると、マー兄ちゃんがリビングのソファーに座っていた。
長男・黒川マサトはマイケル黒川として世界的に有名なダンスシンガーだ。日本にいることは少なく、帰国しても数日で旅立ってしまうことが多いので直接会える機会は少ないが、明日からジャパンツアーに入るため今回はいつもより長い期間家に居てくれている。
「おかえり、すず!」
「ただいま、マー兄ちゃん……」
「……どうした?何かあったのか?」
「うん……。あったけど……ごめん、これは一人で考えたいんだ」
すずがそう言うと、マー兄ちゃんは「そうか」と優しく笑って、すずの頭をなでた。
そして「そうだ、すずに渡したいお土産があるんだ」と呟くと、マー兄ちゃんは傍に置いてあったショッパーから、黒くて小さな正方形のケースを取り出した。
渡されたケースのなかには、すずの小指の爪ほどの石が収められている。
「あれ?もしかして、これって宝石?」
「そう、バイカラーのサファイアさ。イエローとブルーで綺麗だろう? ちょっとお値段は張ったけどね」
「バイカラー……って二色ってこと?」
「ザッツライト!店先で眺めてたらその石がいちばん綺麗だったから、もう一人前のアイドルとして大活躍しているすずにプレゼントしたいと思ったんだ」
「うれしい!最高にかっこいいよ!ありがとう、マー兄ちゃん!」
すずにお土産をくれたマー兄ちゃんは「はやく悩み事が解決するといいな」と言って出て行ってしまった。運転手さんが迎えに来ていたから、ツアーに向けての予定が入っていたのだろう。
もしかしたらこのサファイアを直接渡すために、すずの帰宅を待ってくれていたのかもしれない。
「やっぱりマー兄ちゃんはかっこいいなあ…」
思わず自分と比べてしまい、溜息が出る。
マー兄ちゃんやユー兄ちゃんのようにかっこよくなりたいのに、全然うまくいかない自分が情けなくて泣きそうになった。
部屋に戻ると、すずはぼうっと宝石を眺めた。
バイカラーといってもイエローとブルーの色の境目がハッキリしているわけじゃない。真ん中は薄いグリーンにも見えるし、角度によっては全体的にグラデーションにも思えてあやふやだ。でも、だからこそすずはそれがとても綺麗だと思った。
そのときふと、何故自分はまりあに「それは恋だよ」と言えなかったんだろう、と思った。ベッドに寝転がって意味もなく天井を見ながら、考える。
マー兄ちゃんやユー兄ちゃんに憧れていたすずにとって、幼い頃から「かっこいい」は絶対の正義だった。反対に「かわいい」は苦手で、誰かにそう言われるのも好きじゃなかった。なのに、ディアクラウンのイチオシアイドルとしてすずと共に選ばれたまりあの掲げる正義は「かわいい」で。
最初はひたすらかわいいを連呼するまりあが全然理解できなくて、かわいいの押しが強いまりあ自身のことも苦手だった。
それでもまりあは毎日すずの元に訪れて「二人でグループを組みましょう!」と言ってきた。
最初は流されるまま付き合っていたすずも、交流していくうちにどんどんまりあの良いところを知って、いつの間にかすずはまりあとグループを組みたくなっていた。
それから紆余曲折ありつつもリングマリィが結成できたのは、チグハグだと思っていたまりあの「かわいい」とすずの「かっこいい」が、バラバラだからこそ良い、ということに気づくことができたからだ。
それに気づけたのは、ミラクルキラッツやメルティックスターの先輩達がたくさん後押ししてくれたのも大きいけれど、一番はまりあがすずに合わせるためにかっこいいに染まることも、すずがまりあに寄ってかわいいに偏ることもなく、お互いが大切にしているものを尊重できたからだと思う。
今ではすっかり、すずのなかでも「かわいい」は「かっこいい」と同じくらい大切なものになってしまった。大事なまりあの、大切なものだから。
すずにとってそれは世界が一変するくらい驚くべき出来事で、奇跡みたいな出会いだった。まりあに出会わなかったら、きっと一生知らなかったこと。
たくさんのかわいくてかっこいいことを教えてくれたまりあは、いつしかすずにとって誰よりも大切で、特別な存在になっていた。
そこに思い至ってようやく、すずは気がついた。
「そうか。だからなんだ、すずがもやもやしたのは」
まりあの「かわいい」が、すずのなかで大切なものになっていたから。
「かわいい」が、まりあとすずの友情のはじまりを象徴する言葉だと信じていたからこそ、まりあに「恋だよ」と教えてしまうことで、すずに向けられる「かわいい」が恋心を表す「かわいい」になってしまう気がして怖かった。
でも、「かわいい」は恋心を表すだけの言葉になってしまうと、本当にそう思っているのだろうか?
すずは自分自身に問いかけてみた。
そもそも、すずとまりあの関係にはどういう名前がつくんだろう。もし、二人の間に恋心が発生したら、「恋人」になるのだろうか?
すずが誰かにまりあのことを紹介するなら、と想像してみる。そんなとき、すずははきっと「すずのともだち」とか「リングマリィの相方」と言うだろう。
でも――。
「リングマリィで争うのはイヤだ」とまりあがジュエルコレクションを辞退しようとして、すずとギクシャクしてしまったときの思い出を振り返ると、やっぱり一言で足りるような関係じゃないと思うのだ。
だってあの仲直りのとき、まりあはすずのことをともだちで、仲間で、ライバルだと言ってくれた。すずにとってもまりあは唯一のパートナーであり運命の相手だ。本人には恥ずかしくて言えないけれど、本気でそう思っている。
小さなひと粒のなかにイエローとブルーが同時に存在して、色のグラデーションを奏でるバイカラーのサファイアと同じ。
まりあとすずの間には、それぞれの感情や想い、思考、願い。その他にもたくさんのものが混ざり合いながら存在しているはずだ。そして、たくさんのものが込められた関係をまりあと紡いでいけることを、すずは嬉しいと思っている。
そう考えたら、シンプルな答えに辿り着いた。
まりあの「かわいい」が、すずからしてみればたくさんの意味を内包してるみたいに、まりあがすずに恋をしていても、すずに向かうその意味が全部恋にとって代わるわけじゃないということを。
友情も恋心もライバル意識も仲間の絆も、言葉で表せないたくさんの気持ちが、すずに向かう「かわいい」のなかには溶け合うように存在しているのかもしれないことを。
……何より、まりあから恋心を抱かれていると知って、すずは本当は嬉しかったということを。
バクバクと動いている鼓動を、赤く染まっていく頰を、込み上げる涙を隠したくて、必死に冷静なフリをしていた。まりあの前では、一番かっこいいすずでいたかったから。
自分のなかに芽生えた未体験の感情が何なのかわからずに混乱して、まりあから向けられる恋心に動揺して、「かわいい」の意味が塗り替えられてしまうかもしれない恐怖で不安になって。
自分でも気づかなかったけれど、すずの心はパンク寸前だったのだ。
本当は。あのとき揺れていたのは、まりあの瞳のなかに映る海じゃなくて――すず自身だった。
真実に気づいて、すずはいてもたってもいられなくなった。
鍵やお財布などの必需品を慌ててポケットに入れて、部屋を飛び出す。
「ユー兄ちゃん!ちょっとまりあの家に行ってくる!夕ごはんまでには帰ってくるってお母さんに伝えといて!」
隣のユー兄ちゃんの部屋を過ぎるときに、そう声をかけて、あとは目的地まで全速力で走った。
脇腹に痛みが走り、呼吸するだけで喉がヒリヒリしてきた頃、まりあの家の前に到着した。
大きなリボンとピンクの包装紙でラッピングされたような、かわいいが詰まった家。ここにくるとき、すずは毎回少し緊張してしまう。でも今日はいつも以上にドキドキしていた。
深呼吸をして、息をどうにか整える。
覚悟を決めていざインターフォンを押そうとしたとき、内側からドアが開いた。
「まりあ………!!」
ドアを開けたのは、まりあだった。
「まあ、すずちゃん! どうしたんですか? すずちゃんのかわいいお顔が、りんごみたいに真っ赤でかわいくなっていますよ!? お水持ってきましょうか?」
「ううん、大丈夫。いきなりきてごめんね」
「いいえ、むしろかわいいすずちゃんが来てくれると家族みーんながかわいく大喜びしますから!まりあの家に住んでほしいくらいです!」
まりあは笑って「さあ、どうぞ」と家のなかにすずを招いた。
キッチンではまりあのお父さんがかわいいエプロンをして夕ご飯を作っている姿が見える。「今日はシチューみたいです!」と、嬉しそうにまりあが笑う。その笑顔を見ると、すずも笑いたくなった。
まりあの部屋は相変わらずかわいいに溢れていた。
ホワイトとピンクのたてじま模様の壁には、リングマリィのポスターが貼ってある。以前まりあが「自分の大好きなかわいいをいっぱい詰めた部屋なんです」と言っていたことを思い出して、そこに当たり前のようにリングマリィが、そしてすずがいることに嬉しくなった。
キッチンに寄って用意したオレンジジュースをテーブルに置いたまりあは、すずと共にふかふかのベッドに座った。
「すずちゃんはどうしてまりあのお家に来てくれたんですか?明日まで待ちきれなかったなら言ってくれれば良かったのに!まりあだってすぐ飛んでいきましたよ?」
「……うん、そう。明日まで待ちきれなかったんだ」
「ええっ!?今まりあは、天と地がひっくり返って元に戻っちゃうくらい、かわいい衝撃をうけました…」
いつも通りのまりあの反応にホッとする。
でも、ときどき勘が冴えるまりあのことだから、もしかしたらすずのことを気遣ってわざと明るく振る舞ってくれているのかもしれない。申し訳ないけれど、今はその優しさに甘えようと思った。
「……あのね。まりあは今日、すずを見ると苦しいって言ったでしょう?」
すずが話を切り出すと、まりあは長い睫毛を少しだけ震わせた。
「すずちゃん……いっぱいまりあのこと考えてくれたんですね。でも気にしないでください!まりあは大丈夫ですよ」
「ううん、大丈夫じゃないよ。それに……すずはたぶんその原因が何かわかるから」
「もうわかってしまったんですか!?ふふ、さすがはすずちゃんです!」
次に口から紡がなければいけない言葉を前にして、すずは初めてソロでパフォーマンスをしたときと同じくらい緊張していた。
答えを待ち侘びるまりあの期待の眼差しがすずに突き刺さる。すずは意を決して、カラカラの喉を振り絞るように声を出した。
「――それはね、恋だよ」
無事に言い終わった言葉に対し、今度はまりあの反応を待つ緊張感がすずを襲った。
「恋……?」
「そう、だと思う」
まりあはパチパチと瞬きをすると、瞼を閉じてしばらく考え込んだ。大抵のことにはすぐさま順応してしまうまりあの珍しい反応に、すずの心臓はさらに鼓動を速めていく。
実際は数十秒だったのだが、すずには数十分にも一時間にも思える沈黙のあと、まりあは目を開けてすずの顔をまっすぐ見つめた。
「……もし、この気持ちが恋だったら。すずちゃんは、この気持ちをかわいく受け取ってくれますか?」
まりあの目は真剣で、でも少しだけ、不安そうに揺れていた。
すずは堪らなくなって、勢いよくまりあの両手を絡めとって、ぎゅっと握りしめた。
「絶対に受け取るよ!まりあがすずにくれるものは、かわいくてもかわいくなくても、かっこよくてもかっこよくなくてもなんでも、全部全部ほしい!……それに、まりあの恋心をすず以外の誰かにあげちゃうのは、やだ……」
すると、まりあがすずの指に自分の指を絡めて、同じつよさで握り返した。白くて細い、綺麗な指がほんの少し赤く染まっている。
「ふふ、すずちゃん。このかわいい気持ちをすずちゃん以外に渡したりなんかしませんよ」
「……うん、絶対そうしてね。あと、初めに訊かれたときに、ちゃんと答えてあげられなくて、ごめん」
「ううん、いいんです。まりあ、今がとってもうれしくて、花丸かわいいですから!」
そう言ったあと、まりあはすずの視界いっぱいをうめて、最高にかわいく笑った。
同時に、まりあの瞳のなかにある海が溢れて一気に外に流れ出す。その光景はなんだかとても神秘的で、美しかった。
海からとめどなく溢れる水が、ただただベッドに吸収されていってしまうのはもったいなく感じて、すずはその綺麗な水を舌で掬い取って飲み込んだ。
「やっぱり海はしょっぱいね」
そう呟いたすずを、まりあが不思議そうな顔で見た。
再び視線が交わる。
今度はすずからまりあに顔を近づけると、その海のなかには、かっこよく笑って泣いている、一人の女の子の姿が映っていた。
マリンアイズに揺れる