D4ぶらり旅 旅立ち〜キョウトディビジョン編本日脱獄日和ということでけたたましいサイレンの鳴り響く刑務所から抜け出したのはデスペラード四人衆。
「どこに行きましょうか。」
「なんで毎回派手に脱獄すんだ。」
有馬正弦が面倒臭そうに頭を掻いている。
「そうだな。燐童は看守とズブズブじゃないか。」
追ってを振り切って走って逃げて来た谷ケ崎伊吹も息をあげながら阿久根燐童に文句を言う。
「嫌だなあ。ズブズブな訳じゃあないですよ。それに僕、派手なパフォーマンスが好きなんですよ。」
燐童はにこにこしながら答える。
「それにしては中王区で暗躍していたじゃないですか。」
「性に合わねえからやらかしてクビになったんだろ。」
時空院丞武が茶化せば有馬もそこに乗る。しかしそんな煽りなどものともせず我が道を進む燐童が提案したのは
「前に東都で捕まっちゃったんで、もっと西まで行っちゃいましょうか。」
だった。
「西?」
「私八ツ橋食べたいです。」
「はあ⁈お前黙っとけ。」
「八ツ橋……キョウトですね。今面白い教祖がいるって話題の所ですね。行ってみますか。」
「「はあ⁈」」
「八ツ橋、抹茶パフェもいいですね。」
時空院は早速スマホで甘い物を検索し出す。
「遠いな。」
「出来るだけ遠くに逃げるのは鉄則でしょう?」
「そんなわけねえだろ。燐童何企んでるんだ。」
「おい!遊びに行くんじゃねえぞ!菓子ばっか見てんな。」
「有馬くん、なにをそんなにイライラしてるんです?ああ。コレ、差し上げますよ。」
ポケットから茶色い液体の入った小瓶を取り出す。
「なんだこれ。」
「メープルシロップです。」
「……普通だな。」
時空院は有馬の言い方が気に障ったらしくグリグリと胸に押し付けてきた。
「痛えな!いらねえ……いらねえっつってんだろ‼︎」
「じゃあキョウトに決まりですね。」
脈絡なく決定が下される。
「「はあ⁉︎」」
「いいですね。お団子もありますよ。」
時空院はご機嫌だが他の二人は乗り気ではない。
「谷ケ崎さん、山田一郎に勝つには彼のようなカリスマ性も必要ですよ。お勉強してみては?」
「……。」
「あーあ。谷ケ崎、騙されんなよ。」
「有馬さんは黙ってて下さい。」
「有馬くん、キョウトはラーメンも有名みたいですよ。」
「お前は食べ物ばっかりだな。」
「軍にいた時はあまり自由に食べられませんでしたからね。反動でしょうか。」
「知らねぇよ。」
一、キョウトディビジョン
「電車長すぎだろ。」
着いた瞬間に悪態。有馬はずっと寝ていたくせに何故か機嫌が悪い。といっても彼は機嫌の良い時がほぼ皆無なので周りも何も気にしない。
「ちょっと売店に寄りましょう。」
そしていつでもテンション高めの時空院が勝手に売店に入っていく。
「蜘蛛の糸?変なもの売ってますね。幸せになれる??わけないじゃないですかね。」
と機嫌の悪い有馬の目の前にわざと掲げる。有馬が振り払おうとした瞬間「売り物ですよ。」と燐童が横から口を挟む。行き場のなくなった手をしぶしぶ下ろしながら「クソッ」と更に機嫌悪そうに吐き捨てる。
「ご当地名物なのか蜘蛛の糸。菓子やらキーホルダーやらたくさんあるな。」
谷ケ崎が不思議そうに眺めながら呟く。
「これがカリスマの力ですよ。」
燐童が笑いながら言う。「それにしてもいろいろありますね。」などと感心しながら物色している。
「なんでこれがカリスマなんだ。」
「これ全部いち宗教法人が出しているグッズです。中には派生したのもありそうですが、まあ土産物になるくらいは浸透してるんですね。ビジネスもお上手だ。」
学校帰りの女子校生たちが「このしあわせクモちゃん、駅限定なんだよ。」と手に取っている物にも「糸の会」とタグに明記されている。「この間弾襄様の配信尊すぎてお小遣いお布施したよ。」と言っている。
「なるほど。カリスマ性は高そうだな。」
「この菓子に載ってるおっさんが教祖様か?」
と有馬が言うと女子校生たちが有馬を睨んできた。なんだと思っていたら
「ちょっとあんた。弾襄様のこと侮辱したわね。」
「は?」
「弾襄様は私達を幸せに導いてくださるのにそんな言い方をしていると地獄に落ちるわよ。」
女子校生はすごい剣幕だ。流石の有馬もその勢いにはたじろいだ。
「すみません、お嬢さんたち。この人日本語がまだ不自由なんですよ。嫌な気分にさせてしまってごめんなさい。」
燐童が女子校生を宥めるように謝る。すると「ふん!」と言って去っていった。
「随分と盲目的ですねえ。」
「それだけ惹きつけるものが糸の会にはあるんでしょう。」
「しかし、俺にはこんなトチ狂ったサングラスをかける勇気は出ないな。」
「谷ケ崎さん、そこじゃないですよ。」
「谷ケ崎は真っ白な服も似合わねえだろ。」
「だからそこじゃないです。」
「このお饅頭美味しいですかね。包装紙は燃やしましょう。」
旅は続く