D4ぶらり旅 オオサカディビジョン編二 オオサカディビジョン
「うわ、また簓さんおる。」
「あの人ヒマなんかな。」
「盧笙先生いっつも絡まれとるな。」
道頓堀ダイバーズの三人は文化祭で披露するネタ合わせも終わり帰ろうかと校門に差し掛かったところだ。
「なあ、ハル。これからカラオケ行かへん?」
「僕今日バイト。」
「ならリョータは?」
「俺彼女とデート。」
「……お前彼女おったか?」
「できたんよ!見るか?写メ。」
「いらん!あーもー‼︎盧笙せんせー‼︎」
「結局絡みに行くんやな、ヒロりんは。」
「じゃーなヒロりん。」
「僕も時間ないから帰るよ。」
「え?ちょ!俺も帰るー!簓さん、せんせーばいばーい‼︎」
賑やかな男子高校生が校門を駆け抜ける。門の前にいた男達に気付きパッと一礼して走り去っていった。
「元気なお子さんたちですね。」
「じじくせぇ。」
「僕とそんなに変わらないですよね。」
「燐童、それはない。」
せっかく関西まで足を伸ばしたのだから旨いものでもと思ってオオサカまで来たのにウロウロしすぎて何故か私立高校の前に来てしまったデスペラード四人衆。制服姿の三人の男子高校生が通り過ぎて行った。
「あ。学校ん中に白膠木簓がいる。」
「誰だ?」
「有馬さんは白膠木簓も知らないんですか。」
「⁈」
「伊吹はよくテレビで観てますよね。あれはお笑いの方でしょう。」
「アイツ結構面白いんだ。」
「谷ケ崎は甘ちゃんのお子ちゃまだからな。」
「なんだと‼︎」
「やめてください。有馬さんはお笑いとか見ないんですか。」
「見ねーな。普通に。」
「有馬は生きてて何が楽しいんだ?」
「うるせえ。」
「有馬くんはこうやってみんなで遊ぶのが楽しいんですよね。」
「楽しくねえ。」
四人の悪人面は学校内を覗いている。男子高校生らはそれを見逃さない。
「なあなあさっきの校門とこおったおっさんら、どう思う?」
「どう見てもヤバそうやったな。」
「学校ん中覗いとったし。」
「したら盧笙先生にLineしとく?」
「「せやな。」」
文化祭の出し物の関係で連絡先を交換していたハルが盧笙へ不審者情報を送る。
ピコン
「なんや。……不審者?」
「不審者ってアレか?」
簓が扇子を開いて踊りながら前に突き出した先にいかにも柄の悪そうな四人の男。
「ありゃヤバそうやな。生徒達に絡まれたら困るな。」
「ふんふん。」
盧笙の目の色が変わる。こういうことには昔の血が騒ぐのかもしれない。
(ありゃりゃ。盧笙の方がヤンキーやん。おもろそ。ついてこ。)
盧笙は意気揚々と校門に向かって歩いていく。簓はひょこひょこと後ろをついて行く。
「君らうちの学校に何か用か。」
盧笙が四人衆に声を掛ける。
「?なんだ?」
有馬が盧笙に嬉々として向かって行く。
(あかん。相手もケンカ上等人種やん。)
このまま学校前での喧嘩は盧笙の教師人生にも関わると思った簓は「なあ。あんたら暇か?」と盧笙の後ろからヒョコッと顔を出す。
「お、白膠木簓。」
「良かったですね、伊吹。」
「有馬さん、こんなとこでケンカはやめてくださいね。」
燐童が有馬の肩に手を置く。その手は圧が掛かり重い。
「うるせえ。」
有馬は肩をぐるっと回して燐童の手を外す。
「なあなあ出会いを祝して俺と飲み行かへん?もちろん簓さんの奢りよ。」
酒は刑務所では飲めないし、出てからもまだ一滴も口にしていない。
「いいですね。ちょうど喉も乾きましたし。」
「そうですね。お酒は久しぶりです。」
「まあ付き合ってやってもいい。」
「ほんとに奢りなんだろうな!」
「あったりまえや。簓さんに二言はない!あ、飲み友追加してもええか?」
そう言って一本電話を掛ける。一瞬で「ほなあとで。」と話がまとまったようだ。
「ほんじゃ、ま、いこか。盧笙仕事終わった来るか?」
「ああ……今日はこのあとテスト作らんと。申し訳ないが……」
「そっか。じゃ、あとでな。」
「おい‼︎」
簓と四人衆は繁華街へ向かう。
「お、ここや。ツレが先に来てるはず。」
簓は店内を見回し「あ、おった。」と店員に了承も無しにつかつかと店内のテーブルへ。
「よお!簓。待ちかねたぜ。ん?お友達か?」
シャツ一枚のラフな格好で大柄の男が手酌をしながら飲んでいた。傍には大きなファーのついたゴツいコートが無造作に置いてある。そして既に何本ものビール瓶がテーブルの上を占拠している。
「山田零?」
「天谷奴……」
時空院と燐童が口の中で呟く。居酒屋の喧騒で消えてしまうくらい小さな声だったはずなのに零はニヤッと口角を上げる。
「零、いくらなんでも飲みすぎやろ。ん?どうした?みんな座ってええよ。」
簓は零の隣にためらいもなく座り、立ちつくしている四人にも席をすすめる。
「ッス。」
素直に谷ケ崎が先陣切って座ると「酒。酒。」といつもの不機嫌さはどこに行ったのかメニューに手をかける有馬。時空院はそれでも何も無かったかのようにスッと席に着く。燐童は零を睨みつける。
「おーおー。ちびちゃんも早く座れよ。」
とわざと煽るように零が言うとフンッと不機嫌そうに腰を下ろす。
酒とツマミに上機嫌な有馬はガバガバ飲み食いをしている。谷ケ崎も久しぶりの酒の席で遠慮がない。簓とお笑いの話をしたり笑い声も上がる。
対して時空院と燐童は静かに零の動向を伺っていた。
(なぜ山田零がこんなところに。)
(天谷奴、今度はオオサカでなんかする気なのか。)
「なあ、お前らも飲めよ。おいちゃんはみんなで楽しく飲みたいんだよなあ。」
零が二人に面白がってちょっかいを出す。
「はい。いただいてますよ。」
「…………。」
時空院は返事をするものの燐童は警戒心剥き出しだ。
「こいつ変なやつやけどそんなに悪い奴でもないで。」
と簓がフォローするが燐童は無視だ。
「阿久根くんは人見知りなんですよ。そのうち打ち解けますよ。」
と時空院が簓へ返事をする。時空院の隣で燐童は憎悪の炎を静かに燃やしている。そんな様子に「何があったのかわかりませんがここでそんな態度は得策ではありませんよ。」と静かに耳打ちをする。燐童はフゥと一息吐くと「失礼」と言って席を立つ。
「お、おいちゃんもトイレ行こっかな。」
と立ち上がるのを見て時空院が
「今、阿久根くんが行ってます。ここトイレは一つしか無いようなので待っていた方がいいですよ。御老体でずっと立って待つのはしんどいでしょ。」
と微笑む。
「おいおい、御老体ってほどの歳でもねえんだけどな。」
「冗談です。」
時空院はニコニコしながら零のグラスに酒を注ぎ込む。
「あなたはこのくらいの量でトイレに駆け込むような人じゃあないでしょう。」
「ほお。」
「それより甘めのお酒をいただけませんか。この酒の味では酔えません。」
「おお、そりゃ悪かったな。チョコレートリキュール瓶のまま持ってきてくれ。」
零が大声で注文する。
「チョコレートリキュール⁉︎そのままって飲めんのかいな。」
「そのまま……だろうな。」
「ほんとイカれてんな。あんなのほっといてなあ、たこ焼き追加しようぜ。」
「お、ええね。おっちゃんたこ焼き追加!」
店を出る頃には簓と谷ケ崎と有馬はそれなりにいい酒だったらしく上機嫌。時空院はチョコレートリキュールをひと瓶開けたもののケロッとしているし、燐童は最初の一杯をずっとちびちび飲んでいただけで酔ったそぶりもなけりゃご機嫌もすこぶる悪い。
「いやーおいちゃん久しぶりに楽しかったなあ!」
なんて零が軽口叩こうもんなら舌打ちしている始末。零はそんな燐童を構い倒すものだから燐童の顔がみるみる怒気を帯びてくる。
「さて、我々はそろそろホテルに戻りますかね。」
時空院は燐童の肩を掴んで予約もしていない宿の方へ方向転換させる。
「そっか。ほな気ぃつけてな。」
すっかり打ち解けた簓が大袈裟に手を振る。
谷ケ崎は二人に一礼したが他三名は既に違う話をしながら歩き出している。
「簓ぁ、盧笙のとこで飲み直すか。」
「あんだけ飲んだのにまだ飲むんか。でも、ま、盧笙んとこは行こか。」
「はー。めちゃくちゃ飲んだな。それにしてもあのおっさん胡散臭そうだったな。」
そんな事を言い出した有馬は真っ赤な顔をしていて足元もおぼつかない。
「胡散臭そうじゃなくて胡散臭いんですよ。」
「燐童くん、余裕ないですね。」
時空院は燐童を揶揄うが実際胡散臭いのには同意だ。軍にいる時から言の葉党とも繋がりがあるともっぱらの噂だったが軍にいた時より胡散臭さに磨きがかかっていた。
「白膠木簓、いい奴だったな。でもどっかで会ったことある気もするんだよな。」
ほろ酔いの谷ケ崎も記憶の奥の方に既視感を覚えながらも酒のせいか思い出せない。
「もういいじゃないですか。それより今日の宿を探しますよ。」
燐童が一人でスタスタと前を歩き始める。
そして旅はつづく