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    はねた

    @hanezzo9

    あれこれ投げます

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    はねた

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    OFA初代と二代が気になります。デクくんはいい子ですね。

    #hrak
    lava
    #OFA
    #緑谷出久
    izuruMidoriya

    ever 石くれの下で与一は眠っている。
     横向きにまるまった姿がまるで胎児のようだと、そんなことを考えた自分にちいさく舌打ちする。
     コンクリートの床よりもずっと白い、その横顔をしばらく眺めた。
     伸びたきりの髪もシャツの袖からのぞく痩せた手首も、記憶にあるものと寸分変わらない。
     細いその肩に、与一は世界のはじまりを担ったままいつまでもおろさずにいる。
     伏せられた睫毛がかすかに震えた。
     のばしかけた手を、けれどもそのままおろす。拳を握りこめば爪が刺さったかちりりと痛んだ。生きてもいないのにおかしなことだとひとごとのように感心した。
     灯もないのに部屋はあかるい。三方の壁はほぼ朽ちているというのに、ただ一面ばかり、重厚な鉄扉がはめこまれている。
     見覚えのある光景だった。吐き気がするとやはりひとごとのように考えた。
     室の中央には椅子が八つ、円を描くように並んでいる。いずれも主はない。がらんとしたそこに目をやって、八番めの椅子の脇にちいさな子どもがいるのに気づく。
     いずれこの地にここのつめの座を占めるはずの子どもは、どうやらそれが常のことらしい、どこか不安げな顔をしている。胸のあたりで両手を握りしめた、その姿は世界の命運を負うにはずいぶんとあどけなかった。
     視界の端がちらりとゆがんで、これは子どもの見ている夢なのだと気づく。
     ひとの世のことわりをはずれてずいぶん経つから、なにが正しいことなのかもわからなくなっている。
     かつて子どもの口元を覆っていた靄はいまはない。
     しばらくして、かすかな声が耳に届いた。
    「すごいですね」
     夢だというのに子どもの腕や足にはいくつもの傷がついている。綺麗なものばかりを見てきたわけではないだろうに、その声はふしぎと澄んでいた。
    「みんな戦ってきたんだ」
     満身創痍の姿で、子どもはそう言った。八つめの主が座るはずの、そこにちいさな手をゆっくりと触れさせる。
     慈しみと憧れと、それらを向けるべき相手はけれどいまはそこにない。それが子どもの望むことなのか、それともと考えかけてやめた。夢のゆくたてをさだめられるものなどおそらくはいない。 
    「すごくなんてない」
     そう言えばこどもはきょとんとする。まるで小動物のような、そんな場合でもないのについ笑ってしまう。
    「これは叶わなかった夢のなれの果てだ」
     手近にある椅子を軽くたたいてみる。こんこんという音はあたりに妙に響いて聞こえた。
     与一は眠っている。それにちらりと目をやって、ゆっくりと先を続けた。
    「おまえがどう思っているかはわからないが、この椅子は結局俺たちの墓だ。この椅子が増えれば増えるだけ、それは俺たちの夢が叶わなかったということの証になる。どんな綺麗事でくるんだって、俺たち全員が命を託した大事な誰かに死なれたことに変わりはない」
     子どもはなにを思うのか、黙ってこちらの話を聞いている。その目は綺麗で、どのような言葉をぶつけたところでけしてゆがまない。
     だからだろうか。ふと口から、言わなくてもいいようなことがこぼれ出てしまう。
    「つないでつないでそれでも終わらないで、そのうえあいつが閉じこめられてた部屋に強制的に全員逆戻りなんて最悪のコンテニューだ。……しかもあいつはいまだに自分をあのくそ野郎の片割れなんて言う」
     八人だ、そう言えば、ちいさく息を呑む気配がした。
    「それだけじゃない、何人も、何十人も、いいやもっと数えきれないくらい、誰かの大事な誰かが死んでいった」
     なのに、そう呟くことも未練だとは頭の隅でわかっていた。
    「……俺だけまた会えて嬉しいなんて言えないだろう」
     子どもはただ黙っていた。
     つくりものの部屋はしらじらとして明るく、けれど床にはひとつの影も落ちていない。
     与一は静かに眠っている。たがいに生きてはいないはずなのに、そこに寝息さえ聞きとってしまいそうなのが我ながらおかしかった。結局この身は未練のかたまりなのだと割り切れば、あるいはそう思うことも許されるのかもしれなかった。
     どれくらい経っただろうか。
     しばらくして、ぽつりとちいさな声がした。
    「マイヒーローって言ってました」
     見やるそのさき、子どもは胸元にある拳をぎゅっと握りしめる。すうと大きく息を吸いこんで、意を決したように、あの、と言った。
    「ええと、自分語りみたいで申し訳ないんですけど、僕は子どもの頃からずっとヒーローになりたかったんです。オールマイトみたいになりたかった。それであの、僕のっていうか僕たちの世代のヒーローになりたいっていうのはたぶん、警察官になりたいとか消防士になりたいとか、そんなのとちょっと似てるかもしれなくて、僕たちのいうヒーローっていうのはお仕事で、ええと、それだけじゃないとこもあるけどでも割とそんな感じで、……でもきっとあなたとか初代にとっては違うんですよね。ヒーローって言葉が職業じゃない、純粋な憧れっていうか、そういうのだった時代に生きてたひとたちなんですよね」
     子どもはひとつひとつ言葉を確かめるようにする。誠実で穏やかなその声に、ふといつかの与一の話をおもいだす。
     幼き日に兄と読んだという漫画の話だった。苦難の果てに悪は倒され正義は勝利する、そのヒーローについて語るとき、与一はほんとうに嬉しそうな顔をしていた。
    「初代が自分のこと悪の片割れだっておもうのをどうしてもやめられなくても、いいえ、だからこそ初代にとっては、あなたが世界を救ってくれるヒーローなんじゃないでしょうか」
     子どもの目はまっすぐで揺るぎない。幼いその身に一体どれほどの荷を負うつもりなのかと気圧されて、それからすこしおかしくなる。
     歴代の苦労性まで引き継がせるつもりはなかったのになと、それは胸のうちにとどめておく。
    「さすが九代も経ると大したものだな。俺よりずっとすごい」
     そう言えば、子どもがへっと妙な声を出す。いやそのそんなと慌てふためくところが、先ほどの威勢はどこへやら、こらえきれずに声を立てて笑ってしまった。
     まじめに言ったのに、などとどこか不満げな声をいなしつつ、与一のそばに歩いていく。
     かがみこんでその頬をなでた。ひゃっと照れたような声がうしろからするのがまたおかしい。
     ひいやりとしてつめたい、それが記憶のなかのなにかを呼び起こすようなのを、かぶりをふってなきものとする。   
     与一はいまここにいる。それだけで十分だった。
    「その理屈で言えば、俺はこいつより少しましだ」
     背後で子どもがええとーとしどろもどろなもの言いをする。歴代継承者のうちでも最多の能力を御するものは、まったく素直で裏表がない、とりつくろうことも教えてやるべきだろうかと考えつつ、与一の髪をくしけずる。
     指先に触れる、髪も頬もやはりつめたい。けれどもときおり瞼がふるえて、その命がたしかにそこにあることを知らせる。
     床に投げだされた指を、起こさぬようにゆっくりととる。
     いつかこの部屋で同じことをしたとき、この手はしっかりとこちらの指を握りしめてきた。
     せめて夢でくらい穏やかに眠ってほしいと、そう願いつつほっそりとした指に口づける。
    「おまえの目が確かだったと、今度こそ証明してやるよ。……俺のヒーロー」
     





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