「そろそろ俺だけに集中してくれない?」
突然に降ってきた拗ねた声とスマホの画面を覆い隠した手に俺は顔を上げ、唇を尖らせた浮奇と目が合って笑みをこぼした。拗ねているという割には舌足らずで柔らかい声音と、とろんと力の入っていない瞳。
「酔ってるな、浮奇?」
「酔ってるよ。だってふーふーちゃんがずぅっと一人で楽しそうにスマホばっか見てるから。……俺がここにいるのに」
「悪かった。ほら、おいで」
スマホを置いて腕を広げれば、浮奇はワイングラスを片手に持ったまま俺の足の上に乗っかった。腰を抱き寄せて距離を詰め、酔いが回って赤くなった頬にキスを落とす。
「浮奇といるのが当たり前すぎてついリラックスしてしまった。寂しい思いをさせてごめんな?」
「……まあ、リラックスしてくれてるなら、それでもいいけど……。……何してたの? ツイッター?」
「ああ、ファンアートを見たりリプライを読んだりしていたら時間があっという間だ。そうだ、新しく投稿されてた俺たちのイラストでとても良いものが」
「ストップ」
俺の言葉を遮るように、浮奇は人差し指を俺の唇に触れさせて「しぃーっ」と囁いた。口を閉じてジッと見つめると満足げに口角を上げた浮奇が顔を近づけてきてゆっくり唇が重なる。
浮奇お気に入りの赤ワインとキスを一緒に楽しみ、ふわりと酔いが回った気がして俺から唇を離した。さっきより頬を赤くして目をとろけさせた浮奇がこてんと首を傾げる。
「……水、のまないと」
「んん……ふぅふぅちゃんも、酔っちゃった……?」
「もしかしたら、すこしだけ。……でも、やっぱり、もういっかい」
「いっかいじゃ足りないでしょう?」
浮奇はくすっと笑ってワイングラスをテーブルに置き、俺の頬に両手を添えた。酔って体温の上がった浮奇の手が気持ちよくて目を細める。
水を飲んで、さっさとベッドに入って眠るべきだ。新しい一年が始まったといっても俺は明日もいつも通り朝から配信だから睡眠時間は減らせない。ちゃんとわかっている、俺の唇をおいしそうに食んで可愛らしいリップ音を鳴らす浮奇に絆されてはいけない……。
「ん、ちゅ、っん、あぅ、……まだたりないよ、もっと……」
「……、あと、ちょっとだけ」
「うん、ちょっとだけ。えへへ、だいすき」
幸せそうに綻ぶ顔も、とろけた瞳も、気持ちのいい唇も、全部独り占めして浮奇と触れ合える時間に勝るものがあるだろうか。あまいキスだけでくるりと手のひらを返す自分のチョロさを心の中で笑いながら、可愛い恋人のキスに応えた。大丈夫、明日の朝のアラームはもうセットしてあるから。