月が降りてくる 例えば愛情と性欲を区別して考えるべきであるように、何かをうつくしいと思うことと、それを自分のものにしたいという欲求は本来は分離して存在するべきなのだろう。美術館で美しいと思った絵画や彫刻を家に持って帰ろうとはしないだろう。そういうことだ。
つまりは。
「ドクター、酔ってます?」
「たしょうは」
困ったものですねえ、とリーは呆れたような表情になったが、しかし自らの頬に添えられた手を振り払うつもりはないようだった。ドクターはリーの両頬に手を添えて、自らの方へを顔を向けさせていた。酔っている、という自己申告の通りに、ドクターの手のひらは随分と熱い。じい、と。瞳を逸らすことを許さないというように、自らの顔を覗き込むドクターに、彼はただ穏やかに苦笑して答えた。
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