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    totorotomoro

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    totorotomoro

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    2022/10/4 それは大陸版の衣装発表の記念日…。
    リー先生の衣装にたぎった我々は、それをぶつけるため各地に創作部隊を放ったのであった…(与太話)

    #鯉博
    leiBo

    Trick or Treat? ───あっ、ドクター!? おれです、リーです! 忙しいとこすみません、助け、助けてくださいっ。ちょっ、男のそんなとこ触るのナシでしょうが。ちょっと! 何か話してくださいよ! やめっ、落ち着いてっ……ドクター聞こえてますか!? ドクターお願いです、助け……うわっ。来ないで〜!

     ガタガタンゴツン、ゴッ───ゴトゴトッ……ピッ、ブツッ。

     え、なにこれ。新手のAV?

     沈黙した携帯端末を見下ろして、ドクターはたぷたぷと画面に触れた。直前に連絡してきたのはさっき名乗ったリーの携帯端末からで、最後の物音は端末を床に落としたか何かだろう。かけ直そうかと思ったが、通話の状況的に相手が出るわけもない。
     リーの声音から直接命に関わることはなさそうなのだが、なりふり構わずヘルプを求める姿にドクターは端末をポケットにしまうと執務室にあるコンソールからリーの今日の公開されている予定を呼び出した。朝から順番に斜め読みをして、直前のスケジュールを見て居場所がわかったドクターは席を立った。

    「あ、ドクター。どしたの? 今みんなでフィッティング中だから針があって中は危ないよ〜」
     顔見知りのオペレーターが入り口に立ったドクターを見かけて親しげに声をかけてくる。長めの期間貸し出しているホールの中は男女問わず針作業が大好きなオペレーターたちが手に手に色とりどりの布や針道具、メイク用品などを抱えて、その他色々と楽しそうに動き回っていた。来たるハロウィンに向けて、各々が衣服の準備や飾りつけを用意しているのかでそれなりに賑やかだ。
    「リーは?」
     その言葉にぴくりと戸口近くにいた別のオペレーターが反応するのを見逃すドクターではない。もごもごと「あ、その」なんて反応を返す。
    「本人がヤだって言ってるんだから、出しなさい」
     ちゃんと本人の許可は取ってから、と言うと、一人の視線が奥にある仮設のフィッティングルームに飛ぶ。
     ドクターは靴を脱いで───作業中素足でも歩けるようにと、普段のホールにはない敷かれた───カーペットを踏み締めてトストスとそちらに歩いていく。
     それを見た他のオペレーターが「ドクターがそっちに行くから針チェック〜」と声が飛び、ドクターを視界にとらえた周りのオペレーターたちが慌てて通れるように道を広げてくれる。
     片付けの速度に合わせてゆったりと進み、途中服の上から衣装を合わせていたオペレーターが「ドクターだ〜」と手を振ってくれるのに応えて、フィッティングルームのひとつにたどり着いた。
     振り返って、これ?と指せば、入り口でドクターとやりとりしていたオペレーターがこくこくと頷いたので、ドクターはそちらを見た。
    「リー、居る?」
    「……居まぁす」
    「遅くなってごめんね。未遂?」
    「……もうヤられました」
    「それはご愁傷様。開けてもいい?」
    「───いいです」
    「開けるよ?」
     そうやり取りして、カーテンを少しだけ引く。
     隙間から顔だけをのぞきこんで、ドクターは思わず「おお」と呟いた。

     広めのフィッティングルームの椅子に座ってぶすくれた顔のリー。黒のシルクハットと黒の燕尾服、壁に立てかけられた短めのステッキ。これ自体の組み合わせはそう大して珍しいものではないと思う。しかしリーのために誂えているだけあって、袖口や中のシャツ、内側の布地の色は緑で揃えてある。しかも炎国の衣装様式も取り入れた、まさに彼が着るにふさわしい装いだった。
    「おお〜」
    「なんです」
     カーテンから手を離して、ぱちぱちと手を叩くとリーはじろりとドクターを見た。付き合いがそれなりのドクターにはわかる。これは大変に照れているのだ。
    「ねっねっ、すごいでしょ!? ドクター」
     カーテンが開いたのをチャンスと見たか、後ろからロベルタがするりと入り込んでくる。カーテンをさっさと全開にして立っているドクターを少しずらして入ってくる光源の向きを見つつ、リーの顔に触れてテキパキと顔の色味を調整していく。
    「ドクタぁー……」
     リーは強く出れないのか、助けてと視線と不愉快そうに揺れる尻尾で訴えてくる。ドクターがそろそろ止めてあげようかとした辺りで、リーの両頬を指先でそっと押しつつ向きを微調整していたらしいロベルタがひとつ頷いて口に咥えたブラシを片付け始める。どうやら終わったらしかった。
    「ロベルタ」
    「うん、もう終わったよ〜。今日はまだ仮だしね」
    「仮なんですね……」
     ぐったりとした様子でリーは肩を落とす。
    「リーさん、ちょっと帽子かぶってみて。───うわぁ! すごい! 私が出会ってきたどんなスターにも負けてないよ!」
     ほらほらと立たせて、ついでにと他のオペレーターに持ってきてもらったまっさらな靴を差し出して履かせる。その手腕の見事さに、ドクターは今後リーを誘導する際に使えるかも……とロベルタの行動を全部覚えておこうと思った。
     リーはドクターにまで見られて、もうお人形になることに決めたらしい。ただ尻尾はしおしおと下がったままで渡された靴べらを使いながら靴を履いた。
    「ああ〜! 完璧〜!」
     ロベルタの悲鳴に、周りの視線がこちらに向いたのをドクターは背中で感じた。
    「おっさん着飾って、何が楽しいんですかねぇ……」
     無意識にかでポケットに入れていた何かを探ろうとしたリーははたと手を止めた。おそらく煙草だろうが、どのみち火気厳禁、喫煙厳禁だ。ドクターはそれを見越して自分のポケットをごそごそと探って目当てのものを取り出す。
    「リー」
    「なんです」
     ドクターはフェイスシールド越しににっこりと笑って、指先に摘んだ袋付きの棒付きキャンディを振って見せた。
    「要る?」
     トリック、オア、トリート? と言ってごらん。
     ドクターは声に出さずにちょっとだけ踏み込んだ。
    「あなたって人は、ほんっと……」
     リーはその仕草の意味を察したらしく、ハァ〜とため息をついて、ギュッと目をつぶってからパッと目を開く。すっと伸びた背に、悪戯を含んだ笑み、するりと上がった尻尾。目深に被り直したシルクハット。くるりと手の中で回したステッキ。
     そこには大照れしていたリーはなく、イベントのためだけに今日招かれたといっても差し支えないひとりの奇術師が立っていた。首に下げていたサングラスをかけて、印象ががらりと変わって固まったドクターと周りのざわつきをよそに、さっさとドクターから飴を取り上げる。
    「───こういうのが、お好みで?」
     袋を破り、ぱりんと行儀悪く飴を噛み砕いたリーの姿に、一連のやり取りを見ていた周りの女性オペレーターが黄色い悲鳴を上げるまでがあとわずか。
    「負けたよ」
     ドクターは肩をすくめて、改めてリーの底知れなさに感嘆するのだった







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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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