「おはよう、ふーふーちゃん。」
「今日は凄く良い天気だよ。1日中快晴なんだって。」
「家で日向ぼっこしようか、それとも出かけてみようか迷っちゃうね。」
「そういえば育ててたお花がようやく咲いたんだ。明日飾るね。」
サラサラと指先で髪を梳き、囁くような声で浮奇は話しかける。穏やかな顔で目を瞑り横たわるファルガーからの反応は無い。頬に手を添え眠り続けるファルガーの顔を見つめた。
“スリープ”。稼働していた機械部分に負荷がかかりすぎたため正常に戻るまでの待機状態。肉体は最低限の生命活動だけに留めてファルガーは眠り続けていた。
「みんな待ってるよ。サニーも、アルバーンも。ミリーもエナーも、ヴォックスもシュウも、コンフィダンツも、そして俺も。みんなね。」
眠り姫は王子様のキスで目覚める、なんてロマンチックなものがあるけど試しはしない。揺さぶることも、「起きて。」と声に出すことも、決してしない。願いも不安も心に押し込めてまだ休息が必要なのだと、まだ時期ではないのだと信じて、ファルガーからの「おはよう。」をただ待ち続けるのだ。
作り物めいた生命力の薄い顔を切なく見つめ、僅かに感じる熱に縋る。目を見たい。声を聞きたい。笑う顔が見たい。楽しそうにゲームをする姿や、集中して本を読む姿も、嬉しそうに人と話す姿も見たい。その柔らかな声で名前を呼んで欲しい。
ファルガーが起きるのが明日なのか、来週なのか、はたまた数ヶ月後かなんて全く分からない。日々寂しさは募り1日が長く感じる。それでも、出来ることは信じて待つことだけなのだから毎日朝と夜に「おはよう」と「おやすみ」を言い少しお話をして、そばに居ることを伝える。
早く起きて、と願う気持ちがあるのは確かだけれど、また元気な姿を見られるのならどうかゆっくり沢山休んで欲しい。そしてまた一緒にゲームをしよう。
「また夜にね。」
名残惜しさを言葉とともに残して浮奇は立ち上がったのだった―――。