夢結ぶ絆「負けないよ、パパ!」
「ふふふ、それはどうかなっ!とうっ」
久々に見たセンスがいいとは言えないマントをはためかせ、大袈裟な口上で屋根の上から落ちてきた悟飯は少年のような笑顔で楽しそうにはしゃいでいる。
自分のことのように羞恥する俺を他所に、同じデザインのサーモンピンクがはためいた。
「グレートサイヤマン1号!」
「2号もいるわよ!」
ばしっと効果音の鳴りそうな決めポーズをとったままたっぷりと静止する。
「…ビーデルまで…」
つぅ、と伝う冷や汗。
腕を組んだまま眺めていると首を埋めるように肩を持ち上げたパンがだんだんと地団駄を踏んだ。
「ゔ〜〜〜ずるい〜〜っ!ぴっころさん!」
「え?」
ばっと振り返って駆け寄ってきたパンに嫌な予感しかしない。
「パンたちもあれやる!」
その一言の効力は絶大だ。
このくらいの年頃の子供がやるといって駄々を捏ねれば、やるまで付き纏われ、足元を転がられてあげく、やらなかった事を何年たっても仇のように掘り返してくる。
さっさとやってしまった方が身のためだろう。
幸い、悟飯もビーデルもそれをあげつらって馬鹿にしてくることはないだろう。
ゔん、と喉を鳴らして、しゃがみ込むと耳を貸せというパンに耳を寄せた。
「こうしてこうね。できる?」
「…わかった」
よいしょと抱え上げたパンを肩の上に乗せる。
少し腰を落として腕を広げた俺の上で、パンがぴっ!と指を張って、最近覚えたての口上を何やら叫んでいた。
「ふふ!パンとピッコロさんにパパとママは勝てないよ!」
「ぐぬぬ、ピッコロさんを味方につけるとは」
「大丈夫よ悟飯君、グレートサイヤマンの団結力を見せてやりましょう!」
早く終わってくれ、と思いつつ、パンを抱え直した俺に、行きますよ!と叫んだ悟飯の拳が飛んでくる。
それを片手でいなして、後ろに感じるビーデルの気を読んで、交わすと、2人の位置が一瞬で90度入れ替わった。
マントの死角から飛んでくるビーデルの足と、悟飯の拳を交わす。
腐っても格闘家だ。
パンのおままごとの1つとは言え、連携の取れた動きに、にやりと口元が綻びる。
「わわっ!パパとママ早い!」
「あぁ、そうだな。…パン。あれできるか」
「あれ?」
「最近練習してただろう」
あれだ、と軽くジェスチャーを入れるとぴんときたのか、元気よく頷いた。
「あぁ!うん!できるよ!」
よぉし!やるぞぉ!と意気込むパンの声を合図に、はぁっ!と放った気力だけで、悟飯とビーデルは軽く後ろに吹き飛ばす。
「わわっ、」
「ビーデルさん、大丈夫ですか?」
「ありがとう」
ふぅ、と息をついたビーデルに駆け寄った悟飯。
2人むかって、叫んだ。
「次はこちらからいくぞ」
だっと駆け出して悟飯の眼前に拳を突き出せば、その腕を払われ、わざと開けた脇腹へもう一つの腕が伸びてくる。
それを掴んで抑え込むと、上からビーデルが飛びかかってきた。
2人の視線が、俺に集まった瞬間。
「いまだっ!」
ばっ!と脱ぎ捨てたマントの中からパンが出てくる。
額に寄せられた掌とぎゅっとつぶられた眼。
「たいようけん!!」
パンの叫び声とともに、かっと輝いた気にうわっ、と目を覆った2人。
その隙に俺に首根を捕まれ吊り上げられた悟飯と、パンにぎゅっと抱きつかれたビーデルは諦めたように両手を挙げた。
「やったぁ!ピッコロさん!パンのかち!」
嬉しそうにぴょいぴょい飛び跳ねるパンを見て満足した俺は、ゆっくりと目を閉じた。
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「…あ、起こしちゃいました?」
もう一度、目を開くと視界に入った悟飯は吐息の方が多い声で、そう問いかける。
「…いや…俺は寝ていない」
その理由は、俺の腕の中ですぅすぅと寝息を立てるパンだろう。
心地よさそうに眠るその頬を撫でる手は愛、と言うやつに満ちている気がした。
「…ふふ、どんな夢見てるんでしょう」
「お前とは違ってしっかり修行しているようだぞ」
「え?知ってるんですか?」
「あぁ。お前も出来る筈だ。瞑想で修行をしたことがあるだろう」
あれと同じだといえば、ほぇえと気の抜けた返事が聞こえた。
「え、てか僕と違ってってなんですか?もしかして、僕の夢…」
「……さぁな」
えぇっ、どんな夢見てたっけと呟く悟飯。
その昔、荒野で覗き見た夢は今いくつも現実となった、と言えばどんな反応をするんだろうか。
腕の中にあるこの夢も、いずれ現実の世界で見ることになるだろうという予感を喜ぶ自分に、だいぶ絆されたものだなと思った。