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    🌸Sakura

    @sakurax666sword

    MHRのウツハン♀の民。

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    🌸Sakura

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    ウツハン♀
    とある大晦日の師弟の話。

    #ウツハン
    downyMildew

    大晦日の酔っ払いぱちぱちと囲炉裏の炎が音を立てる。
    炎が爆ぜて明るくなるたび、教官のほんのり赤くなった顔も照らされる。
    「教官、お酒はもうやめておきますか?」
    「うん…。今、とても良い気持ち。」
    目を細め、ふにゃりと顔が蕩けている。酔っ払いらしいと言えばらしいが、年上の男性と思えないこの可愛らしさは何なんだろう。
    しばし、その蕩けた満足顔を眺めてこちらも満足し、周りを見渡す。
    お正月料理の試食会でもあった今晩の食卓は、少量ずつ品数を作ったため、皿の数がやたらと多くなってしまった。でもどの皿もきれいに空になっている。
    不満と言えば、教官はどれも「美味しい、美味しい」と食べてくれるから、試食としてはあまり参考にならなかったことぐらい。
    「あ、でも、最後のお餅だけ食べちゃって下さい。私ももうお腹いっぱいで。」
    囲炉裏にかけた網の上で、1つ残った餅の表面が割れ、柔らかな中身は大きく膨らんでいる。
    「うん。頂くよ。」
    教官の返事を受け、餅を網から外し、その膨らみを崩さないようにそっと醤油皿に載せる。火に炙られていた時よりは若干絞んでしまったが、餅の上部はぷっくりと膨らんだ形をまだ残している。
    「今度のお餅は、何に見えますか?」
    餅がそれぞれ不可思議な形に膨らむものだから、先程まで教官と何の形に見えるか言い合いながら食べていた。
    フクズク、提灯オバケムシ、ヨツミワドウ…。テッカちゃんとゴコクさまに見えた餅は特に凄かったな。
    「うーん…」
    教官はあちこち角度を変えて餅を眺め…
    「愛弟子に見える。」
    真面目な顔で言い切った。
    「えぇ…?こんなにふっくらしてますか、私。」
    「この辺りがキミの髪型に似ていて、白くてすべすべでもちもちしてそうで可愛い。」
    「…酔ってますね。」
    教官は据わった目つきで、とうとう餅の比較的冷めた表面を撫で始めた。
    「分かりました、分かりました。可愛い私を早く食べちゃって下さい、教官。」
    おざなりに言って、手近な皿を重ねようと手を伸ばす。その腕を、熱く大きな手でがしりと掴まれた。
    「え」
    顔を上げると大きな口が見えた。きれいな形の一対の犬歯、暗く赤い口の中、少し酒精の匂い。
    呑み込まれる――
    熱気と匂いが一際濃くなった瞬間、鼻に微かな痛みを感じてふっと全てが過ぎ去った。
    「…何ですか!?」
    「食べて下さいって言うから。」
    「餅の話ですよ!大体、本当に齧りますか!?」
    ごく軽く歯を当てられただけとは言え、なんだかじんじんとする。噛まれたところを中心にひどく熱いのは動揺のせいだろうか。
    鼻に跡がついていないか、指でさすって確かめる。
    その間に教官はのんびりと餅を咀嚼している。何なんだ。
    今度こそ他の皿を重ねて洗い場に運び、皿を並べていた辺りをざっと拭き上げる。布巾を片付けていると、教官も餅を食べ終わったようで最後の皿を持ってきてくれた。
    「そろそろ日付が変わるかな?」
    「そうですね。」
    「ちょっと外に出て月の位置を見に行こう。」
    せっかく火で温まった屋内で何を言うのか。正直、勝手場に立っているだけでも外から吹き付ける風で凍りつきそうだ。
    「寒いから嫌です。」
    そっぽを向いて囲炉裏の方へ戻ろうとすると、ぐいと肩を引き寄せられた。
    「温めてあげるから。」
    もはや吐息のような掠れた囁きを耳の近くに落とされる。
    ぞくり、と背が震える。
    そろそろと顔を向けて教官の様子を窺う。こちらを熔かすような熱っぽい目と目が合い、縫い止められてしまう。しかしそれも一時のことで、教官はいつもの朗らかな笑顔で私を促す。
    「さぁ、行こう!」
    まだ呆けていた私は、そのまま手を取られて引き摺られるように玄関へ連れられていく。
    もう、本当に何なんだ。
    あんな言い方したからには、普通に抱き締めるくらいの温め方だったら「足りないです」って言ってやる。内心でよく分からない悪態をつきながら、月明かりの下へ教官と向かった。
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