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    pie_no_m

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    pie_no_m

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    昨年思い付いたネタで海の向こうの花火文化について調べ挫折しかけていたのをどうしても書きたくて強行突破したものなので諸々気にしないでください
    キス→ブラで付き合ってないです

    #キスブラ
    kissBra

    光の牡丹 キースのほろ酔い気分は、帰宅中、タワー前の広場に差し掛かったところで一旦醒めてしまった。しゅー、ぱちぱちという音、派手に噴き出す光、はしゃいでいる第十三期のメンバー――全員揃ってはいないようだ――を唖然として眺める。今宵はバーで引っ掛けるのもそこそこに、ウエストの部屋でチームメイトとゆっくり飲み直すのも悪くないと思っていたのだが、主に付き合わせる予定であったディノは両手から光の束を放出しつつキースの目の前を横切ろうとしていた。
    「ま……待て待て、おい、何してんだお前ら」
    「あっキース! おかえり! あのな、ブラッドが花火を買ってきてくれたんだ」
    「花火だあ……? ブラッドが?」
     だとしてもそれは走りながら持つようなものではないはずだと、元気いっぱいに両腕を振り回してそばを通り過ぎていったアキラにも一応声をかける。保護者同然で甘党の同期も、困り果てた顔でその後ろ姿を追っていった。
    「ええ、そうなのか? てっきりこう、風に乗せるものかと……」
    「いや危ねえだろ、火ィ点いてんだぞ」
    「キースの言う通りだ、ディノ。使用方法を伝え損ねた俺のミスだが、ほかに走り回っている者は……アキラだけだな」
     呆れたようなため息と共に、ブラッドが姿を現した。水の入った大きなバケツと、カラフルな袋を持っている。
     オフの度に、というほどでもないがよく足を運ぶリトルトーキョーで、廃棄寸前の手持ち花火が安く大量に売られていたらしい。異文化に触れることも研修の一環であるとして、時間の空いていそうなヒーローたちに声をかけたということだが――キースにはそう語るブラッドの眼の輝きが普段と違うことがわかっていた。こういう場合、嫌な予感は大体当たる。キースはそれでも、一応逃亡を図ろうとした。
    「あー、へえー、そりゃ良かったな。んじゃ、オレは部屋に戻」
    「何を言う、ルーキーたちの手本として、お前も少しは参加していけ」
    「そうだぞ、せっかくなんだし一緒に楽しもう、キース」
     いや花火の手本って何だよ。キースの声は少し離れた場所からのひゅるるる、ぽん、という軽快な音、そして歓声に呑み込まれていった。打ち上げ型の花火に興味を惹かれたディノが尻尾を振りながら去っていき、ブラッドは何やらごそごそと持参した袋を物色し始めた。ちょうどこんな季節に日本へ旅立ったときのことを思い出す。特有のじめっとした空気の中で、ブラッドの瞳の輝きは濡れも湿りもしていなかった。どれだけこの国の文化が好きなのかと呆れつつ、キースにはすでにその場を離れる気がなくなっていた。花火にではなく、爛々と眼を輝かせている想い人の動向に対する物珍しさ故だということは、口が裂けても言わないが。
    「キース、火を貸せ」
    「ええ、用意してねーのかよ……って、あっちか」
     よくテンションの昂りで花火ごと燃やし尽くさなかったものだと、他チームながら褒めてやりたい気持ちになる。「火元」やその仲間たちはぎゃあぎゃあと喧しく騒ぎながら、今は勝手に地面を転がる光に夢中になっているようだ。胸ポケットのライターをまさぐってブラッドに手渡してやると、代わりに細い紐状の何かを差し出される。
    「……何だこれ?」
    「線香花火だ」
     名前を聞いてもぴんとこない。こちらでは珍しいもので、ディノのように振り回してはすぐに駄目になってしまう繊細な造りで云々。微妙な早口で説明するブラッドが取り出したのは小さな蝋燭だった。キースのライターで点された蝋燭の炎に火薬部分をかざしてしばらくすると、花火はしゅわしゅわ音を立て始め、ばちばちと放たれる光が連鎖して大きくなっていった。下方でやたらと目立つオレンジ色の球が、微かな風に煽られる。
    「うお」
     思わず能力を使いそうになる前に、光の球は地面に落下し、キースの手には頼りない紐だけが残った。
    「……まあ、立ったままではそうなるだろうな」
    「先に言えよ!」
     キースの文句を無視して、ブラッドは姿勢を低くする。同じように隣にしゃがみ込み煙草を一本取り出すも、ライターを取られたままなことに気が付いた。ブラッドは自分の持つ花火に火を点けるところで、真剣な表情に声をかけることは憚られた。
     まったく、煙草と違って煙も吸い込めるわけでなし、何が楽しいんだか。頬杖をついて、ブラッドの線香花火が弾けるのをただ見つめる。相変わらずどことなく嬉しそうな顔で、ブラッドは一言呟いた。
    「美しいだろう」
    「……んー」
     ブラッドの手の先で、線香花火は激しく、それでも優雅に存在を主張している。オレンジ色の瞬きが、ブラッドの瞳に反射する。
     確かに美しく、どこか儚げに思えた。
     きっと今、この文化を一番正しく楽しんでいるのは自分なのではないか――口が裂けても言えない想いをひとつ増やして、キースは再び溢れる光へと視線を移した。
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    pie_no_m

    DONE
    日曜日の番犬 イエローウエストの夜。多種多様な人工灯に煌々と照らされた通りは一晩中眠ることを知らない。歓楽街としては魅力的だが、昼間と比べ物騒で、どこか後ろ暗く、自分の身を自分で守る術を持たない人間が一人で出歩けるほど治安が良いわけでもなかった。ひとつ裏の通りに入れば剣呑な雰囲気は特に顕著であったが、フェイスは気にした様子もなく、胸の前に大きな箱を抱えて歩いていた。一年のうち、もしかしたら半分は通っている道だ。警戒はしても、怯えはしない。その上、今夜は一人ですらない。
    「ごめんね、付き合わせちゃって」
    「気にしてないよ。明日はオフだし、むしろ体力が余ってうずうずしてるくらい」
    「アハ、ディノらしいね」
     歩を緩めて箱を持ち直したフェイスの少し後ろを、フェイスより大きな箱を抱えたディノがそれでも身軽にスキップする勢いで歩いている。箱の中身は、フェイスが懇意にしているクラブオーナーが貸し出してくれた音響機材だった。大きなものは業者に任せたが、いくつかは精密機器も含まれるので直接運ぶための人手が欲しいのだと頼んだところ、ディノは快く引き受けてくれた。『ヒーロー』としての業務終了後、そしてディノの言う通り明日は休日なので、【HELIOS】の制服は身につけていない。一般的な服を着た、背丈のある男が爛々と目を輝かせて歩く様は、この界隈で言えば異常だった。目を引いても絡まれないというのは、見た目のおかげで人種性別問わずエンカウントの多いフェイスにとって非常にありがたいことだ。最初にディノをクラブへと誘ったときも、似たような理由があったことを懐かしく思う。
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