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    azusa_n

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    モクルクとニンジャジャン4話。AルートED付近ネタバレあり。今日はごはん食べない。時系列飛んだけど仕様です。

    #モクルク

    ベッドに座って、膝に置いたボロボロの本のページを捲る。
    BONDの活動以前の仕事道具のひとつ、台本だ。
    入院中暇で辛いと泣きついたらナデシコちゃんが部屋から暇つぶしになりそうなものを見繕ってくれた中にあった。
    ……部屋は相当汚かった気がするが、細かいことは考えまい。

    足にはギプス、左手には点滴と、固定されているため散歩にもいけない。無理すりゃ全部取っ払うことはできるが、無理する理由ももうないし。
    病室ですることもなく、暇に任せて広げてみたものの、薄汚れた本の中で輝く台詞を直視する気にもなれなくて、文章をぼんやり眺めるだけ。

    彼の愛するヒーローなら嫉妬なんてしないだろうに。いや、変身前のスズメ・ニンドウならあるいはそんなシーンもあるのだろうか。
    変身前の彼についてはあまり詳しくないけれど、知ったところで理想のヒーロー相手じゃ分が悪いどころの話ではない。
    さて、どう折り合いをつけたものか。

    考えている最中、コンコンと控えめなノックの音がした。どうやらその相手が来てしまったようだ。
    「モクマさん、お見舞いに来ました。」
    「ありがと、ルーク。暇すぎて大変だったんだ。助かるよ」

    どこか見覚えのある紙袋を持ったルークが来客用のパイプ椅子に腰掛ける。
    「差し入れ持ってきたのに、看護士さんに食事制限があるから渡しちゃダメって言われちゃいました。」
    「あら残念。なにくれるはずだったの?」
    「これです」
    掲げられた箱ははずれ饅頭のものだった。酒を断られる辛さはあれど今は看護士に感謝したい。
    「…気持ちだけもらっとくからルークが食べな。」
    「はい、賞味期限もありますからね。退院したら新しく用意しますね」
    あれ、回避に失敗した気がするのはどうしてだろうか。

    「……俺は退院したらまずお酒ちゅわんに会いたいなぁ」
    「モクマさんらしいですね。でも、退院してもしばらくは控えた方がいいって聞きましたよ。」
    「えー、そしたらルークとの約束だって果たせないじゃない」
    お酒の飲み方を教える件は、せっかくDISCARDの件も片付いたってのに揃って入院していたせいで未だに実現していない。
    「ミカグラにいる間にモクマ先生の講義を受けられないかもしれないのは僕としても残念ですが。」
    「お、モクマ先生、なかなかいい響きかも。先生からの指示ってことでひとつ」
    「だめですよ。先生の体調に勝るものはありませんから。」
    「ルークのケチぃ。単位あげないんだからね」
    わかりやすく唇をとがらせて拗ねてみせても引く気はなさそうだ。
    「そうしたら来期も受講しますから。エリントンまで教えに来てくれるならいつでも大歓迎しますよ。」
    「その頃にゃお前さんのが忙しそうだ。」
    「……それは…前もって言ってくれたら調整します…。」
    「俺のお酒ちゃんよりルークのワーカホリックのが問題なんじゃないかって思う時があるよ。」
    「あはは…。」
    いきなり語調が弱くなったルークにこっちも苦笑する。

    「ちゅうか、さ。………俺でいいの?」
    死んだはずの父親は生きていて、諸々あった今は牢に入っている。父親としての行動は全ては演技だったと当人に言われた今も、ルークは彼を父と呼ぶ。
    面会しながら酒を飲む訳にもいかないだろうが、元々叶える気のなかった願いなら、機会を待つのも充分に検討する価値があるだろう。

    「僕としてはモクマさんに是非お願いしたいんですが。……迷惑でしょうか。」
    不安だと顔に書いてある。断られる理由は出来たが、こっちから断る理由なんてひとつもないってのに。まあ短い間に自分の人生を疑うような出来事がいくつもあったんだ。無理もないか。

    「ルーク、こっちおいで。」
    今座っている枕元とベッドの端の間をポンと叩いて、次に手招きをする。
    遠慮がちに近付いてきたルークの腕を引いて抱き留める。
    「モクマさん、なにを…」
    「暴れると点滴取れちゃうからじっとしてて」
    自分より背の高いルークの頭頂部を見るのはレアだ。顔を上げようとするのを制して頭を撫でるとすぐ大人しくなった。ルークが怪我人相手に無茶する奴じゃないのは織り込み済みだ。

    ベッドに膝をついて下を向いてるから表情は見えないが、耳が赤くなってるのは分かる。

    「ルーク、お前さんが迷惑なんてことはないよ。楽しく酒を飲む口実が増えるんだからこっちからお願いしたいくらいだ。」
    頭を緩く撫でて諭す。少し緊張がほぐれてきたか。
    「…本当ですか?」
    「多分、チェズレイもルークからのお願いだって言ったら暇くれるだろうし。ルークに余裕が出来たら教えて。いつだって出張講義しちゃうよ。」
    「……ありがとうございます。」
    「受講後も、ちゃんとおじさんの教えを守れてるかたまに確認しにいかんとね。お前さんとなら酒も飯もうまいんだから。」
    「モクマさんも体に障るほど飲んじゃだめですよ」
    「あー…善処するよ。」
    「そこは同意してくださいよ」
    「大事なルークにゃ嘘つきたくないからなぁ」
    「……ずるいなぁ。怒れなくなっちゃうじゃないですか」
    半分はただの呟きだったんだろう言葉を聞いて、一度ぎゅ、と強く抱き締めた後ルークを解放した。

    まだ気恥ずかしそうなルークは話を変えることにしたらしい。

    「……あ、あの。ところで、さっきから気になってたんですが、その本って?」
    何回か視線をやってそわそわしていたのは気付いていた。まあ、ファンなら気になるのは分かる。
    「ん? これ? 台本。ニンジャジャンのショーのやつ」
    「やっぱり、そうですよね!うわぁ、本物……」
    「はは、見てみる?」
    「いいんですか!ありがとうございます!」
    「中、きったないけど。」
    「汚いことなんてないですよ。モクマさんの努力の跡じゃないですか!」

    恭しく受け取って、そっと開いて。
    ゆっくり目を通しながら3ページほどめくって。

    「すごいなぁ。モクマさん、これ全部覚えてるんですよね」
    「何度もやらせてもらってるからねぇ。そうだ、練習がてら台詞やったげようか。」
    「いいんですか?!」
    「うん。他の人のとこ読んでくれる?」
    「はい!」
    前のめりで乗ってきた。この笑顔を見られるなら、ニンジャジャンの代わりも悪くないのかもしれないと思った。早速そんなことはないと叫ぶ心の一部と喧嘩をし始めているがそれはそれとして今を楽しむのに集中しよう。

    「ええと。 これは場所の名前を入れるのかな。なら、『ブロッサム病院に集まったみんなー、こんにちはー』」
    「そうそう。うまいうまい。」

    そんなこんなでニンジャジャンは俺、司会とワルサムライ役、仮想観客はルークの劇が始まった。


    時たま読み間違えたりつっかえたり。そもそも台本が汚くて読み取れない部分を確認されつつも、楽しい時間は進む。
    司会がワルサムライに襲われて、ニンジャジャンが助ける。バトル中にピンチになったニンジャジャンに観客の子ども達が声援で力を送る。
    だんだん慣れてきたルークは読むのが上手になってきたし、台本と交互にこっちを見る視線もきらきらと眩しい。

    ワルサムライとの対決の最後にはニンジャジャンの必殺技。
    「散り行く哀れな者たちに 捧げてみせよう彼岸花」
    こっちを見る視線がまっすぐ煌めいていて。でも少し遠くをみているようで、少し胸が痛い。こんな特別な視線を受けているのに、本来受け取るべき相手は俺相手ではなく、ニンジャジャンで。それを一番近くで見ることになるんだから。

    言い終わってもしばらくルークは動かなかった。
    「ルーク、ルーク。そろそろ次読んで。」
    「あ、すみません。ええと…、『こうしてニンジャジャンによりワルサムライは』……」

    細かいところはニュアンスでごまかしたが、なんとかとちらずシナリオをやりきった。


    「ってとこだね。 どうだった?」
    「はい、モクマさんはやっぱり格好いいなぁ!って。」
    「はは、ありがと。そうだね、ニンジャジャンはヒーローだもの。」
    「はい!ニンジャジャンは最高のヒーローですから。 モクマさんのニンジャジャンは最高です。」
    「ありがとね。」
    高揚した様子のルークはまだ語ってくれるようだ。
    「ニンジャジャンにもいろんなメディアがありますが、僕が初めて出会ったのがあの飛行船でしたから。ニンジャジャンはモクマさんだと言いますか。」
    「ん?」
    「モクマさんがニンジャさんでありニンジャジャンと言いますか」
    「??」
    言葉そのまま同一視をしているのか、それとも俺ヒーローなのだと言ってくれているのか。ルークの中の『特別で大切な存在』だと。
    甘い夢を見てしまいそうで困る。あまり考えるなと頭の中の冷静なところで警報が鳴り響く。
    言うことの意味がわからなかったと言う顔を崩さず小首を傾げてみせた。
    「……すみません、うまく繋がりませんでした……。」
    「なんとなく褒めてくれてるっぽいことはわかったよ。ありがとね。」
    捜査について考えすぎて妙な仮説に行き着いてしまった時のような感じにさせてしまったが、繋げてしまっていいのか判断がつかなかったのはこっちだ。そう仕向けた身では謝ることすらできないが、なんとなく申し訳ない気持ちで目を逸らすと、窓の外は既に夕焼け空だった。面会時間の終了も近い。

    「…って、もうこんな時間ですか。モクマさんといると時間忘れちゃっていけませんね。」
    「いんや、俺も楽しかったよ。」
    「モクマさん、また明日来ますね。」
    ドアを閉める前に一礼してルークは帰った。

    ルークの少し早足な足音が聞こえなくなるまで待って深く息をつく。


    彼の特別にカテゴライズされているのかもしれない。それはとても喜ばしくて。
    …でも、それは唯一ではないだろう? このままでいいのか、なんて。
    強欲で傲慢な希望が頭をよぎった。
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