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    つーさん

    @minatose_t

    辺境で自分の好きな推しカプをマイペースに自給自足している民。
    カプは固定派だが、ジャンルは雑食。常に色んなジャンルが弱火で煮込まれてるタイプ。
    SS名刺のまとめとか、小咄とか、思いついたものをぽいぽいします。
    エアスケブもやってます。お気軽にどうぞ。

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    つーさん

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    いつもと毛色を変えて、プロポーズ話。ただし、恋愛的な糖度はめっちゃ低い。低いけど、何か別の意味で濃厚な感じのイメージ。

    #ハドアバ
    hadabah
    ##ダイ大

    運命と番う(生存IFハドアバ) 耳に入った言葉を、アバンは正しく理解は出来なかった。だから、問い返すように視線を眼前の元魔王に向ける。
     ハドラーはそんなアバンを見て、もう一度同じセリフを口にした。

    「もういい加減に、諦めろ」

     諦めろと言いながらその表情は優しい。だからこそ、やはり、アバンには意味が分からなかった。
     いや、違う。
     分からないフリをしていた。分からないままでいようとした。その意味に気づいてはならないと、彼は強靱な精神力で己を律していたのだ。
     そしてそんなアバンを理解して、ハドラーは笑う。笑って、その場に膝をついた。
     かつての魔王、魔軍司令でもあった男の行動を、咎める者はいない。驚く者もいない。そこにいるのはアバンだけなのだから、目を見張るのもまた、跪かれたアバンだけだ。

    「ハドラー……」

     名を呼ぶ以外に何も出来ないアバンの手を、ハドラーが取る。まるで貴婦人にするように、忠節を誓う主にするように、アバンの手をハドラーは取った。
     目の前で膝をつき、己の手を取るかつての宿敵を、アバンは見下ろしていた。喉に言葉が張り付いたように何も言えないでいる。
     今すぐに、この手を振り払うべきだと分かっていた。その続きを聞いてはならないと、分かっていた。だというのに、動けない。
     そして、そんなアバンを知っているというように、ハドラーはアバンの手の甲に口付ける。騎士が姫に忠節を誓うように、愛を謳うように、絵になる所作で。
     ハドラーの唇が紡いだ言葉は、過たずアバンの耳に届いた。

    「逃れられると思うな、我が運命」
    「……ッ」
    「我が勇者、我が半身、我が闇よ。……我らの生ある限り、互いを思わず生きることなど出来まい。だからこそ、諦めろ、アバン」
    「ハドラー、お前は……」

     言葉だけを見るならばそれは、どこまでも甘い何かだ。まるで愛を囁くような、永遠を約束するような美しい言葉。
     けれど、その奥に刻まれた執着の強さと歪さを、アバンは確かに理解している。愛でも情でもない。ただ彼らは、知っていた。もはや逃れられぬほどに、互いの存在が大きいことを。
     彼らは、魔王と勇者の宿命の元に出会った。己の才を封じるように生きてきたアバンに、全てをさらけ出させたのは魔王ハドラーの存在だ。そして、ハドラーもまた、己にたてつくたかが人間の小僧を宿敵たる勇者と認めるようになった。その関係性は、歪で、愚かで、けれど強固だった。
     互いの生き様に嫌というほどに影響を与えた。勇者アバンは魔王ハドラーの存在があったからこそ誕生し、それゆえに魔王亡き世界では居場所を失って流離った。
     魔王ハドラーは勇者アバンと相対したことで今の武人としての精神性を手に入れた。長き時を生きた魔族を、たかが十数年の邂逅で変質させるだけの何かが勇者アバンにはあった。
     まるで運命のように、互いの存在から彼らは逃れられない。相手が死したと信じていた時間ですら、その魂の奥底に刻み込まれた存在を消すことは出来なかった。もはや、己が個としてある限り、お互いの影は永遠にまとわりつくのだ。そのことを、彼らは確かに知っていた。
     それでも逃げようと続けたアバンが、愚かであったのだろう。生きている限り、刻んだ記憶がある限り、互いの存在を消すことなど、彼らには出来ない。そうと知りながらも逃げようとしたのは、アバンの中に残る人間としての理性だった。
     けれど、全てが無意味であることが、突きつけられる。数奇な運命の果てに生を掴んだ元魔王は、アバンの傍らにいる。圧倒的強者でありながら人間に害することを放棄した彼は、無意味に討たれることはないだろう。ハドラーは、そこにいるのだ。
     ……だから、諦めたようにアバンは口を開いた。

    「我が魔王、我が半身、我が光……。忌々しくも切り捨てられない私の一部。愚かな人間の一生を、背負うおつもりで?」
    「愚かと罪と歪と言われようが、貴様の存在こそ我が生の意味。何を躊躇う、我が勇者よ」
    「流石は元魔王。人の身に過ぎぬ私よりも、思い切りが良いことで」

     にんまりと笑うハドラーに、アバンはため息をついた。本当に貴方は、と呟いた声音は柔らかな響きを宿していた。永遠の共犯者を手にしたことを、心のどこかで喜んでいると伝えるように。
     けれどアバンが口にしたのは、ただ一言だけだった。

    「ならば、我が生ある限り逃れられると思わぬことだ、我が魔王」

     勇者としての強さを宿した瞳を、ハドラーは真っ直ぐと見上げる。そして、愉しげに笑った。それでこそ我が勇者と、告げた言葉は互いの耳にだけ届いた。
     愛でも、恋でも、情でもない。ただ、運命が彼らを結んだ。表裏一体、鏡合わせのように、互いの存在が互いを支える。その歪な関係を、彼らはそれでも運命だと受け入れるのだ。



     光と闇、勇者と魔王、歪に結ばれたその運命で、彼らは確かに魂で番う。



    FIN
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