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    なつのおれんじ

    @orangesummer723

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    なつのおれんじ

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    オル光♀ / 欲しいものはただ一つ
    自機ヒカセン出てきます

    #オル光♀

    「こんな所で何をしているんだ、冒険者」
    「ひえっ!」
     オルシュファンの執務机を覗く冒険者の背後から、コランティオが声を掛けてきた。
    「なんだ、コランティオか……びっくりしたぁ」
    「お前が背後の気配に気づかないなんて、珍しいな。オルシュファン様に用事でも?」
    「う、うん……大したことじゃ無いんだけど」
     冒険者は苦々しい笑顔を浮かべながら、その手に持っていた、小さな赤い包みを背中にさっと隠した。しかしコランティオの目にはしっかりと映っていたらしい。成る程、と言葉に出しながら、コランティオは納得の表情を浮かべた。
    「君もオルシュファン様にチョコを渡しにきたクチか」
    「うっ。そのつもりだったんだけど、あれを見たら怖気付いちゃって……はは」
     冒険者が執務机に目を向けると、そこにはオルシュファンの姿が見えなくなるほど、色とりどりの包みが山のようにに積まれていた。ヴァレンティオンデー当日ということもあり、中身が全てチョコレート菓子であることは、冒険者にとって容易に察せられることだった。
    「オルシュファン様は人望が厚いからな。毎年、男女問わず色んな人から贈られてくるんだ」
    「やっぱりそうだよね……。遠目だからよく見えないけど、すごく高そうなパッケージとかもあるし……私の出る幕じゃ無い気がしてきた」
     冒険者は肩を落としながら、その場を立ち去ろうと踵を返す。しかし、慌ててコランティオがそれを制した。
    「待て待て。まぁ、中にはブランドの高級チョコもあるだろうが……君のチョコは、もしかして手作りか?」
    「うん。ラノシアオレンジのブラウニー、昨日の夜に頑張って作ったんだ」
    「なら大丈夫さ。自信を持って渡してみるといい」
    「でも……」
     コランティオに励まされてなお、冒険者は迷いを捨てきれないのか、俯きながらチョコの包みを握りしめている。いつになく弱気な冒険者の姿を見て、コランティオは仕方ないなと呟いた。
    「そういうことなので、後はよろしく頼みますよ、オルシュファン様」
    「──え?」

     冒険者が顔を上げた時には、既にコランティオの姿は無く、代わりに晴天の色をした瞳が冒険者を見下ろしていた。
    「コランティオめ、私は手作りに拘っているわけでは無いのだがな」
    「オルシュファン…!? な、なんでここに!?」
     冒険者が驚きのあまり目を見開くと、オルシュファンは珍しく狡猾な笑みを浮かべた。
    「私が菓子の山の向こうに座っていると思っていたのか?」
    「だ、だって、いつもあの椅子に座ってるから!」
    「ふふ、可愛い勘違いをしてくれたものだ。お前が来た時に座っていることが多いだけで、実際は動き回っている方がほとんどだぞ」
     穏やかな口調で言葉を紡ぎながら、冒険者をじりじりと壁側に追い込んでいく。普段と変わらない様子に見えて、オルシュファンは鋭い眼差しを冒険者に向けていた。
    「オルシュファン、もしかして怒ってる……?」
    「怒ってなどいるものか。ただ、お前が私に声もかけず立ち去ろうとしたのが悲しいだけだ」
     その場から逃れようとした冒険者を捕らえるかのように、オルシュファンは壁に手を突いて小さな身体を囲った。怯えているのか、それとも照れているのか、か細い呻き声が冒険者から漏れる。
    「それで、その手の包みは一体何だ」
    「ううっ……チョコレート、です」
    「ほう。誰に渡すものなのだ?」
    「それは……お、オルシュファンに」
     冒険者がその名を口にした瞬間、頭上から小さく笑い声が降ってきた。見上げれば、オルシュファンは冒険者を見つめながら目を細めて笑っている。笑わないでと抗議する声は、冒険者の喉から出ることなく消えていった。
    「ふふ……やはり私宛てなのではないか。ならば、どうして渡してくれないのだ?」
    「だって、オルシュファンはもうたくさん貰ってるし……それに、私が作ったのより美味しそうなチョコもありそうだし」
    「私に渡せない理由はそれだけか、ユゥイ」
     長身を折り曲げるようにして、オルシュファンは冒険者の顔を覗き込む。触れられているわけでもないのに、その低い声が近づいただけで、冒険者は肩をびくりと揺らした。淀みのない眼で一心に見つめられ、やがてその視線に耐えられなくなったのか、冒険者は観念して小さく口を開いた。
    「こ、こんなこと言ったら、軽蔑されるかもしれないんだけど」
    「お前がどのようなことを言っても、軽蔑などするものか」
     真剣な眼差しで、そう伝えられる。その言葉を受けて意を決したのか、冒険者はオルシュファンを見つめ返した。
    「……あのお菓子の山の中に、自分が埋もれるのが怖かったんだ」

     予想外の言葉に、オルシュファンは目を見開いた。
    「オルシュファンは優しいひとだから……誰かから貰ったお菓子は、大切に食べるタイプだと思うんだ。贈ってくれたひとたちを思い出しながら、一つ一つ、平等に」
     その声は小さく震えていた。凍てつくような寒さの中であっても、冒険者の頬は熟れた林檎のように赤く染まっている。オルシュファンは白い息を吐きながら、静かに冒険者の言葉に耳を傾けた。
    「その平等の中に、私も含まれていたらどうしよう。貴方の1番が私じゃなかったらどうしようって、怖くなっちゃって」
     冒険者は、チョコレートの包みをぎゅっと握りしめた。
    「酷い自惚れだよね。ごめん、変なこと言っ」

     その言葉を言い終えるよりも先に、オルシュファンは冒険者の唇に口付けを落としていた。

    「っ、オルシュ」
    「お前は何か勘違いをしているようだが、私は誰にでも優しくて平等なわけではないぞ」
     大きな手のひらで細い手首を掴み、溢れ出る言葉を再び口付けでせき止める。冒険者がくぐもった声を上げていることを気にも止めずに、オルシュファンは柔らかな唇を貪った。
    「こんなことをしたいと思う相手はお前だけだ」
     冒険者の口から垂れた唾液を舌で舐め上げながら、オルシュファンは不敵に笑った。
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