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    tia_10l0

    腐ってるなめこ

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    tia_10l0

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    かきかけのタル鍾です!!!!
    完成したらpixivに載せます!!

    #タル鍾
    gongzhong

    岩鯨の萌芽 璃月に来ていた旅人に、鍾離はある相談をした。
    「旅人、俺は凡人としてまだ日が浅く、凡人のなかのルールというものをあまりよく分かっていない……」
    「うん」
    「だから、デートとやらも知識のうちに入ってはいるが、体験したことは殆ど無い」
    「ちょっと待って鍾離先生」
    「どうした?」
     旅人は声をあげる。
    「デートって言った!?」
    「ああ」
     旅人は重ねて聞いた。
    「誰と!?」
    「こ、公子殿とだ」
     答えを聞いた旅人は、口を半開きにしたままその場で固まっている。心なしか鍾離が照れているように見えるのは気のせいだろうかと、旅人は考えていた。
     鍾離は「旅人?」と呼びかけながら目の前で手を振ってみせる。
    (旅人が微動だにしないな……そうだ)
     すると鍾離は腕を組み、小さな隕石である「天星」を発現させ、それから隕石の一角で旅人の頬を突いてみた。
    「……ッ!」
     旅人はようやく我に返り、「天星」は満足そうに霧散する。
    「目が覚めたか。して、旅人、何かデートの参考になるものはないだろうか?」
    「えっ!? ああ、えっと……これなんかどうかな!」
     鍾離は旅人から一冊の本を手渡される。
     タイトルは「璃月恋愛短編集」。中身は読んで字の如し、璃月を舞台にした恋愛小説の短編集だ。若い女性の読者層が厚く、いま流行りの本である。
    鍾離は適当に頁を捲り、「なるほど」と溢した。
    「参考になりそう?」
    「ああ、おそらくな。ありがとう旅人、これで何の心配もなく明日を迎えられる」
    「デートって、明日だったの!?」
    「言ってなかったか?」
    「聞いてない……まあいいや。頑張ってね、鍾離先生」
     旅人から背中を押された鍾離は微笑む。
    「ああ!」
     石珀の瞳は夕陽に照らされ、きらりと輝いていた。

     朝。
     山雀の囀りと共に鍾離は目覚めた。
     ゆっくり上体を起こし、寝ぼけ眼で窓の外を見る。見慣れた朝焼けの空が広がっていた。
     まず鍾離は立ち上がると、洗面台で顔を洗い、うがいをした。そして、銅鏡の前に置いてあった椅子に腰をかけ、丁寧に髪を梳き始めた。髪は櫛を通す度に艶を増し、何やら浮ついていた。
    (公子殿は今、何をしているだろうか)
     ここで鍾離は、公子との逢瀬を楽しみにしていることに気がついた。
    「いかん、頬が弛んでしまうな」
     鏡に映る間抜けな顔を見ないように鍾離は髪留めをつけた。ぱちっという音が静かな部屋に響く。目尻に紅を引き、それからジャケットを羽織り、仕上げに耳飾りを付ければ往生堂の客卿「鍾離」のできあがりだ。
    「出るには少し早いが、些か落ち着かん」
     鍾離は心で「いざっ!!」と気合いを入れ、外へと続く扉を開くのだった。

     豪奢な繁華街と素朴な商店を繋ぐ橋を渡り、「岩上茶室」の用心棒に会釈をするとあっという間に広場に出た。鍾離は小さな池に視線を落とす。すると水面に自身の顔が映り、彼は本で読んだように前髪を整えてみた。
    (何だ、この感覚は)
     身だしなみに気を使うのは良いことだが、髪を整えただけで鍾離はそわそわした。胸の中を小さな虫が這っているような、そんな感覚に襲われた。
    落ち着かせるべく鍾離は辺りを見回した。
     「解翠行」の石には布が掛けられ、お気に入りの講談師の姿も見えない。気を紛らわすことができないと知ると、鍾離は考え込んだ。普段なら散歩をするだろうが、そんな気分にもなれなかったのだ。鍾離の一日は、公子が来ないと始まらないからだ。
    「どうしたものか……」
    「おーい! 鍾離ー!!」
     元気ある声に振り向いてみると、旅人とパイモンがこちらへ歩いて来ていた。旅人はパイモンへ人差し指を立て、しーっと静かにするよう言いつけているように見える。
     二人は鍾離に挨拶をした。
    「おはよう」
    「旅人にパイモン、おはよう。早いな」
     鍾離の一言にパイモンが代わりに答えた。
    「オイラたち、依頼をこなしてきたんだ! 帰離原にいたおっきなヒルチャールを倒してきたんだぞ! すごいだろ!」
     パイモンは胸を張って、どうだと言わんばかりに鍾離に見せつける。旅人は照れ隠しなのか頭を抱えていた。
    「ヒルチャール兜王か、それはすごいな! ……そうだ」
     鍾離はパイモンに同調し、旅人を称えてやると、借りた本を懐から取り出した。パイモンは不思議そうに問いかける。
    「ん? これ……昨日貸した本だよな? もういいのか?」
    「ああ、もう覚えた」
    「覚えた!?」
     驚くパイモンへ鍾離は言った。
    「『はじめに』から『あとがき』まで全部読んだぞ。一話一話が簡潔でいて、オチまでついている。正直、頁を捲る手が止まらなかった。人気があるのも頷ける一冊だ」
    「満足したならよかった」
     旅人は鍾離から本を受け取り、バッグにしまい込んだ。
    「旅人、次はどこに行くんだ?」
    「スメールに行く予定」
    「そうか、『知恵』を尊ぶ国スメールはお前の旅の大きな助けとなることだろう。気をつけて行ってくるといい」
    「うん、鍾離先生も頑張って」
     旅人の励ましに鍾離は「ああ」と返すと、あっという間に二人は鍾離の前から消えてしまった。
    「忙しないな……」
     鍾離が名残惜しそうに溢した時だった。

    「ほんと全くだよ。俺抜きで相棒と話すなんてさ?」
    「……!!」
     待ち焦がれた声を聞き、鍾離が振り返るとタルタリヤがにっこりと笑いながらこちらへ向かって手を振っていた。
    「おはよう、先生」
    「ああ、おはよう。公子殿」
    「相棒たちと話してたみたいだから、待たせてはないようだ」
    「……どこから見ていた?」
     タルタリヤの言葉が気になり、鍾離は問いかけるが「ハハッ」っと笑って誤魔化されてしまった。
    「まあいいが……、しかし、なるほど……」
     鍾離が一人で納得している様子に、今度はタルタリヤから質問する。
    「何考えてるの?」
     鍾離は歩きながら話し出した。タルタリヤもつられて歩く。二人は「万民堂」へと向かっていた。
    「昨日、旅人から借りた本であったのだが、どの話も恋人を待つ女性たちは時間の流れが緩やかになる描写があったが、先ほどそれを理解した」
    「……どんな風に?」
     疑問の句がタルタリヤの口をつく。
    「それは――」
    「いらっしゃい! 二名さまですかい?」
     鍾離が説明しようとした瞬間、男の声に遮られてしまった。「万民堂」の卯師匠は彼らに二本の指を立て、席数の把握をしている。鍾離は頷き、卯師匠と同じように二本の指を立てて答えた。いわゆるピースというやつだ。
    「ご注文は?」
    「俺は白がゆを、公子殿は?」
    「なら、俺はラーメンにでもしようかな? 働いた後だし」
    「そうなのか」
    「そうだけど?」
     二人はメニューに無いものを当然のように注文した。しかし、問題はない。なぜなら「万民堂」はメニューに無いものでも作れるからだ。
    「白がゆは三百モラ、ラーメンは五百モラになります!」
     卯師匠は適正な価格を提示し、タルタリヤは慣れた手つきで八百モラを差し出した。鍾離は一連の流れをただ見ているだけだった。モラを受け取ると卯師匠はすぐさま調理に取り掛かり、人が少ない朝方というのもあってか十分もしない内に料理は完成した。
     鍾離とタルタリヤはそれぞれ注文した品を手に持ち、店の裏へと移動する。

    「何の話をしてたんだっけ?」
     熱々のラーメンを息で冷ましながら、タルタリヤは切り出した。
    「俺が公子殿を待つ間、何を感じていたか」
     鍾離は白がゆを飲み込んでから一言で返す。鶏だしの香りが鼻を通り、ほっと力が抜けた。
    「そう、それだ。鍾離先生は何を考えていたのかな?」
    「ふむ……」
     鍾離が皿の端に匙を置き、考え込んでいる間、タルタリヤは麺を豪快に啜った。醤油のキリッとした味わいが食欲を増進させる。
     タルタリヤが調子よく食べ進めていると、鍾離は開口した。
    「約束をするのは良くないな」
    「んぐっ……!?」
     思いもよらぬ言葉に、タルタリヤは喉を詰まらせる。鍾離から渡された水の入った湯呑みを受け取り、一気に麺を流し込んだ。
    「ど、どういうこと?」
     鍾離はやや気恥ずかしそうに答える。
    「約束をすると……その、意識してしまってな、乙女の待ち続けというのか……本で読んだ通り時間が長く、しかも退屈に感じるのだと気づいてしまった」
     タルタリヤは落ち着いて応じた。
    「結果的に、俺は鍾離先生を待たせてしまった、ということになるね?」
    「それは違う。待ちはしたが、待ってはいない。それどころか、公子殿は約束よりも早くあの場に来ただろう? 俺はそれが……」
     突然、鍾離は言葉を切った。気になったタルタリヤは声をかけるが、鍾離は頑として続きを言おうとはしなかった。しかし、鋭い観察眼を持つタルタリヤは見逃さなかった。鍾離の頬が、微かに赤くなっていたことを。
     同時に彼を「可愛い」と、タルタリヤは思うのだった。
     それから程なくして、皿を空にした二人は、腹ごなしに璃月近郊を散歩することにした。
     璃月港を出た辺りで鍾離が話し出した。
    「今度は俺から聞こう」
    「何でも聞いて?」
    「では問おう。なぜ俺を誘った?」
    「じゃあ、単刀直入に言うよ。俺はあんたに興味があるからさ」
     タルタリヤは鍾離との距離を詰め、続けて言った。
    「武神としての腕前もそうだけど、あんたが日頃何をしているのか、何を考えているのか、好きなもの、嫌いなもの……全てとはいかずとも、いや――」
    「俺はあんたの全部を知りたい」
     タルタリヤは鍾離の目を見て、真っ直ぐ伝えた。深海のような瞳に鍾離は若干、気圧されそうになった。
    「俺の話を聞きたいのか」
    「うん、そうだね」
     石段を上がりながら鍾離は返す。タルタリヤは彼の隣に並び、度々視線を送った。束の間の沈黙が妙に擽ったく感じた。
    「公子殿」
    「うん?」
    「手を、繋がないか?」
     鍾離は手を控えめに差し出した。彼は戸惑っていた。手を繋ごうと誘っただけで、恐怖心が生まれたからだ。
    (なぜ、俺は恐れている?)
    「……本で読んだから繋いでみたいの?」
     タルタリヤの問いに鍾離は無言で頷いた。
    「まあ、良いけどさ」
     タルタリヤが手を握り返すと、鍾離はほっとしたように笑顔を綻ばせた。タルタリヤの手袋越しに温もりが伝わり、鍾離は微かに力を加え、次は確かめるように握り締める。
    (鍾離先生が俺の手をにぎにぎしてる……)
     親指の付け根や関節、手の甲に鍾離は触れていた。
    「楽しい?」
    「すまない、すっかり夢中になっていた」
    「いいよ、このままで」
    「そうか」
     そして手を繋いだまま二人は歩き、帰離原へ出た。

     閑散とした野原は魔物が身を隠すのにうってつけで、盗賊が悪事を働くにはもってこいの場所だ。だからこそ自然と二人の目つきは変わった。
    「公子殿」
    「うん、あまり良くない気配がするね」
     鍾離とタルタリヤは警戒しつつもデートに集中する。
    「見ろ!」
     突然、鍾離が駆け出した。手が離れた瞬間、タルタリヤは一抹の寂しさに襲われた。
     鍾離が見たものはヒルチャールの足跡だった。大小様々の足跡は、複数体で群れているということが分かった。
     二人が足跡を辿ると、やがて小さな遺跡群が見えてきた。一歩踏み入れた途端、一本の矢が鍾離の頬を掠める。
    「いいだろう、その精度称賛に値する」
    「弓の扱いは俺とどっちが上かな? 試してみよう」
     するとタルタリヤは矢を番え、鍾離の頬に傷をつけたヒルチャール雷矢の頭を射抜き、ヒルチャールはその場で塵となって消えた。
     仲間の死を合図にしたヒルチャールたちはわあっと襲いかかってきた。
    「震天動地!」
     まず鍾離は柱を立て、ヒルチャールが持っていた頑丈な岩の盾を破壊する。
     そして仲間の仇を討とうとしたのか、ヒルチャール炎矢はタルタリヤの脇腹を目掛けて火の矢を放つが、彼は矢を難なく手で掴むと木製の盾を持ったヒルチャールに投げてやった。
     矢は盾で防がれてしまったが、盾に火がまわり、木製の盾を破壊することに成功した。
    「ハハッ……!」
     タルタリヤは双剣を手にヒルチャールたちへ斬りかかる。鍾離はタルタリヤの背を守りながら雑兵を槍術で屠っていくのだった。二人が一つになったような感覚がした。
    「隙を見せるのは、ほんの一瞬だ!」
     そして、最後の一体となったヒルチャール暴徒が自身の盾を岩スライムで錬成しようとした、その時。
    「天道、ここにあり」
     空から隕石が降り落ち、戦いは幕を閉じた……。

    「やけに数が多かったけど、何かあったのかな」
    「恐らく、旅人たちが倒したヒルチャール兜王のせいだろう」
    「なるほど、王を失った魔物たちが復讐の機会を窺ってたわけだ」
    「それもあるだろうが、今回は違うようだ」
     鍾離はヒルチャールの巣の奥深くへと進む。そこには積み荷があった。酒瓶や果物がまとめられていた。鍾離は積み荷の紐が千切れかけていることに気づくと、直しながら言った。
    「既に襲われた人がいたようだ」
    「彼らも生きるのに必死ってことだね。俺たちは来るタイミングを間違えてしまったかな?」
    「問題ない。確かに、もう少し早く来ていれば対処できただろうが、凡人にできることは限られている」
    「凡人、ね……」
     タルタリヤは先ほど鍾離が出した隕石を思い出しながら呟く。
    「それに周りには血痕一つない。荷物の持ち主は無事だろう。次いでに、この積み荷を望舒旅館へと運んでやろう」
    「へえ、行き先が分かるんだ?」
    「ああ、この荷物には『杏仁』が入っている。とある仙人が気に入っている料理の材料の一つで……」
     鍾離がその仙人について話し出すと、タルタリヤは不快に思った。鍾離の力が抜けたような表情に、胸がチクリとしたのだ。
    (ああ、そうか)
     タルタリヤは気づいた。
    「公子殿?」
    「鍾離先生、もう少し奥に行こうか」
    「何か見つけたのか?」
    「少しね」
     タルタリヤに促されるがまま鍾離は、遺跡にあった小さな部屋に足を踏み入れた。ただそこには何もなかった。
    「公子殿、先ほどから様子がおかしいぞ。気分でも優れないのか?」
    「ああ、もう限界だ」
    「公子殿……ッ!?」
     次の瞬間、鍾離の唇はタルタリヤによって奪われていた。歯がカチリと当たったかと思えば、すぐに舌が侵入し、鍾離は右、左と一歩ずつ後退りをした。反対にタルタリヤは一歩ずつ距離を詰め、鍾離の股に脚を滑らせる。
    「んっ……ふ、は……」
     最終的に鍾離の背中は壁にぴったりくっついてしまった。
     鍾離は突然のことで上手く息継ぎができず、頭がぼんやりとしていた。タルタリヤはそれを見越してか、やっと口を離した。
    「けほ……っ! こほっ!!」
     鍾離は盛大に噎せた。未知の感覚に腰が抜け、立てなくなった鍾離はタルタリヤの身体を支えにし、どうにかして踏ん張った。タルタリヤは口をはくはくと開けている彼の腰に手を回し、耳元で囁く。
    「俺はあんたが好きだ」
    「はあっ、今、言うか……!」
     鍾離は息を整えながら言った。
    「今しかないと思ったからね」
    「おい、まっ……!」
     鍾離の制止も聞かずに、タルタリヤはまた口づけた。何度も唇同士を触れ合わせ、鍾離は流石に苛ついてきた。
    (だから……落ち着けと……)
    「言っている!!」
    「痛っ!!」
     鍾離はタルタリヤに渾身の頭突きをお見舞いしてやった!
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