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    @810976_an

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    极博♂ 統合戦略3が実装される前なので好き勝手しました

    #极博♂

    灰の海のたびごころ 極東ではリコリスを指して彼岸花と呼ぶこともあるらしい。秋の夜長、暗闇の中にあってもはっきりとそうだと分かるほどに鮮やかな赤い花を咲かせ、夏に枯れる多年草である。害獣除けとして田の畦道に敷き詰めるように植える農家も少なくないとかで、秋めくにつれこれらが一斉に花開くさまは壮観の一言に尽きる。
    「君にも本物を見せてあげたかったな。本当に凄いんだよ。初めてあれを見たとき、ミノスの神話を思い出したもの。エリュシオン、死後の楽園、英雄の魂だけが逝ける場所」
     まったく縁起でもない。それとも冗談だろうか? ジョークのセンスがいいとは言えないだろう。そのうえ、
    「その話は前にも聞いた」
    「あれ? そうだっけ」
     ああでもやっぱり、惜しいなあ。茫然とした口ぶりで、それは前方に視線を投げた。この辺りは岩場も多く、街は遠く、輝く砂浜もなく、退屈な光景が広がっている。灰色の空を鏡に映し出したかのように水面は暗い。そこに揺蕩う水草たちはただ潮風に揺られるばかり。放射状に咲く花弁が波に呑み込まれては顔を出して、そのたび、生まれ変わったかのように白く洗われる。
     海が真っ赤に染まるにはもっと、何千人、何万人の死体の山が必要だと思われた。
     
    「Ishar-mlaが君を望んでる」

     岩場の向こうはまるで観客席だ。ひどくごった返している。一曲歌い終わった後と見紛うほどに、鮮血と肉片を浴びて養分を蓄えた彼岸花たちが熱狂していた。何もかもと死に別れて、逃げ切ることも出来なくって、ドクターは立ち尽くす。
     弁えぬ一株がずるりと岩場を這い上がり花弁に似た触手を揺らめかせた。棘にも似た雄蕊から伸びる先端を突きつけられる。目など無いのに見つめ合う。大きく息を吸う仕草に似て体躯を丸く膨らませると、鋭い制止の命令が飛ぶ。ドクターの隣に立っていたそれが首を振ったのだ。
    「止めるな!」
    「止めるよ。ごめんね、彼が逸ったのは若いからさ。まだ生まれて間もないんだ」
     周囲の恐魚よりも一回り小さいそれは、口元をてらてらと赤く濡らしていた。このうろの中に腕と足と頭と――丁度良い大きさに砕かれた人体が飲み込まれていくのを、ドクターはその目でしかと見た。叫んだ。やめろと言った。けれども恐魚は捕食行動を止めぬ。そのうち声が枯れてしまった。
     あれらの侵略行動はちっとも人間の事なんて気にしていない。獣とヒトの差など海からやってきたあれらの気にするところではない。ただの養分であることに違いがないからだ。凄まじいスピードで世代を重ねるあの化け物たちの物覚えの良さと言ったら、人間を容易く上回るだろう。若い恐魚たちはそれよりも大きな身体を持つ化け物の陰に隠れ、様子をじっと観察する。親、正確には一世代前の恐魚の備える大きな触手が獲物を捕らえるのを虎視眈々と狙っているのだった。数時間前、ドクターの傍にはフェリーンが居た。共に世界の終わりからの逃避を試みていた。休むことなく動いていたその足を絡め取られたが最後、彼女はその両手を串刺しにされて岩壁に張り付けにされたのである。すると陰から小さな恐魚たちがわっと出てきて、啄み、突き刺し、狩りと解体の方法を少しずつ覚えていった。ドクターは何度も何度も怒りに震え戦慄き絶叫したというのにこれらは決して止まらなかったのだ。
    「どこに行くのー?」
     なにもかもが恐ろしくなってしまって、ドクターは弾かれたように逃げ出した。散々酷使した足を再び働かせるのはつらい。後ろからゆっくりと足音が付いてくる。足場が悪い。速度が出ない。いや、それよりも、もう何日も食べていない。潮騒に混じって酷い耳鳴りがする。こっちにおいでよって、そう言ってる。
     涙と鼻水でべちゃべちゃになった顔を晒すように、強い突風が薄汚れたフードを掻き上げた。防護服の替えなんてとうの昔に海の藻屑と化し、マスクもどこかへ置いてきてしまった。大気は敵だ。逃げたところでドクターはもう、永くはない。「アーミヤ! ケルシー!」故人の名を叫ぶ。「どこに居る! 私はここだ、ここに居る、」最後、三人で具のない白湯に似たスープを飲んだ。温かかった。「撤退だ! 戻ろう、なあ……」どこに帰ると言うのだろう。正気に戻りかけて、ドクターの足が震える。血と汗と潮水に濡れた地面に滑って、ドクターは前のめりに転んだ。膝が擦り剥けて痛い。いや、最早痛覚すら曖昧なのだった。ただ確かなこととして、彼の足は棒切れのように細く肉がこそげ落ちているから、これ以上動かすのはあまりにもむごい。それだけだ。
     口の中のしょっぱさを自覚すると、これが海の味なんだってことを思い出す。ドクターは恥も外聞も忘れてわあわあ泣いた。熱に浮かされると呼吸が困難になり、不随意な痙攣が身体を襲う。苦痛に歪むかんばせに影が落ちた。追いかけてきたそれが膝を付いたからだった。
    「気を付けなよ。相変わらず鈍くさいんだから」
     それは利き手を差し伸べようとして、その異形に気付くなり引っ込めた。代わりにもう片方の、まだ、五本の指のついた方の手を使う。立ち上がらねば逃げることも叶わぬ。ドクターは差し伸べられたそれに掴まったが、血色の悪い肌色の皮の中にぶにゅりとした肉が詰まっている感触があまりにも気持ち悪くて思わず腕ごと引っ込めた。けれど離れるよりも先に手を掴まれ逃れることが出来ない。怖い、怖い! 本能的な恐怖に襲われる。この皮の内側には動脈など一つも通っていないのではないか? まるで死人のように冷たかったのである。これは決して生者のからだでは無い。ドクターは己を突き動かす衝動に身を任せた。自由なままのもう片方の手を懐に差し入れて、使われぬまま錆を被るかと思われた短刀を振りかざしたのだ。刀身が光に煌めく。殺さなければ、これ以上尊厳を踏みにじらせてはならない、ただその一念に憑りつかれていた。
     それは胸に銀の刃が突き立てられることを許容した。ドクターの抵抗に驚いているようではあったが、平然としたまま、ずぶずぶと肉に埋まる銀の刃を観察しているのである。
    「死んでくれ、たのむ、死んでくれよお……」
     柄をぎゅうと握りしめて、ドクターは短刀を引き抜きもう一度刺し貫こうとした。引き抜く動きは、枯れ木のような触手によって抑えられてしまった。そうなるともう、びくともしない。
     ふふ、と可笑しそうにそれが笑った。
    「もう。人間の心臓はこんな真ん中に無いよ。もう少し左。君らしくないなあ」
     ずるりと音を立てて短刀が抜き取られる。放り投げられたそれが衝撃からぽきりと折れてしまった。心許無くともあれが唯一の武器だった。絶望が膝を笑わせる。
     短刀の埋まっていた傷口からは星の海を思わせる色の体液が吹き出し、べしゃりと飛沫が頬を汚した。酷い臭いに吐き気が込み上げる。とろとろと溢れ出るそれはまるで冥痕のように水溜まりを成して広がっていく。飛びのこうにも粘り気のある液体が靴の裏に糸を引く。逃げてくれるなと、全身で、人間の訴えることのできる範疇を超えて、そう熱心に引き止められている。そうしているうちに折角開けた傷口すら塞がってしまった。抵抗の無意味さをまざまざと見せつけられ、ドクターは言葉を失う。やがて彼は力なく俯いた。
     それは投了をおおいに歓び、ぎゅうと両腕をドクターの体に巻き付けた。壊れ物を扱うような手付きで、羊水に揺蕩うことを思わせる優しさで。これが却ってドクターを怒らせた。このような抱き方をしてよいのはたった一人だけだ。このように触れてよいのも、たった一人だけなのだ。そしてもう二度と手に入らない、手に入ってはいけないものだ。
    「離せ!」
     全身が痛む。ドクターが暴れると、その興奮に肉体が耐えきれず血を吐いた。長らくメンテナンスを受けていないために内臓はどこも限界だ。血の塊が喉に詰まる。外側から掻きむしったところで爪の跡に赤く線が走るだけ。声にならない声で悲痛に訴えている。楽になりたい、立ち止まりたい、人間のまま死にたい。このまま窒息して死ぬことが出来れば良かった。事は、そう上手くは運ばない。藻掻く身体が固定され、ドクターの口内に冷たい肉が侵入する。唾液のようでそうでない何らかの体液が流し込まれる。これでは凌辱と変わらない。耐え難い辱めだ。喉に栓をする血の塊がごぽりと胃の中へ押し返され、クリアになった気道が驚き収縮する。咳き込むたびにからだを襲う苦痛が、悲しみに似た諦観を積み重ねていった。
    「Ishar-mlaが待ってる」
    「行きたくない……」
    「君が死んでしまう前に連れて行かなきゃいけない。ねえ、褒めてよ。皆が君を迎えに行きたいって口々に言ったんだ。僕は取り合いに勝ったんだよ。だってそうでしょ、僕じゃなきゃ。君が好きなのは僕でしょう」
    「お前は彼じゃない。死んだんだ、みんなお前たちが殺したんだろう。返してくれよ。彼を返してくれ」
    「僕は僕だよ。ねえ、もう名前で呼んでくれないの?」
    「彼の振りをするのをやめろ!」
    「振りなんかじゃないのにな……」
     問答は無用だと悟ったか、それはドクターを改めて横に抱えてくるりと踵を返した。波打ち際で大人しく待っていた彼岸花たちが頭を垂れる。人の身体は脆い。それがドクターとなれば、想像を絶するほどに、もっと。恐魚たちは彼岸花の咲く道を作る。一歩踏みしめるごとに道は白くなっていく。灰色の海に橋が渡るようだった。
    「Ishar-mlaはどうしてそんなに君に執着するんだろうって、最初は疑問に思ってたよ」
     彼らの主は、地平線の向こう、海洋の終わり、そこに巨大な影としておありになるのである。
    「今なら良く分かる」
     宇宙のどこかに存在するだろう知的生命体が、星の海からこの地表を覗き込んだのなら、万年夜の昏い星だと勘違いされていたことだろう。
    「原始的になることってそんなに悪いことなのかな。ねえ、ドクター。僕はずいぶん自由になったよ。早く君もそうなったらいい。そしたらいつか、僕の見た景色を見せてあげられるかな……」
     橋の終わりは遠いけれど、一本道を進むにつれて、冥界が近づいてきたように思えた。地の底は海のにおいがする。Ishar-mlaの大きな影が近づくにつれて縮む。あれはやがて美しい人間の女の皮を被り、ドクターの傍でおもねって身体を寄せるのだろう。もうずっと深海からの呼び声が聞こえる。うるさかった。男の声も女の声もする。みんなあぶくを吐き出しながら喋っている。
     殺してくれよと言ったが、それは酷く大事そうにドクターを抱きかかえたままゆっくりと歩を進めるばかりで、なんにも返事をしなかった。
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    落書き

    DOODLEレイ穹 現パロ 後で推敲します
    続くかも
    止まり木を見つけた 腹の底をとろ火でぐつぐつ炙る茶を一杯、二杯、景気良く流し込んでいって、気付いたころには一人になっており、やたら肌触りの良い夜風を浴びながらどことも知れぬ路地裏を彷徨っていた。
     暫くすると胃が唐突に正気を取り戻し、主に理不尽を訴えた。穹は耐えきれず薄汚れた灰色の壁と向き合ってげえげえ吐く。送風機が送る生温かさは腐乱臭を伴っているようにも思えた。その悪臭の出処は足元だ。なまっちろい小さな湖を掻きまわす人工的な風、乳海攪拌ならぬ――やめておこう。天地は既に創造されている。知ったかぶりの神話になぞらえたところで、無知と傲慢を晒すだけである。自嘲を浮かべる。
     穹少年は、穹青年となっても、その類稀なる好奇心こそ失いこそはしなかったが、加齢と共に心は老朽化していくばかり。それでもって汚れも古さも一度慣れてしまうと周囲が引いてしまうぐらいにハードルが下がってしまうもので、己のこういった行いの良し悪しを客観的に評価できるだけの頭はまだ残っているというのに、なんだか他人事みたいに流してしまう。つまるところ、泥酔の末に吐瀉物を撒き散らす男なんて情けないしありえない、真剣にそう言えるくせに、それが自分のこととなると周囲の顰蹙を買うほどに要領を得ない返事と化すのである。
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