それはおだやかな 朝はドクターよりもエーベンホルツのほうが起きるのが早い。共に横たわるドクターを跨いで床に降り、昨夜の情事で散らかした服を集めて洗濯カゴに放り込む。
冷たい水で顔を濯ぎ、着替えを済ませてドクターの服を取り出して寝室の机に置く。
そしてドクターから教わったようにパンをトースターに放り込み、電子ケトルで湯を沸かすスイッチをオンにしてドクターを揺り起こした。ふかふかとした羽布団から顔がのぞき、エーベンホルツはその頬にキスをした。
「起きろドクター。朝食の時間だ」
「───いやだ、ねむい」
おはようと唇にキスを返すくせにそのまま布団に沈もうとするドクターをエーベンホルツは布団を剥ぎ取ることで強制的に目を覚まさせる。
「っ〜、鬼、悪魔ァ……」
「なんとでも。そら、さっさと起きろ。今日のトーストはいつもよりも焼き加減に自信がある。冷めてしまうぞ」
「それ昨日も言ってたと思う」
半身を起こし、盛大にあくびをするドクターの体には引き攣ったような火傷がある。本人は気にした様子もなく肩を掻き、裸身を晒したままで「服は?」とエーベンホルツに問いかける。
「いつも通り机に。コーヒーに砂糖は入れるか?」
「今日はやめとく。ジャムをもらったんだ。冷蔵庫の三段目にあるから出しておいて」
「わかった」
くるりときびすを返すエーベンホルツを見送り、ドクターはのろのろとした手つきで服を取り出して下から服を身につけていく。なんとかシャツを全て留め終わった辺りでエーベンホルツが再び顔を出した。
「これか?」
「それ」
赤いルビーようなキラキラした果物が入った瓶をかかげ、ドクターが頷いた。頭が引っ込んだのを追いかけるようにドクターも立ちあがろうとして。腰がミシッと昨日の激しさを思い出させるような軋みを上げる。
そろりそろりと壁伝いに歩くと、エーベンホルツがそれを見て眉根を寄せた。
「そのような姿勢で歩けるのか?」
「誰のせいだと」
伸ばされた手を取り、椅子へ導かれる時に恨み節を呟けば、「そうだな、私のせいだな」とあっけらかんとエーベンホルツは答えた。
一度開けたらしい蓋を閉めた瓶を手渡され、脇にスプーンを置いてエーベンホルツは向かいに腰掛ける。
ドクターの指は昔の怪我が元で動きがやや遅い。ボタンがけや瓶の蓋を開けるような動きはリハビリによいということで、ケルシーから積極的に薦められていて、エーベンホルツはケルシーから直接その言葉を賜ったのだとか。
「なぜ私に直接言ったのかはわからないが」
エーベンホルツは先に塗ったバターとジャムが乗ったパンをさくりとかじる。彼の言う通り、黄金色でとてもよく焼けている。ドクターはぺとぺととパンにジャムを塗りつけてエーベンホルツを見た。
「ほんとにわからない?」
「道化を演じているとでも?」
肩をすくめてうそぶくエーベンホルツに、ドクターもパンを口にしながら「そういうとこだよ」と呟いた。