誰とのことを占うつもりだったんで? 食堂の自販機にあるスナックバーを買いに寄った際に、その声は聞こえてきた。
食堂は昼食以外は全員に開放していた。簡単なミーティングや事務作業をするものがあちらこちらに散らばっていたが、片隅で明らかに毛色の違う三、四人に囲まれて会話をしている男がいた。
「楽しそうだね。何してるの」
近寄って聞いてみれば、女性たちは口籠もりそわそわと辞去の挨拶をして去っていく。教えてもらえなかった寂しさにドクターはリーの前にある席を指した。
「座っていい?」
「もちろんどうぞ」
リーは脇に置いた湯呑みを持ち上げてずずっとすする。
「お邪魔だった?」
ドクターは下から這い上がってくる尾鰭を摘んで脇へとどかす。
「いいえ、ちっとも」
「カードゲームでもしていた?」
机の上にあるトランプを見て問う。
「いいえ、ちょいと占いをね。バーとかで知ってるとウケがいいんですよ」
リーはそういって目の前で二つに四つにとトランプをカットしてまた重ねて、持ち上げたそれをさくさくとシャッフルしてスーッとドクターの前に扇のように並べて見せた。そして指先ですくうとカードが全て裏返しになる。
「すごいな」
もう一度カードを裏に返してシャッフルし直して目の前に置くリーの手遊びにドクターは素直に感嘆して手を叩いた。
「どうも。さっきの子たちはおれが前に披露したのを覚えてて、良かったら一回やって欲しいって言われて披露してただけですよ」
リーの尾鰭が再び死角のところでドクターの足にするすると絡みつく。
「占いってどんなことをするんだ? やっぱり女の子が集まれば恋占いかな」
「ドクターは名探偵になれますね。その通りですよ。誰のどんな占いかは守秘義務になるんでお教えできませんけど」
ドクターはちらりと視線で食堂を見たが、みんな自分の作業に夢中になってこちらに注意をはらっていなかった。ドクターはそっと膝にかかる尾鰭を撫でて脇へとどかした。
「私も占ってもらおうかなあ」
「おや、ドクターも?」
「できる?」
「出来なかないですけど……」
リーはトランプの一枚上をめくってドクターに見せた。スペードの四。それを再び重ねて、パチンと指を鳴らした。
「ほい、ドクター」
リーはそしてそのままそれを差し出す。
ドクターがきょとんとしていると、リーは指先でめくれというジェスチャーをしてみせた。ドクターがその一番上をめくってみる。
「あれ」
スペードの四だったカードはハートのエースに切り替わっていた。
リーの顔を見れば、ゆっくりとトランプをひっくり返して扇状に広げて見せる。
先ほどまでは普通のトランプだったそれは、全てがハートのカードに切り替わっていた。
「なるほど、どう出目が出てもリーによって自由自在と」
「ご明察です」
リーは指を組んでにっこりとドクターに微笑みかけた。