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    @810976_an

    支部にあげるか迷うやつを置いています

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    黑键博♂

    #黑键博♂

    余裕ははりぼてだったので 許容量を超えたウォッカが腹の中でぐつぐつ煮えている。
     吐きたいか。そう問われればぐたりと寝る彼は訳も分からず頷いただろうし、次は何にすると聞かれたら、適当に頭の中に浮かんだ文字列を吐き出していたことだろう。
     けれどもドクターは、そのどちらも選ばなかった。発した声色は我ながらぞっとするほど平坦だ。物憂げにこの年若いキャプリニーを心配するでもなく、喉を鳴らして煽る気配も無い。幽霊のように足音を消してそっと隣に忍び寄り、バーチェアがくるりと回るやカウンターに肘をつく。己の腕を枕代わりにして半分落ちている男の顔を覗き込んだ。眉間に寄る皺が、この固く細い枕が気に入らないとぐずっているようだった。
     潰れた酔っ払いに態々近寄る奴がいるなら、そいつには気を付けた方がいい。うねる髪を指先でも弄びながら、口にするのが恥ずかしくなってしまうぐらい当たり前のことを吹き込んで、黒い牡山羊を夢の世界から引き戻した。

     エーベンホルツはこういう場所に不慣れだ。ステージの上で浴び慣れてしまったスポットライトは神聖で厳かな天上の色をしていて、真夏の日差しのように熱かった。緊張と相まってこめかみから汗が流れるほどに。対して、ここはどうだろう。龍門の繁華街のそれに比べれば幾分かマシだが、バーの中ではぎらぎらとした蛍光灯が極彩色の涎を垂らし続けている。暗いのに眩しい、冷たい光だった。今のエーベンホルツの状態といったら酷いもので、高揚からは一番遠いところにいる。内臓ばかりが熱く燃えていた。そのほかには絶え間なく寒気が走っている。
     首から上はといえば、頭痛、幻聴、加えて喧騒と彼の頭を悩ませるものは相変わらず尽きぬまま。しかし幸いなことにそれらは不思議と混ざり合って、快不快の区別のつかないところで鳴る他人事みたいな騒音が響いていた。それを割って耳朶に吹き込まれる、心地良い囁き声。口端から顎へ何か冷たいものが伝う感触にはっとして、エーベンホルツは辛うじて瞼を開く。袖の一部分が染みたように色濃い。今すぐ姿勢を正し、口を引き結び、何でもない風に振る舞わねばならぬということは理解しているのに、身体の方は何一つ思い通りにならないのが不思議だった。
    「起きた?」
     うねる黒髪を撫でられて、エーベンホルツはその手の主を確かめた。バーカウンターから漏れ出す明かりに思わず目を細める。彼の隣に座る男はちまちまとカクテルを嗜みながら、珍しくその顔を露わにして、程よく騒がしく更ける夜を楽しんでいるふうだった。手元のグラスの中で輝く液体がとろりと傾いて、ドクターの喉を通って臓腑を焼いていることを思うと、我が身のことのように身体が熱くなる。エーベンホルツの息は荒かった。飲まされ過ぎたからだ。目元は赤く、呂律も回らない。任務明けの慰労会だか何だか知らないが、兎に角エーベンホルツにとっては体に毒でしかないことを全身が訴えている。いつの間にか隣にやってきたドクターは、彼の立場を鑑みれば水の一つでも甲斐甲斐しく飲ませていてもおかしくないだろうに、狐のように目を細めて微笑みながら手元のグラスに口を付けていた。視線もそうかと思いきや、彼は手元に目もくれずエーベンホルツを見つめている。若きキャプリニーはドクターのコートの裾を掴み、浅く呼吸を繰り返しては、雄弁に目で語った。けれどもドクターはそれを拒む。すげなく――ではなく、愉しむように。人差し指がエーベンホルツの頬に触れ、柔らかく沈んだ。抵抗されないのをいいことをまろい頬を揉む。エーベンホルツの意識は、半分飛んだままだった。だからドクターは、エーベンホルツの殆ど本能的な訴えをはねのけて、ここぞとばかりに彼をじっくりと愛玩し、そうしてその反応を楽しんでいた。
     自身の涙袋がぷくりと膨らむのを感じながら、エーベンホルツは込み上げる衝動を押し殺す。例え脳髄をアルコールにひたひたにされていたとしても、反射的に感情を露わにするような真似は御免だ。その矜持が掌が色を失うぐらい強く拳を握らせた。堪えに堪えて、しかし激情に蓋をしたところでどこか別の脆いところから滲みだすだけだ。彼の双眸は開くと大きい。その表面に薄い涙の膜が張られる。己に応えない男を恨みがましげに睨んでいると、可笑しくてたまらないといったふうにドクターはだらしなく微笑みを浮かべた。ただ、エーベンホルツの目尻を親指の腹で撫でるばかりである。
     喉か鼻か、最早どちらが我慢ならず鳴ったものかすら判別がつかなかったが、甘えるような音にドクターは気を良くして「仕方ないな」と立ち上がる。これ以上、醜態を晒し続けたくはないと無言で訴える青年に手を差し伸べて、一足先にバーを後にした。
     さして身長の変わらない男に肩を貸すのは骨が折れる。エーベンホルツも大概だが、ドクターは貧弱さは更にその上を行く。果たして一時とはいえど介助に耐えきれるのだろうか? つんのめって物理的に顔面から共倒れになってもおかしくはないと戦々恐々とするエーベンホルツとは対照的に、ドクターは機嫌良く帰路を楽しんでいた。二人の帰り道は途中まで一緒で、ある地点を境に全く別々の方向へ伸びていく。帰り道なんて、だいたいどこもそんなものだろうけれど。
     箱が降りてくるのを待つ間、それまでずっと俯いていた重い頭を持ち上げて、エーベンホルツは視線を遣った。歩いている間は俯いている方が楽だったが、いざ足を止めるとまた別の方角から不快感に襲われたためだった。まったく情けない限りだが、ドクターに何か喋ってもらいさえすれば気を紛らわせられるだろう――催促の意味を込めた、甘えた身動ぎが凍る。
    「……ドクター、頬が」
     赤い、そう最後まで口にすることは叶わなかった。流し目で黙らされる。唇は一切を黙殺するように閉じられていた。しかし、しかしだ。そのいかにもな慣れた仕草と初々しさを感じさせる顔色はあまりにもミスマッチで、二の句はどこかへ飛んでしまうし情緒が宇宙を目指して泳ぎだす。言葉を失い茫然とするさまをどう捉えたのか、ドクターはそっと瞼を伏せた。睫毛が震える。
    「見るなよ」
     ばつの悪そうな、か細い声だった。
     先程からずっと心臓が煩く喚いているのにもっと煩くなる。拍動のたびに耳の後ろ側で騒音が血管を通ってやってくる。けれども、エーベンホルツはこの騒音の出処が自分だけでないことに気付いてしまった。肩を組んで密着した身体と身体の間には何枚もの布地が挟まっているはずだ。にもかかわらず、にんげんの生きている音が己の肌を震わせている。
     こんなの無茶苦茶だ。
    「見るなってば」
    「なぜ」
    「なぜ! なぜだって?」
     これではいつもと立場が逆だろう。
    「つい先程の事だ、ロドスのドクターともあろう人が忘れるはずもない。貴殿は気の済むまで私の醜態をじっくりと鑑賞したうえ、無遠慮にも触れてきただろう。ならば、私がそうしてはいけない道理も無い筈だ」
     途端に饒舌になった男は、瞬きすら惜しいと言わんばかりに熱烈にドクターを見つめた。ドクターの赤面など――思い返せば、初めて見たかもしれなかった。それが酒精によって引き起こされたものだとしても、それだけではないことは明白だ。引き絞られた糸の気分、居ても立っても居られない気持ち、これらが全身を支配すると、不思議なことに指先が熱を取り戻す。エーベンホルツは世俗に疎かった。そのためこの感情を端的に表現するスラングを知らない。尤も、彼が「きゅんとする」だなんて言い回しを知っていたところで何も変わりやしなかった。
    「さっきまでぐったりしていたくせに。これじゃあ台無しだ」
    「貴殿の企みが頓挫するとは、珍しいことだな」
    「挫いた口でぬけぬけと。……いいよ、また、別の機会に挑戦しよう」
     ようやく箱が降りてきたようで、電子音が鳴り響くと自動扉が左右に割り開かれていった。ひときわ明るい空間の中で、エーベンホルツは指先の導くままにボタンを押す。目を瞑っていたって目的の階に触れることが出来る。それ程この場所に馴染んでしまった。次いで、ドクターも同じようにボタンに触れた。壁面の数字が二つ点灯する。
     足元から這い上がってくる鈍い浮遊感に身を任せながら、エーベンホルツは脳裏に過るふとした疑問を口にした。
    「それで、我らがドクターは結局何を企んでいたんだ?」
     こうしている間にも、インジケータに表示された階床表示がころころと移り変わっている。ここで聞き逃せば二度と答えを知る機会はないだろうと耳を澄ませれば、ドクターは赤ら顔のままぼそりと呟く。
    「君を部屋に連れて帰るつもりだった」
     ポン、間の抜けた電子音と共にエレベーターの扉が開く。扉の先にはエーベンホルツにとって非常に見慣れた光景が広がっていた。当然だ、彼が選択した行き先だったからだ。
     しかし、彼の両の足はまったく動く気配を見せない。「エーベンホルツ?」ドクターは困惑するも、彼は直立不動のまま固まっていた。無情にもエレベーターの扉は痺れを切らして緩慢に口を閉じる。見慣れた光景は短冊状に狭まっていき、やがてぷつんと見えなくなった。
     エーベンホルツの無言の選択は、その場に緊張と静寂を齎した。無言のまま、一度は離れた肩同士をどちらともなくくっつける。首が錆びついたように動かないので、二人してインジケータを眺めていた。途中で止まってくれるなよ。考えていることまで同じ。
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    落書き

    MOURNINGモブ視点多め
    みじかいテープ かの高名な宇宙ステーション『ヘルタ』に降り立つと、そこは慣れ親しんだ大学とは違う冷えた空気に満ちていた。空調の問題ではない。私は身も心も竦んでいた。
     世の学者、研究者にとって天才クラブの面々は憧れの的とも目の敵とも言える、非常に屈折した感情を向けられやすい相手ではあるのだが、いざカプセルの前で腕を組みこちらを見据える天才を前にすると緊張のあまり頭も口も働かない。まったく何を言えばいいのか――事ここに至っては、自身の発言など何も求められていない。それに気付きながらも尚、何かを言わなければならないという焦燥感に駆られるのは、己の自尊心が働いている証左であろう。
     ミス・ヘルタは己に実施した若返りの秘術そのもの、ヘルタ・シークエンスについて述べることで、カプセルの中の人を救う手段を提案した。一言一句が値千金ではあるにもかかわらず彼女はそれを惜しむことなく明らかにした。カプセルの中で眠る少年がナナシビトであることは既知の情報であり、彼がミス・ヘルタの研究に多大なる貢献をしたことも資料には記されていた。しかし天才に恩返しなる概念が存在していたことは、私にとっても非常に意外なことだった。けれどもその義理堅さに救われる命がある。当時の私の助手歴はまだ短く、Dr.レイシオについて知ることも伝聞が殆どではあったが、彼が自分より一回り以上小さな背丈の女性に頭を下げて協力を乞うさまは、今でも記憶に焼き付いている。
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    落書き

    DOODLEレイ穹 現パロ 後で推敲します
    続くかも
    止まり木を見つけた 腹の底をとろ火でぐつぐつ炙る茶を一杯、二杯、景気良く流し込んでいって、気付いたころには一人になっており、やたら肌触りの良い夜風を浴びながらどことも知れぬ路地裏を彷徨っていた。
     暫くすると胃が唐突に正気を取り戻し、主に理不尽を訴えた。穹は耐えきれず薄汚れた灰色の壁と向き合ってげえげえ吐く。送風機が送る生温かさは腐乱臭を伴っているようにも思えた。その悪臭の出処は足元だ。なまっちろい小さな湖を掻きまわす人工的な風、乳海攪拌ならぬ――やめておこう。天地は既に創造されている。知ったかぶりの神話になぞらえたところで、無知と傲慢を晒すだけである。自嘲を浮かべる。
     穹少年は、穹青年となっても、その類稀なる好奇心こそ失いこそはしなかったが、加齢と共に心は老朽化していくばかり。それでもって汚れも古さも一度慣れてしまうと周囲が引いてしまうぐらいにハードルが下がってしまうもので、己のこういった行いの良し悪しを客観的に評価できるだけの頭はまだ残っているというのに、なんだか他人事みたいに流してしまう。つまるところ、泥酔の末に吐瀉物を撒き散らす男なんて情けないしありえない、真剣にそう言えるくせに、それが自分のこととなると周囲の顰蹙を買うほどに要領を得ない返事と化すのである。
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    totorotomoro

    DOODLEたらいにお湯張ってドクターに洗われるエベが見てみたかったのに、なんか……あれっ?なんか、まあこれはこれで私好きなんだけど、たまに書く真っ黒ドクターがうっすら出てしまった。
    どうしても書いてみたくて出力するうちに、オチがなんかこれでいいのかな感。
    黑键博と言い張ります。
    バスタイム「お互い傷を持つ身だろう。違うかい?」
     ドクターの言葉に、エーベンホルツは聞こえないように紳士的でない舌打ちをした。

    ■□■

     ハイビスカスが困ったようにエーベンホルツが風呂に入らないと伝えに来た。
    「はい?」
    「ですから、エーベンホルツさんが───」
     書類の山に囲まれてペンを動かしていたドクターは手を止め、ハイビスカスの言葉を手を挙げて制した。
    「すまない、言葉は聞こえていた。……それを私に伝えに来る意味を聞いてもいいだろうか」
    「エーベンホルツさんはドクターの言うことなら聞いてくれると思ったので」
     ハイビスカスは柔らかく優しい微笑みを向けた。慈愛あふれる笑顔だ。ドクターもつられて微笑む。
    「それはどうかは知らないけれど、注意はしよう。曲がりなりにも製薬会社だからね。彼は外交を対応してもらうオペレーターだったはずだから、清潔にすることも大事なことだ」
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    落書き

    DOODLE黑键博♂
    初歩的なコミュニケーション エーベンホルツの背は針金を通されたかのように座面に対して垂直に伸びていた。唇は固く引き結ばれ、よせばいいのに瞼を閉じるから、耳の裏を擽る癖毛の柔らかな感触と、それを梳く指の温度を殊更に意識する羽目になる。肩には必要以上に力が入り、物音一つにさえ神経が過敏になり、やがて疲労から呼吸すら弱々しくなっていくのだろうと思われた。端的に言って緊張している。それはもう、筆舌に尽くしがたいほどに。
     背凭れに自重を預ければ多少は楽になるのだろうが、それはただの板切れと化して用を成さぬ。「取って食いやしないよ」二本の角に絡まる髪を解いてやると、いっそ可哀想なぐらいに青年の煩悶が伝わってくるので、ドクターは哀れに思って一言断りを入れた。「嫌なら言ってくれ」強要するつもりは端から無く、用意した油の封を切らないままにこの青年に押し付けてしまうつもりだった。けれどもそうはならないことを薄々予感している。彼はただ、緊張しているだけだ。恐怖から身体を引き攣らせているわけではない。髪を梳くことを止めれば、事が終わるまで閉じたままかと思われた唇が僅かに開き、空気を吸い込んだ。
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