『つかのま』 https://poipiku.com/6407483/10728409.html
『とるにたらない』のあとの話です。
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これは夢だ。越智は、目の前の奇妙に薄暗い景色を眺めながら、思う。
グレー一色の船室は、波に合わせてゆっくりと上下する。四畳半ほどの部屋には、なぜか窓も、扉もない。大昔の、船中における神職兼ねて人柱――持衰を閉じ込める空間に似ていた。
壁際に取り付けられたベンチに腰掛け、越智は辺りを見回す。夢と知っていれば、出入り口も梯子もない部屋にも、焦りはない。
今どきありえない白熱灯が、ぽつんと灯っていた。それを見上げ、どうすれば目が覚めるかと視線を戻す。
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