無理!「ボブ、お前が好きだ。付き合ってくれ」
「えっ……ごめん、無理!ごめんねっ!」
「えっ」
「……ということがあって」
机に肘をつき、手を組んで顎を乗せるどこかのおじさんポーズのままルースターが話しかけているのはフェニックス。呆れ顔でルースターをみている。
「なんで私に言うのよ」
「おまえボブの相方だろ。よくわかるかと思って」
「だからといって全部わかるわけじゃない」
フェニックスの態度は投げやりだ。それはそうだろう。ある意味惚気話を聞いている気分だ。成立してはいないけれど。それにフェニックスも暇では無い。呼び出されて何かと思ったらこんなこと。今すぐ帰りたい。
「そもそもなにが無理なんだ。YesでもNoでもなく。割と傷ついた」
「あんた自体の人間性、とか?」
「……人間的に無理、ということか?」
「かもよ」
フェニックスは辛辣だ。ボブの真意も分からないのになんとも言えない。そうなると目の前のルースターを主観だけで推測するしかない。みるみるうちにしゅんとしていくルースターを見て仕方ないとフェニックスは力を貸してやることにした。
「……しょうがないから協力してあげるわ」
「そうしてくれると助かる」
「ダメで元々、と思っておきなさいよ」
「それは無理」
「……諦め悪いわね」
まぁいいわ、とフェニックスはしょんぼりしたルースターに背を向けた。協力するとは言ったもののどうするべきか、と先ずボブを探しに行った。
「ボブ!」
「フェニックス?どうかした?」
「あのさ、あんたブラッドショーのこと嫌いなの?」
単刀直入、ボブの頭にダガーナイフを突き立てるほどの勢いでフェニックスは言葉を投げつけた。突然のことにボブがむせる。お約束ね、とフェニックスは思った。
「ちょ、何言ってるんだフェニックス」
「なんとなく聞いてみたくて」
「なんとなくで聞かないで!」
ボブの頬は少し赤くなっている。これはもしかしたら?フェニックスは少し楽しくなってきた。正直ルースターのことはどうでもいいがボブのことは気になった。自慢のバックシーターがどんな答えを返すのか、見ものだった。
「で、どうなの?」
「……嫌いじゃないよ」
「なんで間が空くのよ」
「気分だよ」
「それで?嫌いじゃないなら、好きなの?」
またボブがむせた。わかりやすいわねー、とフェニックスはその背を撫でてやった。これはもしかして、もしかすると?フェニックスはさらに楽しくなってきた。
「……フェニックスだから言うけど、本当は好きだよ。Loveの方でね」
「じゃあ付き合わないの?」
「それは無理!」
「無理?なんで?」
ボブはフェニックスの前でも無理だと言う。自分にだから言うけど、と言いながら無理、とはどういうことだろうか。
「……ルースターはかっこいいし、きっとモテるでしょ」
「えぇぇ……そうかしら」
仲間内からみているからだろうか。どうしてもそうは思えなくてフェニックスは首を傾げる。百歩譲ってかっこいいかもしれないがモテてるようには見えない。ルースターには悪いが。
「そうだよ。よく女の子といるの見かける」
「そうなの」
それは知らなかったとフェニックスは驚く。まさかの事実だ。そしてそれじゃあ……と思うが無理!という理由にはなり得ない気がする。まだきっと隠してることがある。
「それで?それで何が無理なの?」
「えっ」
「……なにか不都合なことでも?」
「いや、そうじゃないけど……」
「けど?」
何やら歯切れの悪いボブにフェニックスは怪しむ。やはり人間的に無理だったり?それならしょうがないと思うがボブは確かにルースターのことを好きだと言った。Love。I Love You。ならなんでだろうか。
「……好きな人が、モテて、人に囲まれてるの見るの、嫌でしょ」
「そういうもの?」
フェニックスはそうは思わないからよく分からないが、ボブの意見からするとそう言うものなのかもしれない。とにかく続きを知りたい。
「そう。例えば付き合ったとしても、きっとそれは変わらないと思う。そうなったら」
「なったら?」
「尚更嫌でしょ」
「ふぅん」
「きっと嫉妬すると思う。そんな思いするくらいなら一人の方がいい」
ボブは俯いてそう告げた。やはりフェニックスには理屈が分からないがとにかくルースターがモテるのが嫌だということはわかった。本当のところどうだかは知らないが。本人もどう思ってるかも知らないが。
「……ということらしいわよ」
「マジか……俺モテてる記憶ないけど」
「でもボブにはそう見えるみたいよ」
「どうすればいいんだ……」
頭を抱えるルースターにフェニックスは呆れ顔だ。本人には自覚がないらしい。本当のところボブとルースターのどちらが正しいのかさえ分からないが、相方としてはボブの方が正しいと思っている。ボブはそう簡単に嘘はつかない。なら尚更ボブの方が正しいに違いない。
「日頃の行いが悪いのね」
「だからそんなことはない」
「でもボブがそう言ったのよ」
そう言うとルースターは押黙る。ルースターもボブが嘘をつくとは思っていないからだ。でも自分がモテているとかは絶対にない。と思う。女子と話す機会は多くは無い。フェニックス相手なら別だがそこは気にしていないだろう。
「どうすれば……」
「そればっかりね」
「真実だろ」
「まぁね」
「……お前冷たいよな」
「優秀なバックシーターをそう簡単に嫌な男に譲れると思う?」
「……俺嫌な男なのか」
「ボブに疑われるくらいには」
ボブが疑うくらいには、女にモテているらしいルースターに、譲るくらいなら私が貰うわ、とフェニックスが言ったがルースターがやめてくれと訴えた。
「まぁまず誠意を見せないと。女子には近づかない、近づけさせない、ボブにフレンドリーに接して自分にはボブだけだと思わせる、女子には……」
「そこら辺はもうわかってる二度も言わなくていいい」
まずそれが大事なのはフェニックスの報告からわかっているので何回も言われたくない。そもそもそんなこと、なかなかないはずなのに一体ボブはどこで何を見たというのだろう。
「解ってるならいいけど。もし成就しなかったら私がもらうからね」
「ダメ」
「じゃあ本気見せなさいよ」
「いわれなくとも」
そうする、とルースターは言ったがなかなか原因が分からないので困っている。女子にもててる?そんなことは無い。女子と仲良く?フェニックス以外とはしていない。ボブは本当に何を見たのだろう。こればっかりは分からない。どうすれば。ルースターは同じことを3回言った。
「ボブ」
「なんだい?」
「ブラッドショーとはどうなった?」
今度はボブはむせなかったが苦虫を噛み潰したような顔をした。どうやらきかれたくなかったようだ。わかりやすい態度にフェニックスはにまり、と笑った。
「どうもこうもないよ」
「つまんないわね」
「ちょっと、僕で遊ぶのやめてくれる?」
「別に遊んでないわよ」
結局ルースターはあれからボブとは会っていないようだった。アドバイスしてやったのに何様か、とフェニックスはルースターにイラついた。
「……ルースター。また女子と仲良く話してたし、僕が出る幕なんてないよ」
「まって、それ本当?」
「うん。背が低めの、華奢な子と話し込んでた」
あれだけ言ったのに。結局その気は無いんじゃないのかと思わざるを得なかった。やっぱりボブはルースターなんかにやれないわ、とフェニックスは息巻いた。
「ボブ、悪いことは言わない。あいつはやめときなさい」
「……言われなくともやめとくよ」
「そうね、そうして」
それだけ言ってボブとの会話を切りあげ、フェニックスはルースターを探す。けれどあっけなく見つかりこの前のポーズと同じポーズをして何か考え込んだいた。
「無理……」
「残念ながら無理ね。私もそう思う」
「なん……だと……」
「あんた、この前女子と仲良く話してたそうじゃない」
ボブが言っていたことをルースターに叩きつける。ルースターは慌てたように首を振った。どんだけ振るんだと言うくらい振っていた。それでも事実は変わらないわよ、とフェニックスは言った。
「俺最近誓って女子とは話してない」
「ボブが言ってたわよ。背が小さめで華奢な子」
「そんな女子そもそも知らない」
「じゃあ誰?」
フェニックスがもっともなことを言うのを聴きながらルースターは頭の中を引っ掻き回す。そんな人物の心当たりを探して。うんうん唸り出してたらぽろりと心当たりのあることが出てきた。
「あ」
「やっぱりね。残念。ボブは私が貰うわ」
「いや俺が貰う。そいつはクラックスだ」
「クラックス?身に覚えがあるんじゃない」
「勘違いするな。そいつは男だ」
「え」
見に覚えがあると言いながら、相手が男だと言われたらフェニックスにはなにも言えなくなる。まぁボブを好きなだけあって相手が別の男でもいいのではと思わないでは無いが、男相手にモテている、とはなかなか使わない。ボブの勘違いだったのだ。
「そいつ空中管制官で、たまに一緒になるから話しこむことが多い。でも男だ。決してモテている訳でもないし、まして付き合ってるとかでもない」
「へぇ……」
「俺と比べると華奢にも見えるだろうし、背も低く感じるだろうよ。でも男だ」
「……ボブも男よ」
「ボブは別だ」
だからやましいことは無い、とルースターは主張した。ボブの勘違いが発覚したけれどどうすれば。四回目である。フェニックスはもはや真顔である。勝手にしろとばかりに適当なことばかり言う。
「じゃあまた告白したら」
「また無理って言われたら」
「諦めろ」
「無理」
「あんたもか」
適当に返してフェニックスはルースターとの会話を打ち切ってルースターを置いて戻っていく。これ以上はつきあっていられない。時間は有限だ。 自分以外の無駄な問題に割く時間はない。ただ、結果は知りたいとは思った。後でボブに聞こう。
「……というわけで女子と仲良くしたことは無い。するつもりもない。だから付き合ってくれ」
「えっ……でも無理!ごめん!」
「えっ」