10/21:ランタン とある町に立ち寄った日のこと。グランはその町の長からある相談を持ちかけられていた。
町長は今年の収穫祭を前年よりも盛り上げたいと考え、近くの森をハロウィンのランタンで飾り付けるイベントを考案したらしい。しかし、他の催し物の準備に追われた結果、森の安全性についての調査までは手が回らず、腕の立つ騎空士に依頼をしようと考えているのだと。
グランが自分も騎空士であると話し、町長の相談を騎空団の団長として正式に依頼として受け、団員達と分担しながら森の調査を進めることになった。
明るい時間帯に確認した時点で、森の中に住む魔物は、こちらから手を出さない限り温厚に過ごす種類ばかりだということや、所々に散見する獣道に誤って入らないよう注意さえすれば問題はなさそうだった。
最終確認として夜行性の魔物への警戒がどのくらい必要か調べる役割をランスロットとジークフリートが受け持ったが、こちらも昼間の調査結果と同様の点にさえ気を付ければ安全性は確保できるということがわかり、調査は無事終了となった。
二人が調査を終えた森から町へ向かっている途中のこと。ジークフリートが持っていたランタンの火が、風を浴びたかのようにふっと消える。月明かりのお蔭で幾分かは周りが見えるとはいえ、深夜に近い時間帯の暗さの中では灯りなしで歩くのは心許なかった。反射的に、隣を歩いていたランスロットの方を見ると、ひとつ分の灯りがゆっくりと確実に近づいて来ていた。
「俺の火を使ってください」
ランスロットはそう言ってジークフリートの手元を照らしたが、真っ暗なランタンの中の蝋燭は完全に溶けているようで、火を移しても意味はなさそうだった。
「後は戻るだけだ。お前の灯りに頼ってもいいか?」
「ええ、勿論です」
ジークフリートは後ろをついて行くつもりだったが、どういうわけかランスロットはなかなか歩き出さなかった。どうかしたかと尋ねようとする前に、意を決したような声色のランスロットが、不躾なお願いなのですがと口を開く。
「町の明かりが見えるまで、手を繋いでいてもいいですか」
予想外の頼み事に、ジークフリートはきょとんとしていた。相手の表情が見えないことで焦りが増したのか、ランスロットは弁解するように話を続けた。
「その、はぐれてしまわないよう、万全を期したいんです」
おそらく本心でもあるが、もっともらしい事を言ってしまったという羞恥の念に駆られたのか、下心がないわけではありませんがとランスロットは申し訳なさそうに付け足した。
律儀に懺悔されるとは思わなかったので、小さく噴き出した後ジークフリートは返事の代わりに差し出された手を握り返す。
「では、甘えさせて貰おうか」
ジークフリートの言葉に対し、溌剌とした声で、はい、とランスロットは応えて歩き出した。
手を引かれた瞬間、ジークフリートはふと、依頼主である町長が言っていた、ハロウィンに飾るランタンの意味を思い浮かべていた。たしか、魔除けと、皆が迷子にならない為の。
「……道しるべ、か」
ゆらゆらと道を照らすランタンの火と、強く握られた手の熱から、ジークフリートは隣を歩く大切な存在の成長と頼もしさを実感していた。
何かおっしゃいましたか?と尋ねるランスロットに、ジークフリートは何でもないと返すと、導かれるままに歩き出した。