10/27:悪霊退散 ハロウィンの日は幽霊が現れやすくなる。しかし、それは当日に限ったことではないらしい。ハロウィンが近づけば近づく程、悪戯好きの霊は皆浮足立ち、理性を無くして人前に出てしまうという話をどこかで聞いたことがある。
立ち寄った村の長に相談されたのは、古い洋館に住み着いた大量の霊についてだった。霊達は洋館に近づいた村民を見つけては何かしらの悪戯をしかけ、人々を困らせていた。理由を知ろうにも、こちらの言葉が通じないのか、何を話しても霊は識別できない言葉で笑うだけだったそうだ。霊達が皆幼い子供の姿をしていることもあり、対処について村の中でも意見が分かれてしまい、このままでは埒が明かないと判断した村長は、グラン達に少年の霊についての調査を依頼した。
霊の扱いに長けた団員がいたことで、紆余曲折はあったがどうにか子供達の霊から直接話を聞くことは出来た。曰く、古い洋館は元々は孤児院だったそうで、病気や事故で亡くなった悪戯好きな孤児達は、もっと遊びたいという思いを募らせた結果、成仏できないまま地縛霊となってしまったらしい。初めは霊同士でこっそり遊んでいるだけで十分楽しかったが、日に日にどんな遊びにも満足できなくなってしまい、人を脅かすことに手を出したそうだ。
"朝が来るまで騎士様達が遊んでくれたら、みんなを怖がらすのはやめる"
説得の末引き出した霊達の提案を受け入れたことで、依頼を手伝っていた団員全員で霊が満足するまで遊ぶことになった。
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「あ!こら!」
ランスロットに注意された少年の霊は、持ち上げていた髪から手を離すと、けらけらと笑いながら宙に浮いて逃げていく。二本結いにされていた髪は自由を与えられるとまばらに流れ、いつもの形へと戻っていった。少年の霊に天井に近い高さまで逃げられてしまったランスロットは、追うのを諦め不服そうな表情でこちらへと戻ってくる。
「手厳しいな」
他の悪戯には比較的寛容で、寧ろ霊達と一緒に悪戯を仕掛ける側になると思っていたこともあり、つい、意外だったと伝える。
「度が過ぎた悪戯は流石に注意しないといけませんから」
確かに、遊び始めた時は少々難儀した。霊体の時期が長かったからか、彼らの遊びは生身の人間からすれば命にかかわるようなものが多く、先程までは魔物との戦闘と同じ緊張感に包まれながら皆で対応していた。こちらから遊びを提案したり、危険な行動については少しづつ窘めることで落ち着いては来たが、今後のことを考えると、軽はずみな行動については引き続き指摘をした方が良いだろう。
「だが、この程度の悪戯……俺は特に気にせんが」
髪を弄られる程度、怒るほどのことでも無いとは思ったがランスロットは首を横に振った。
「貴方に失礼なことをする者は誰であろうと俺が許しません」
高い位置にいた少年の霊がすぐ近くまで来たかと思えば、指導してきますと言ってランスロットは霊の急追を再開した。
あのような、とても大きな決心をしたような表情で言われては、それ以上俺から言えることは何もなかった。頭が固いのか、礼儀に厳しいのか。それ以外の可能性を考えると、どうも決まりが悪かった。