懺悔せよ(仮)『すみません太宰さん、僕もその少女の事を詳しくは解りませぬが‥‥』
「何?ハッキリ云って?」
『中也さんの恋人だと聞いております』
端末から聴こえてくる芥川の声が遠ざかっていく。
中也が容易に自分の領域に人を入れるとは思えないし私と別れてまだ一ヶ月そこそこだ。
そんな直ぐに気持ちを切り替えて恋人を作るなんて中也がする筈ない。
だが‥‥先程見た光景は幻でも夢でもなく現実だ。中也の家の鍵を持ち『ただいま』を口にする間柄。
「‥‥‥」
『太宰さん?』
端末から聴こえてくる芥川の声に太宰は思考の波から戻ってきた。
「悪いけどあの少女について調べてくれる?小さな事一つでも取り零さずにね?」
太宰は通話を追えると地上から中也の部屋を見上げた。
「こんなことで終わる様な、そんな脆い関係ではないだろ?私達は。ねぇ中也」
太宰は静かに目を閉じゆっくり息を吐き出すと、また静かに目を開け探偵社寮へ帰るため歩き出した。
とにかく、今はあの少女についての情報収集が最優先だが。何か引っ掛かる。
私の女遊びに愛想を尽かしたと云うよりも、何か私がやらかしている気がする、それもあの中也が別れを決断するほどの重大な過ちを。
‥‥‥解らない。
解らないと云うか、思い当たる事が多すぎて解らない。
太宰は大きな溜息を吐いた。
改めて考えると本当に私は最低だ。
中也が愛してくれているのに、その愛を弄んだと云われれば返す言葉もない。
中也から巫山戯ンな!と罵声があがりそうだが、中也のあの嫉妬した顔を見たくて堪らなかったんだ。
中也が私に『俺だけ見てろ』と訴えかけてくるあの目も、女の子と浮気した事を勘づくと寝台の上で『もっと』と激しく求めてくるあの声も、朝眠っている私に口付けをし『俺だけにしろよ』と呟き私の胸に擦り寄る温もりも、全てが愛おしくて、もっと、もっと私を求めて欲しいと欲を出し何度も浮気をしてしまった。
‥‥その結果が此れだ。
本当に私は大莫迦野郎だな。
愛を囁いてもこんな事ばかりしてたら中也が不安になって私の愛を信じられなくのも当然じゃないか。
‥‥中也が自分が男だから一番になれないと思ってた事に気付けなかったのは恋人として最低だな。
『太宰、もう‥‥疲れたんだわ』
中也の悲し気な目と、力なく微笑むあの顔が頭から離れない。
この別れは私がもたらしたものだ。
それでも、我儘だと云われても!
私は中也を手離したくない。
どんなに中也に拒絶されようと、もう一度私の愛を受け止めてもらいたい。
ごめんね中也、私は諦めたくないよ。