おちょこ サボが昔寝る前に読んでくれた、仮面をかぶった男が旅をする話のタイトルが思い出せない。
そいつはカメラで女子供の裸の写真を撮ってブロマイドにして売りながら世界中逃げ回る大犯罪者って設定だった。
つまんねえしやってることが気持ち悪ぃからおれはあんまり読んでほしくなかったけど、おれとエースで腕相撲に勝った方がサボに好きなもの読み聞かせられるって勝負でおれは一回も勝てなかったから、ほとんど毎日その変態仮面の連作のどれかだったな。
サボは知ってた、エースはわかんねえまま旅立った。
仮面の男が写真を撮るところは大体ひっかけクイズみたいにとんちんかんなたとえ話ばかりだったんだ、サボが捻じ曲げて教えるもんだからエースそのまま信じちまって。
1ページ読むごとに2人でちゅぱちゅぱほっぺにも口にもキスしまくってて2人に挟まれてるおれは押し潰れそうだった。
「やあやあルフィくん豪快に呑んでるじゃあないかぁ~っ!はっはっはぁ~よぅしキャプテェェェェン!ウソップ!様の伝説のひとつを語ってあげよぉ~う!!」
「ルフィちょっと飲みすぎてないか?水も飲んだ方がいいぞ」
サボの読み聞かせってなんか変だったよな。
おひめさまが泣き叫んでるとこを喜んでるように読んだり、女の子の家族が男から女の子を取り返して牢屋にぶちこまれてめでたしなところを鼻ズビズビさせながら悔しそうに読んだり、なんか読んでるとことこころがちぐはぐな感じで、すっげえ眠いのに頭の中に10面相したキャラがたくさん邪魔してきて。
読み終わった後、こんなのおかしいがんばったら報われるべきだなんで家族に奇跡なんか起きちまうんだってサボは必ず怒ってきて、めんどくせえからエースのタンクトップの中に潜って聞こえないように頑張ったけど背中越しのサボの声がでかすぎて意味なかったんだ。
「ロビンちゅわん♡おつまみ持ってきました♡」
「ありがとサンジくん、ジンベエもどう?」
「ワシぱっふぇはあんまり」
サボがいなくなってからも時々エースのあついおっぱいと腹にいっぱい顔くっつけて寝た。
ひとりでねんねもできねえのかってだっこしてくれるエースはいつも熱くて、ちょっと汗ばんでしょっぱくて、時々震えてもっと熱くなって何かに謝ったりなんで生まれちまったんだだのなんであんなのが親なんだだのそういう類の泣き言を言いながら眠っていたけど、そんなこと言っちまったらエースのとーちゃんかーちゃんだって、ガキがほしいって思って産んだだけで、別にエースがほしくて産んだんじゃねえぞ、おれの親だっておれがほしくて産んだんじゃねえ、だから今こうやって腹ん中の赤ちゃんの双子みたいにいらないもん同士抱き合って寝てるんじゃねえの、って思ったけど、言ったらもうタンクトップの中に入れてくれなくなるかもしれないから言わなかった。
サボもエースもいつもなにかに怒ったり泣いたりしてたけど、それがなんなのかはあの時よくわからなかった。
「おうどうした?うちの船長が珍しく飲んでんじゃねえか」
「しかも唐辛子酒じゃない、なんでこんな辛いもん飲んでんのよ」
仮面をつけた大犯罪者が世界中に追っかけられて死んじまう話、エースは好きだったしサボは許さなかった。
自由に顔を晒して海を渡って生きた先、おれはどういうめでたしめでたしで終わるんだろう。
「丸まってしまいましたね。ではよく眠れるようにここで一曲」
「おっなんか喋ってるぞ、なになに…はやく追いつきてえ、背中がまだぜんぜん遠い」
「ふっふっふ…偉大なるウソップ様の背中は簡単には触れられまい…おっと!なんということだ!うっかりおんぶをしてしまった!」
「いいぞウソップそのままSUPAAAなハンモックにぶちこんでやれ、湯たんぽでぬっくぬくになったハンモックになぁ!」
塩辛くて熱いあのお腹とおっぱいと、背中を撫でる分厚い手、辛くて熱いのに抱きついて目を閉じると変なお伽話がはじまる。
むかしむかしあるところに、あるところといってもどこにでも行けるわけじゃないカメラを持った旅人が…
「ちょっと笑っとるな」
「あーあールフィはピンクの象が見えてごきげんか、明日起きれんのかこれ?」
「起きるわよ朝メシ!って騒ぎながら」
「酔い止めぶち込んでおくから大丈夫だぞ!」
遠く響く幼い怒鳴り声と啜り泣く声に揺られてどんどん身体が重くなり、もしかして酔っぱらっちまってんのかなと思った時にはもうまぶたが閉じ切っていた。