全部夢「おれとエースが悪かったんだ」ふたりぶんの死体の上でルフィは呟いた。
「サボが親に連れてかれるとき手を離しちまった。手を離しても、こうしてもう一回連れ戻しに行けばよかったんだ」サボは首を振ってルフィの手を握る。
「違うルフィ、おれはひとりでも抜け出せた。でもおまえらがひどい目合うんじゃねえかって動きだせなかったんだ。もしかしたらふたりにとっておれが迷惑なんじゃないかって疑った。おれが悪かったんだ…」そう言いながら握ったルフィの手をべろっとなめた。
ルフィは特に感情を見せずにサボをビンタした。
うれしそうに頬をおさえたサボはルフィを抱きしめる。
「エースもほら」
ふたりがおれを見つめる。
おれは汚れた上の服を脱いで抱きしめ部屋の隅で丸まっていた。
「……」
「エース、殺すことくらい慣れっこだろ?サボと別れてから、熊もワニもエースが一番殺して食ってた」
首を振って顔を伏せる。
なにを言っているんだかわからない、おれ殺したことなんか。
足の指先を丸めて声を絞り出す。
「どうすんだよそれ」
「さっきルフィとエースの家に持ってこうって喋ってたんだ。いいよな」
「なんで…」
「うちに置いとくとまずくねえ?パパとママは昨日からおしのびで世界旅行に行ったって設定でさ。だからエースんちおれが買うんだ。アパートの住人みんなに出てってもらおう。そこにこれをしまっとくんだ。ずっと。感づかれたら札束ビンタしよう。おれルフィが捕まるの嫌だから、エースも協力してほしいなって」
「ほ、ほんとに、ルフィが?どうして?」
顔を上げるとルフィがにこにこしながら歩み寄ってきた。
いつものめんどくさそうな笑顔じゃない、なにかやんごとなきものが宿りおちてるような笑顔。
「守ってやれなかったから」
パリパリに血が渇いた手でネックレスをひっぱられ床に転がされ頭を強く踏まれた。
「腕が伸びなくたって今度こそ守ってやるって思ったんだ。おれたち兄弟だよな。忘れたのか?」
土下座させられてるみたいだ。
頭を振って見上げるとにこにこ笑うルフィの首元にサボが顔を埋めてる。
「おれもふたりを守れなかった。だからやり直したんだ。なあルフィ」
「おう!にししぃ」
からだを起こすとおでこをくっつけていつもよりずっとずっと優しくキスをしてくれた。
ルフィはどうしちまったんだろう。
わからないおれにルフィは言い聞かせる。
「なんにも難しくねえんだぞエース。サボが連れてかれる時こいつらをこうしてぶっ飛ばしてやりゃあよかったんだ。な?ほんとはわかってたろ?サボの幸せがわかんねえわけねえんだ。わかってたのに助けに行かなかった」抱き寄せられるからだをよじり後ずさっても壁に当たるだけ、近づくふたりを見上げる。
「知らねえ…!サボなんか今日初めて見た」服を投げつけるとルフィが叩き落してまたにこにこ笑った。
「次はサカズキだな!あいつも生きてたらぶっ飛ばしに行こう。そしたらエースはもう死なない」肩に膝にふたりの手が滑り手で振り払う。
「死ぬだの死なねえだのもうたくさんだ」
振り払った右手をルフィ、左手をサボに捕まれ壁に押し付けられる。
「たくさんなわけあるか足りねえよエース」
「おれもだ。500半以上生きて死んで繰り返したのにおれとエースとの時間はたった5年だけ」
「大丈夫だぞうまくやるから」
「そう今度こそちゃんと三人で」
代わる代わるキスされた後、ふたりはおれから離れて服を脱ぎ、サボがクローゼットからきれいな部屋着を出してルフィに投げた。
部屋着を着たルフィは死体の詰まったブルーシートに頭を乗せ眠りはじめる。
「シャワー浴びねえんだなルフィ」
咳するみたいに笑ったあとサボも着替え、おれにタオルケットをかぶせた。
「エース、昔みたいに3人で寝よう」
おれが答えないでタオルケットを抱きしめるとバカみたいに強い力でおれを抱き上げルフィのとなりに寝かせられた。
ルフィのとなりってことは枕は死体、右にルフィ、左にサボ。
体を起こそうとするとふたりに抱きしめられ足を絡められる。
「い、嫌だ離せよ」
「はやく寝ろよエース。夜明け前にここ出るんだからな」
「段ボールに詰めるのはおれがやっとくからふたりはもうちょっと寝ててもいいよ」
「ほんとか?サボはやさしいなあっひゃっひゃ」
「なあやだって!人殺してんだぞ、おかしくねえかこんなの」
「おかしいからなんだよ」
「嫌ならルフィを通報すりゃいいんだ」
「無理に決まってんだろ…!」
「知ってる♡」
じたばた足掻くおれを撫でたり抱きしめたりしながらふたりは眠ってしまった。
これを、この頭の下のものをどううちに運ぶって?段ボール?車でか?ご近所さんに見つかったらどう言い訳するんだ?
窓から甘い匂いが漂う室内、雨の音を聞きながらおれは震えて陽がのぼるのを待った。