ノータイム「ルフィ、おれら兄弟だよな」
エースが抱きついてるのはただのちょっとでかい岩。
別にサボが埋まってるわけでも灰を撒いたわけでもないけどこの岩はサボ。
ところどころ柔らかいこけが生えてて、おれが離れようとしたらシャツの裾を掴まれた。
「どこ行く気だよ」
「いやエースがなんか湿っぽいからカラカラのジジイどものとこでトランプでも」
「トランプ」
「おう!あいつらダダンに内緒でバカラしてるだろ、みんなすげえ強くておれ全然勝てねえんだよな、今金ねえけど宝払いで」
「しらねえ…バカラも、みんなで遊んでんのも」
エースは強くこけにほっぺをくっつけて目をうるませた、言わなきゃよかった。
べつに誰もハブってねえんだからくりゃいいのに、おれが誘わなきゃ基本自分の国にこもってるからなんも知らねえまんま、力ばっかつよい。
こんなさみしがりでほんとに海に出て生きるのか?騙されねえか?サボがことあるごとに「エースにはおれらだけだよ」「おとななんかあてにしちゃだめ」「せかいの全部呪い殺すような目がすきだよ」ってやさしく吹きこんだせいでエースは今日もひとり。
「バカラって楽しいのか」
「数字がでかいかちいさいか当てるだけだからそんな楽しくねえぞ、でもバカ共があつまってみんなでげらげら笑ったり泣いたり酒飲んで騒いでるのが楽しい。ひとりでするもんじゃねえんだ、みんなでおかしとか食いながらやるんだぞ」
「そうかよ」
「あ、ほらこれ昨日もらったおかし、青いチョコ。ケルノンなんとかってやつ。おいしいよなこれ!サボのコートみてえ、エースのぶんもあるから一緒に」
「食ったことももらったこともねえ」
首を振ってますます岩にくっつく、言わなきゃよかった。
ポケットから出したおかしの封を切ってエースの口元に青いチョコを押しつけてもんーんって嫌がった。
今日のエースはダメな日だ、そっとしておこうと離れたらまたシャツの裾をひっぱられた、どうしろってんだよ。
青くてつるんとしてるくせに中すげえガリガリのクランチ入ってるチョコを噛み砕きながら、後ろから腕を伸ばしてサボごとぐるぐるだっこしてやるとちょっと震えて嬉しそうな顔をしてくれた。
「やっぱエースと遊ぶ」
「おかしねえしトランプもねえし誰もいねえしどーせ」
「トランプじゃなくて」
エースの手をとってサボから離れる。
ちょきにした両手の指をサボにぐるっと巻きつけて離れてしゃがんでエースを見た。
2本の長いゴムで繋がってるおれとサボを交互に見て突っ立ってるから歌った。
「いちじくにんじんさんまのしっぽ♪ゴリラのろっこつ菜っ葉葉っぱ腐ったとーふっ」
黙っておれの伸びた指をみつめてるからもう一度数え歌を歌ってあげたけどエースは跳ばずにタンクトップをのすそを握ってる。
「ゴム跳び好きじゃねえの?2本じゃなくて1本のほうが好き?」
「ゴム跳び」
「ゴムに足引っかけて跳んだりあいだで跳ねたり。しらねえ?みんなでやるやつだぞ、マキノの店でシャンクスたちと」
「…みんなって何」
震え声で胸のあたりを握りしめるエースはもうほとんど泣きそうだ。
言わなきゃよかった、とまた思ったけど、このままエースの世界が狭すぎるのは結構嫌だからちょっとはりきった。
「おれがいるから大丈夫だぞ、なんも持ってなくても誰もいなくてもできる」
「やったことねえし」
いったんサボから指を離し、地面に足幅で二本線を引いて、エースにお手本を見せる。
「これゴムな。ゴムを右でひっかけ、そとなかそと、ぐるっとまわってとんで、左でひっかけ、そとなかそと、ぐるっととんで…」
ゆっくりステップ踏んでると途中からエースもまねして跳びだした。
まわってとんで何度か繰り返し、もういっかい両手の指をサボに巻きつけしゃがむ。
「にししっ簡単だろ?えーっさえーっさえっさほいさっさ〜♪」
「歌うの」
「リズムに合わせて飛ぶんだぞ、いちにーさんしじゃ楽しくねえもん」
「知らねえ歌」
「心配すんなよすぐ覚えれるって!ほらやろーぜ」
笑って促すとエースは靴を脱いでおれの指と指の間に足を通した。
指をうにうにぐねらせゆっくり歌うと合わせてエースが小さく跳びだす。
「えーっさえーっさえっさほいさっさ〜♪おさるのかごやだほいさっさ〜♪」
サボに背を向けてふくらはぎや脛、足の甲でおれの指をひっかけてねじって、跳ねて弾いてすべらせて、またひっかけてを繰り返すうちにステップが軽くなる。
つるつる擦れるエースの足がくすぐったかった、にいちゃんと遊ぶのはくすぐったい。
陽が沈んでもエースは歌わなかったけど、ゴム跳びを止めたあと青いチョコをあげたら食べてくれた。
せっかくだし一緒に帰ろうと手を差し出したら叩き落とされ、走って自分の国に帰ってっちまった、ありがとうも楽しかったも言えやしねえエースに誰がした。
苔だらけのサボに唾を吐き、転がった黒い靴を持っておれも国に帰った。