リメンバー・ミー · ソーダライトⅠ「俺の1番大事な記憶」
「俺の1番幸せな記憶」
「俺の1番好きな‥
大事に抱えていたはずなのに、いつの間にか落としてしまったそれらを暗闇の中俺は必死に探していた。ここがどこかもわからない、見渡す限りの闇。わかっているのは落とした記憶をなんとしても見つけなければいけないという焦燥感。これがないと生きていけない、そのくらい大事な記憶だった‥はずなのに。どんな記憶だったのか時間が経てば経つほど薄れていく‥俺は焦りから暗闇の中を走った。
「俺にはあの記憶がないと‥‥ないと何だ」
意識が浮上する感覚と共に完全に俺の中から「それら」は失われた。
***
「不破さん、意識取り戻しました」
目を覚まして最初に感じたのはやたらと眩しいことだった。まわりを見るとドラマでしか見たことない医療機器や器具。こんな状況にも関わらず変に冷静だった俺はとりあえず命は助かったことに安堵した。
車が歩道に突っ込む事故に巻き込まれ、頭を強く打ったことによる出血多量。幸い、今の所は後遺症なし。まだ傷が塞がらないのと検査が残ってるので退院はもう少し先になるらしい。俺は一般病室に移され暇な1日を過ごしていた。面会時間がもうすぐ終わる、そんなタイミングで来客があった。病室に入ってきたのは辻峰の制服にライトブルーのパーカーを羽織ったやたら綺麗な顔をした男。俺を見た瞬間彼の瞳に涙が溜まっていった。
「不破、お前頭強く打ったって聞いた‥起きてて大丈夫なのか‥」
「今のところは。‥‥‥で、誰」
「は」
「辻峰の制服着てるってことは知り合いだよなでも思い出せねー‥」
どうしても思い出せない。こんな綺麗なヤツ、1度会えば忘れるはずないのに。
「お前、俺のことがわからないのか‥」
「悪ぃけど‥」
そう俺が謝ると彼のソーダ色の瞳から涙が溢れた。音もなく後から後から溢れるそれを俺は不謹慎にも綺麗だと思った。
(溢れるの勿体ねぇ‥舐めたら甘いんだろうな‥)
涙を溢すソーダ色に無意識に手を伸ばした時、面会時間終了を知らせる放送が流れた。
「‥帰る」
「ああ、」
彼に届くことなく行き場を失った手を握りしめる。
知らないはずのソーダ色が恋しいと、確かに俺は感じていた。
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