続·大田黒の憂鬱俺は辻峰高校弓道部2年大田黒賢有だ。
今日は辻峰高校の文化祭だ。俺は今文化祭実行委員として軽音部主催の体育館ライブの見回りをしている。他校の女子もたくさん来てることに多少浮かれつつもそんなものはおくびにも出さず業務に励んでいた。
そろそろ軽音部のステージが始まる時間であることを確認し、俺も待機場所でライブを楽しませてもらおうとステージ上を見て、固まった。
同じ弓道部の仲間である二階堂永亮と不破晃士郎が何故かステージの上に立っているのだ。
「‥なんでお前達がそこにいる」
俺がそんなことをボケっと考えていたら軽音部の演奏が始まった。
演奏が始まってもガヤガヤとした喧騒に包まれていた体育館が二階堂と不破が歌い出した瞬間、そこにいた全員の目がステージ上に集中し、耳を傾けたのがわかった。この2人、すごく歌が上手いのだ。
「えっ、ボーカルの2人めっちゃ歌上手くない」
「しかも2人ともレベル高い〜」
「系統の違うイケメンだよね軽音部なのかな」
(いいえその2人は弓道部です‥)
他校の女子達の会話を聞きながら心の中で突っ込む。
でも確かにステージ上で歌う2人を観たら勘違いしてしまうだろう、そのくらい様になっていた。
まわりの熱気に充てられ、俺も気がついたらハンズアップをしてライブを楽しんでいた。
2サビに入った辺りで二階堂のマイクの音声が突然切れた。すると不破が二階堂の肩を抱き寄せ、何かを耳打ちしている。そして不破の使ってたマイクで一緒に歌い出したのだ。
「顔近‥観てるこっちがドキドキしてきた‥」
「私も‥赤メッシュくんの目線がエロい‥」
「ずっと肩抱いてるし‥なんか2人の世界作ってない」
「「それな」」
先程の他校の女子達の会話である。
常日頃からそう感じている俺からしたら本当にそれなしかない。ただいつもは弓道部内、所詮は内輪だけの話だったので目を瞑ってきたがこんな公衆の面前であんな真似するとは一言文句を言ってやらねば、と息を巻く。
しかしこの時俺はまだ知らなかった。この後もっとすごいやらかしをあいつらがするという事を。
無事()ライブも終わり後は捌けるだけというタイミングでそれは起きた。
「なぁ、二階堂」
「なんだよ」
「ファンサしよーぜ」
「はぁ」
そんなやり取りをした後、不破が二階堂の頬にキスをした。
「「「「キャーーーー」」」」
体育館は悲鳴に包まれ、2人はステージを降りた。
「あれ、黒ちゃんも来てたんだ」
「よーっす実行委員おつかれ」
「今俺が疲れてるように見えるのなら全部お前らのせいだ‥」
体育館のステージ裏でなぜかスイーツを食べる二階堂とそんな二階堂の為に飲み物を用意する不破を見つけた。
「なんだって軽音部のライブで歌ってたんだ」
「軽音部のダチから頼まれたんだよ。なんでもWボーカル2人ともが食中毒らしくて助けてくれーってさ」
「なるほど人助けなら仕方ないな‥しかしあの最後のはなんだ公衆の面前でキ‥キスキスなどと‥」
「あんなのただのファンサじゃん。仲良し営業ってヤツなー二階堂」
「あれは俺も被害者だから文句言うなら不破だけにしとけ」
ザッハトルテを食べながら興味なさそうに二階堂は言った。
「さっきから気になってたがこの大量のスイーツはなんなんだ」
「歌ってやった報酬」
「入手困難なスイーツで見事二階堂の買収に成功しました」
「うるせーよ。不破そっちのマカロン取ってくれ」
「はいはい。二階堂、ほれアーン」
「あー。ん、うまい」
‥俺は何を見せられてるんだ。
不破‥マカロンをあーんするな。過保護か。
二階堂もカパっと口を開けるな。自分で食え。
「俺、実行委員戻るわ‥」
「いってら〜」
「また部活でな」
もう実行委員の仕事なんてなかったがこの胸焼けのする甘ったるい空間から俺は一刻も早く離れたかった。
(うっ‥荒垣部長と樋口先輩に会いたい‥)
3人で過ごした平和な日々に思いを馳せながら俺は体育館を後にした。
おわり