それは本心(夏メイ) 大粒の雨と見間違いそうなほど落ちていくのは、ただの光の粒でしかないと思っていた。けれど、長年ファンとして活動を追っているとある歌手に言わせてみれば「星が落ちそうな夜は自分を偽れない」ものらしい。
しゃがれた声で淡々と語りかけるように歌う様が脳裏を過ぎる中、現実の俺はと言えば。
「どうせ仕事だからな……」
無機質な警察署の屋上に一人きり。肌を刺すような冷たさの風に打たれ、そこかしこで瞬くネオンなどお構いなしに、吐く息が白くけぶる向こうで流れ落ちていく流星群を見つめる。小休憩を経て戻った後は、いつもより多少手強い厄介者への事情聴取が再開されるだろう。
俺の仕事は時間が勝負で、事件もイレギュラーも、何もかも待ってはくれない。
本来ならばこうして息抜きをする時間すらも惜しいのだけれど、お節介な後輩が「根詰めすぎですって!」と半ば強引に俺の背を押したものだから仕方がない。
今夜は流星群のピークらしい。
その現象はちっぽけな俺のぼやきになど構わず、唐突に姿を表しては儚い命を散らしていく。
ともすれば虚しさを覚えそうな自然現象をどことなく親しみを込めて見つめてしまうのは、ひとえに俺が「流星」の名を持っているからに他ならない。
(今更願い事なんて、柄じゃないしな……)
独り言ちた刹那、表情の変化に乏しい彼女の姿が脳裏を過ぎる。
「……いや、どうかしているだろ」
あまりにも唐突だった。こんなタイミングで彼女を思い出す謂れなどなかったはずだ。関係ない……関係ない、はずだ。
けれど頭の中から彼女を掻き消そうとしても上手くはいかなさそうだった。むしろ、一心不乱に目的を追う彼女の強い瞳の輝きが、今夜の流星群の光を思い起こさせるのだからある意味重症かもしれない。
今の彼女ならきっと、まっさらな心で流れる星々の天体観測を楽しむのだろう。物珍しそうに天を仰ぎ、目一杯に首を反らして、ひたすらにこの現象を注視するに違いない。
そう思うと何故だかたまらない気持ちになって、無意識のうちに取り出したスマホから、俺は反射的に彼女宛のコール音を鳴らした。
半ば勢いの行動にそれらしい意味なんかないから、もしも彼女との通話が叶った時は言い訳に苦心してしまうことは目に見えていた。
けれど相手が他でもない彼女なら、それでも良いのかもしれない。
何しろ、星が落ちる夜は自分を偽れないものらしいから。